魚ではなく“漁師”の生態図鑑がSNSで話題!!秋田の小さな漁師町が巻き起こしたムーブメントの実態に迫る

東京ウォーカー(全国版)

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魚ではなく“漁師の生態”を解説した図鑑が登場!

魚ではなく、漁師の“生態”を知る「漁師図鑑」をご存知だろうか。「漁師図鑑」とは、秋田県・にかほ市の15名の漁師にスポットライトを当てたフリー冊子である。気になる内容は、身長・体重、好きな魚、嫌いな魚など、漁師の個性が伝わるプロフィールをはじめ、得意な漁法、捕れる魚の種類などを掲載。あらゆるアングルから撮影された漁師と、その漁師が乗っている漁船の写真が散りばめられた紙面はまさしく図鑑そのもの。漁師の“趣味”や“好きな女性タレント”の情報もあり、SNSでは「おもしろい」「私も欲しい!」との声が多数寄せられている。

漁業の魅力が詰まった「漁師図鑑」【画像提供=一般社団法人ロンド】

紙面はまさに漁師の図鑑⁉️【画像提供=一般社団法人ロンド】


街の魅力を再発見できる「漁師図鑑」が、人と人をつないでくれる

ロンドの代表理事・金子晃輝さんにインタビュー【画像提供=一般社団法人ロンド】

そんな話題の「漁師図鑑」を制作するのは、地域資源を生かした持続的なまちづくりに取り組む「一般社団法人ロンド」。今回は代表理事の金子晃輝さんに取材し、企画が生まれるまでの経緯、制作の裏側や苦労、今後の展望などについて聞いてみた。

――漁師の“生態”を知る「漁師図鑑」。おもしろい試みですが、作ることとなったきっかけを教えてください。
【金子晃輝】伝統産業のひとつである漁業ですが、いま、後継者問題が懸念されています。そこでにかほ市が漁業の魅力を向上させるための企画を募集していたので、“まちづくり法人”として会社を運営する私たちも、漁業の魅力の向上、市内で採れる海産物の周知、そして販路拡大を図るための企画を提案しようというところから始まりました。

――「漁師図鑑」という企画は、どのように考えられたのでしょうか?
【金子晃輝】漁師さんの魅力の発信は、日本全国で題材となることが多く、他県では漁師カードを作るなど、すでにさまざまなPRが実施されています。最初は、某ドキュメンタリー番組風に仕立てた漁師さんのインタビュー動画や、市内に4つある漁港と漁船別で捕れる魚を説明する媒体の立ち上げなど、いろいろ考えましたが「それではおもしろくない!」と、腑に落ちず、約1カ月悩み続けました。ロンドメンバーの皆で企画会議をしていたある日「そういえば、魚の図鑑はあるのに、漁師の図鑑はないな…」と議題が上がったんですね。調べてみると、漁師さんを図鑑にしている事例はほかにはなくて。じゃあ、漁師さんをいろいろな角度から切り取り、まとめあげる「漁師図鑑」というものがあれば、市が考える漁業の魅力を向上させることにもつながるのでは、と思ったんです。

――約1カ月間、考え抜かれた企画だったんですね。こだわりの部分はどこですか?
【金子晃輝】にかほ市には、象潟、小砂川、金浦、平沢の4つの漁港があり、それぞれの漁港で捕れる魚が違うので、どんな船に乗って、どんな魚を、どうやって捕っているのか、そこまで細かく紹介することで、漁師さんの仕事に対する熱い思いも伝えたいと考えて制作しました。また、漁師さんだけでなく、捕れる魚の情報も掲載することで、街の魅力も伝わればいいなと思っています。

赤い表紙が目を引く【画像提供=一般社団法人ロンド】


――確かに、紙面から漁師さんの人柄とお仕事への思いが伝わってきますよね。制作中に大変だったことはありましたか?
【金子晃輝】漁師さんってとにかく朝が早いんですね。なので、インタビューが朝の6時からだったり、制作が秋から冬にかけてだったので、荒れやすい天候に左右されながらの撮影にも苦労しました。今回4つの漁港にご協力いただき、15名の漁師さんに取材をお願いしたんです。4つの漁港を行き来しながら、取材日までに事前質問を送り、当日インタビューと撮影をし、さらに漁船を空撮したりと、内容がボリューミーだったので、取材期間だけでも2、3カ月かかりましたね。でもこの取材を通して、漁師さんとのつながりが持てて、関係性を構築できたのでよかったです。

――完成後は、どんな反響がありましたか?
【金子晃輝】「こんな漁師さんがいるんだ」と、漁師さんの存在を知ってもらえたことで、街で新しいつながりが生まれたと思います。子どもたちからは、「にかほ市でこんなお魚が捕れるの知らなかった」という声が届いたりと、街の魅力を再発見できるだけでなく、漁師さんと地域の人をつなぐツールにもなっているようです。最近は「漁師さんだけでなく、農家バージョンも作ってほしい」というお声もいただきますね(笑)。

――農家図鑑もぜひ見てみたいです(笑)。いろいろな思いが込められた「漁師図鑑」ですが、どこで手に入るのでしょうか?
【金子晃輝】Web上でも一部インタビュー記事を公開していますが、冊子の「漁師図鑑」は、にかほ市に来ないともらえないんです。にかほ市観光拠点センター「にかほっと」、道の駅象潟「ねむの丘」、にかほ市で捕れた魚を取り扱う飲食店など、市内の各所で置いていただいています。おもしろいことに、飲食店で見ていただくと、お魚が異様においしく感じられるみたいで(笑)。飲食店の在庫はすぐなくなるんですが、ぜひチェックしてみてください。

主要な観光スポット、道の駅などで無料配布している【画像提供=一般社団法人ロンド】


にかほ市でなければ、「漁師図鑑」はできなかったかもしれない


――金子さんは神奈川県・大和(やまと)市のご出身だと聞きました。地元ではない秋田・にかほ市で「一般社団法人ロンド」を起業されたきっかけと、現在の活動について教えてください。
【金子晃輝】もともと大学在学中に、東京の多摩地域を中心とした地方創生・地域課題を解決する会社を起業していました。某広告代理店から、にかほ市のインキュベーション施設(起業家の育成・新しいビジネスを支援するオフィス)の事業にお声がけいただき、にかほ市へ訪れたのがきっかけです。ここへ来たとき、にかほ市の人の温かさに触れて「ここでまちづくりをしていきたい!」と強く思ったんです。ですが、人口の多い多摩地域と秋田のにかほ市では地域課題が違いますし、東京にいながら、この街の課題を想像しても解決できないのではないかと思い、にかほ市へ引っ越してきました。そして「一般社団法人ロンド」を立ち上げ、現在にいたります。いま、会社としては、インキュベーション施設「わくばにかほ」の運営をはじめ、地域内外の交流を創造するためのワーケーション企画や、伝承芸能の周知、自然を活用した新しい遊び方の提案など、にかほ市の地域課題を解決するための活動をしています。

――人の温かさに触れて移住を決意されたと思いますが、ズバリ、金子さんの思うにかほ市の魅力とは?
【金子晃輝】人が温かいのはもちろん、あとは、いつでもBBQができるところですね(笑)。例えば「今日天気いいな〜」って思ったら、市役所の方や漁師さん、地域の方など、いろいろな方に声をかけてBBQを始めちゃうんです。当日でも10人はすぐ集まりますし、最大30人の方が集まったこともあります。ちなみに、観光客の方も誰でも参加できますよ。首都圏でこうやってすぐ集合してBBQできませんよね。私が人と集まるのが好きなのはもちろんですが、常に“オフサイトミーティング”を意識していて、会社と離れた場所で自分の価値を共有できる場所が必要だと思っているのもあるんです。報・連・相ではなく、雑談からしか相談は生まれないので、交流の場があるからこそ、新しいチャレンジも生まれ、街と人が一緒に成長できるはず。街の魅力って、どこまでいっても人なので、今回の「漁師図鑑」も温かいにかほ市の人柄にフォーカスを当てたいと考えていました。いま思えば、にかほ市でなければ、「漁師図鑑」を作れていなかったかもしれませんね。

――今後「こういうことができたらいいな」という展望や夢はありますか?
【金子晃輝】「一般社団法人ロンド」として始まってまだ2年目なので、地域からすると、まだまだ余所者かもしれません。ですが、「漁師図鑑」をきっかけに、にかほ市の魅力的なものを地域内外に発信し、市の主要産業である製造業や漁業の雇用問題も解決していきたい。そして、新たな産業をひとつずつ作って、にかほ市に来てくれる人を増やせたらいいなと思います。

“漁チューバー”として活躍する漁師も!「ありがとう」を言われる場所へ自ら飛び出す

今回は、「漁師図鑑」に実際に登場されていている“漁チューバー”こと、佐々木一成さんにも取材。漁師を目指したきっかけやいまの活動のこと、今後の夢について話を聞いてみた。

「漁師図鑑」に登場している、佐々木一成さん【画像提供=一般社団法人ロンド】


――佐々木さんが漁師を目指されたきっかけについて教えてください。
【佐々木一成】漁師だった父に憧れ、学生のころから漁師を目指していました。ですが、父には「ダメだ!」とずっと反対されていて。当時は認めてくれないことが辛かったのですが、いま振り返れば、いいことも悪いことも経験し、50年以上漁師を続けていた父にしてみると、「子どもには継がせたくない」という気持ちが強かったんだと思います。年々、漁獲量が減少し、魚の価格も安くなり、「自分と同じ苦しい思いをさせたくない」という親心だったのかなと思います。

――漁師の夢をお父さんに反対されてからは、どうされたのですか?
【佐々木一成】実は反対されたのにはもうひとつ理由があって、僕にとって漁師という道は最終手段であって、漁師を目指すのは逃げの気持ちなのでは?と父に見透かされていたんです。「そんな気持ちだと一人前にはなれない。その前に社会に出て、自分の見識を広げてこい」という父からのメッセージもあり、就活では「いつか漁師になったときに役立つ経験をしたい」と考え、大学卒業後に神奈川県の魚屋さんに就職しました。魚屋さんで働くのは、想像以上にハードで。朝は6時から夜は21時まで、遅い時は23時まで勤務していました。ですが、頑張って働いていた1年目の3月に、突然、父が病死しまして。父の死をきっかけに地元へ帰り、漁師になりました。そして、いま、10年目になります。

漁師になるまでのストーリーを語ってくれる佐々木さん【画像提供=一般社団法人ロンド】


――お父さんの死をきっかけに、漁師になられたんですね。お父さんの言葉どおり、一度社会に出られてから、漁師になったことについてはどう感じられますか?
【佐々木一成】漁師だと魚を捕って終わりですが、魚屋さんは魚と食べる人をつなぐことが仕事。消費者に届けるという体験ができたのは、貴重な経験でした。当時、お客様から「おいしかったよ」など感想やお礼を言われることが多かったので、「漁師になったら『ありがとう』って、もっと言われるんだろうな」と想像していましたが、全然そんなことなくって。それが漁師になってからの驚きでした。漁師が取り引きするのは、魚屋さんや飲食店の方なので、消費者の反応が見えないんですね。そんなタイミングで、生産者から産地直送の商品が届く通販「ポケットマルシェ」のサービスがあることを知り、すぐに始めてみました。

――そんな画期的なサービスがあるんですね。「ポケットマルシェ」を始められたとき、どんな反響がありましたか?
【佐々木一成】こちらでお魚が捕れた翌日には消費者のもとへ届くので、「鮮度が違う」「生臭さが全然しない」「アジを食べたら、スーパーのものと甘味が全く違う」など、魚のおいしさに感動したという声をたくさんいただきました。通常、スーパーに並ぶお魚は捕れてから3、4日経っていることもあるので、ほかにはないサービスだと思います。鮮度の違いをはっきりと感じてもらえて「販売してよかったな〜」と感じますね。

――それはうれしい反響ですね。「ポケットマルシェ」は、消費者の方の声が直接生産者に届くんですか?
【佐々木一成】はい、届きます。こちらから消費者の方へ「注文ありがとうございます」、「発送しました」などのメッセージを送ると、「おいしかったよ」という感想や「今日はちょっと魚小さかったね」などの率直な意見をもらえるんです。漁師になると「ありがとう」の言葉を言われる場面がないので、やっぱりその言葉をもらえるとうれしい。ほかの漁師の方には「こんな仕事なんて…」と嘆く方もいますが、「ありがとう」と言われる場所へ自分から積極的に出ていくことも大切だと思いますね。

漁業の様子を動画で撮影【画像提供=一般社団法人ロンド】


――漁師さんも積極性は重要なんですね。ちなみに、佐々木さんは“漁チューバー”としても活動されているとのことですが、どんな動画をアップされていますか?
【佐々木一成】魚を捕るところから、調理するまでを動画で紹介しています。2020年3月に「ポケットマルシェ」を始めた当時、調理法を紹介する動画はありましたが、魚がどうやって捕れるのかという部分を知る動画ってないなと思って。商品と合わせて、漁業のリアルな現場もお伝えできれば、魚の鮮度感や、おいしさの感じ方も変わると思い、動画の投稿を始めました。約2年前からチャンネルを開設しましたが、撮影と編集が思いのほか大変で…。ついつい後回しになってしまいます(笑)。

――では、最後に今後やってみたいことはありますか?
【佐々木一成】「魚のさばき方を知れる場所がない」というお声を聞くので、“お魚のさばき方教室”をやってみたいです。さばき方の動画も多数ありますが、やっぱり、骨の位置や包丁の入れ方って直接聞かないと難しいと思うんです。魚をさばくというハードルを下げるためにも、教室は開催してみたい。その教室で「包丁はこれがいい」「匂いが出ないゴミの処理方法」など、魚にまつわる情報もお伝えできれば、魚の消費量を向上させることにもつながるのかなと考えています。いろいろな活動を通して、いつか「佐々木さんの捕ったお魚だから食べたい!」と言ってもらえるようにチャレンジし続けたいですね。

この記事のひときわ #やくにたつ
・魚の図鑑はあるのに、漁師の図鑑はない…“世にないもの”はヒットのチャンス
・「ありがとう」と言われる場所を探し、自分から出ていく

取材・文=左近智子

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