「ちょっと今から仕事やめてくる」成島監督インタビュー 寄り添いながら優しく背中を押してくれる作品
関西ウォーカー
70万部突破のベストセラー小説を映画化した「ちょっと今から仕事やめてくる」が全国公開中。本作でメガホンをとったのは「八日目の蟬」(2011年)、「ソロモンの偽証」(2015年)など、人間ドラマを描くことに定評のある成島出監督だ。当初は脚本のみでの参加だったが、自らの意思で監督を希望したという。その決意の裏には何があったのか。また、本作で新たな役に挑戦した福士蒼汰・工藤阿須加について、成島監督に話を伺った。
本作は、長時間労働、ブラック企業、パワハラ、自殺など現代社会が抱える問題を描いた作品。ブラック企業に勤める青山(工藤阿須加)は、仕事のノルマから精神的に追い詰められ駅のホームで意識を失い電車に跳ねられそうになるが、幼なじみのヤマモト(福士蒼汰)と名乗る男に助けられる。それがきっかけでヤマモトと交流がはじまり、青山は次第に明るさを取り戻していく。そんなとき、青山はヤマモトが3年前に自殺していたことを知ってしまうというストーリー。謎の男・ヤマモトを演じた福士は、本作で初の大阪弁での演技に挑戦。ブラック企業で働く青山を工藤が演じている。
原作を紹介されたとき、「ソロモンの偽証」のようなヘビーな内容を想像していた。しかし、読み進めると想像とは違うところに着地して待感があったと話す。決して無理をして前を向く必要はなく、寄り添うようにそっと背中を押してくれる。読んだ後にそう感じた成島監督は、原作に惚れ込み脚本のみの参加から自らメガホンをとることを決意。
「青山を支えるヤマモト、そしてヤマモトも青山に支えられていたと物語が進むにつれ明かされていき、友情が五分五分になる様子が丁寧に描かれているところに魅力を感じました。優しくそっと背中を押してくれる、原作の読後感を映画でも意識しました」。
青山が務める会社は、いわゆるブラック企業。上司の山上(吉田鋼太郎)から強烈なパワハラを受ける青山。その異様な光景は見ていて辛いものがあるが、青山と同じサラリーマンなら共感できるはず。青山が働くシーンで成島監督が特に描きたかったポイントは、青山が山上にパワハラを受けているときに周りが黙っている状況だと話す。
「外国の人が見るとありえない光景だと思う。本当は言い返すなり騒げばいいはずだが、それができないのが日本人。もし言い返せば自分のところにくる。この異様な光景に警鐘を鳴らしたいと思っていました。本当は声をあげるべきだと」。
本作の魅力は、リアルな描写と感情移入しやすいキャラクターにある。ヤマモトと青山を演じた福士と工藤は、完璧に役を自分のものにしている。2人の起用はシナリオの段階から決まっていたそうで、成島監督が監督を希望した理由のひとつにもなった。
「2人とも与えられたイメージの役をやってきて、こういう役ははじめてだと思った。役に飢えている時期だから、はまるんじゃないかなと思いました」。
成島監督は、2人に表面的な演技を絶対にしないことを命じた。それを受けた福士は、大阪弁を自分のものにするため猛特訓。他の現場の空き時間にも練習していたそう。工藤は自前でスーツを購入し、自分の体に馴染むようスーツを着て過ごすなどし、役を自分のものにしていった。
「福士くんの大阪弁はシナリオの時点で間違った方言にならないようにしました。デビューしたての頃に極道ものの作品を手がけていたため、大阪弁は問題なかった。設定としては吹田ぐらいにしたつもり(笑)工藤くんはスーツ姿がしっかり馴染むように役作りしてくれた。劇中でも彼の自前のスーツが出てきます」。
脇を固める個性豊かなキャストも注目だ。青山の上司、山上を演じた吉田鋼太郎は、見事なパワハラ演技を披露。女優陣は、成島作品の常連が顔を揃える。「ソロモンの偽証」で先生役を演じた黒木華は青山の先輩・五十嵐を、「八日目の蟬」に出演した森口瑤子と小池栄子も重要な役を担う。このキャスティングには成島監督の狙いがあった。
「新しい役に挑戦する福士くん、工藤くんを成島作品の常連組が支えることで作品が安定する。固定メンバーを起用するのは、日本映画の美学。過去の作品とリンクする役柄で起用しているので、次は吉田さんに優しいおじいちゃんの役をやってもらうかな」
成島監督は本作を青山と同じ境遇の人ではなく、その周りの人に観てほしいと話す。
「青山と同じ境遇にいるような人は映画を観に行く時間すらないので、映画を観ることができないかもしれない。だからこそ周りの人に観てほしい。もし大切な人が青山のような目をしていたら声をかけてあげて。周りの人から広がっていけばいいなと思っています」。
本作で一番こだわったのは、青空だと話す成島監督。劇中の青空は、ヤマモトのキャラクターや彼の影響で次第に明るさを取り戻していく青山の心情にも重なる。本作は原作に惚れ込んだ成島監督だからこそ、描くことのできた作品と言える。現代で働く全ての人が共感できる作品を手がけた成島監督の目は、純粋そのものであった。
【関西ウォーカー編集部/ライター山根 翼】
山根翼
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