“鳴くよ”から1200年の時を経て。30年愛される「そうだ 京都、行こう。」が「そうだ 京都“へ”行こう。」ではない理由
東京ウォーカー(全国版)
広告史に残る名キャンペーン「そうだ 京都、行こう。」。1993年に始まり2023年には30周年を迎える同キャンペーンは、どんな思いから生まれ、創作されているのか。舞台裏を知るべくJR東海の担当者、福井更彩(さらさ)さんに話を聞いた。

衝動的に行きたくなる気持ちを表現
――「そうだ 京都、行こう。」キャンペーンが生まれた経緯などを教えてください。
【福井更彩】「そうだ 京都、行こう。」は、“鳴くよウグイス平安京”で有名な794年平安遷都の1200年の節目に向けて、1993年の秋に始まりました。首都圏から京都へのお客様の旅を目的としており、春夏秋冬のベストシーンにポスターやテレビCMなどを展開。加えて旅行商品を販売しています。

――制作秘話について、まずはキャッチコピーに込められた思いを教えてください。
【福井更彩】たとえば、ある日ふと「京都に行きたい」と、思い立つ気持ちを表現するべく「そうだ 京都、行こう。」になったと、当時を知る先輩から聞いています。そのため、「よし」といった計画的な意思表示ではなく「そうだ」と、衝動的に行きたくなる気持ちを後押しするようなフレーズが用いられました。

それは問いかけるでもなく、だれに話すわけでもなく、一人称としての思いをライトに表現したキャッチコピー。思い立ったら新幹線に乗って、気軽に京都へ行っていただきたいという私たちの思いも込められています。
コンセプトとしては、基本を変えることはありません。そのうえで、各シーズンにしか体験できないこと、見られない景色、トレンドなどを特に意識しています。今季ですと、やはり紅葉。トレンド的なコンテンツには、たらし込みアートやトゥクトゥクなどがあります。

――今季のサブコピー“「秋が待ち遠しかった」と語る人は今年きっと多い。私がそうであるように。”も印象的です。
【福井更彩】コロナ禍により「旅に行きたい。でも行けない」という方は多かったと思います。その思いを表現しようと、話し合った中で決まりました。
なお、毎回写真は前年に撮影して翌年使うのですが、今回のものは2019年の撮影分です。2020、2021年は当社も大々的なキャンペーンを打っておりませんので。その意味では、「私」には我々も含まれるかもしれません。

「そうだ 京都“へ”行こう。」ではない理由
――「そうだ 京都、行こう。」以外に検討されたコピーはあったのでしょうか?
【福井更彩】具体的には聞いてないですね……。ただエピソードとして、当時の幹部から「『そうだ 京都“へ”行こう。』じゃないの? “へ”は要らないの?」と質問があったと聞いています。
こちらもやはり、“へ”を入れると計画的なニュアンスが出てしまうのではないかと。幹部の方にもその点を説明のうえ「なるほど、確かにそうだよね」と納得いただき、決定したと聞いています。
――BGM「My Favorite Things」も有名ですが、ほかにどんな曲が検討されたのでしょうか?
【福井更彩】平安京遷都の節目とはいえ、BGMは最初から海外の楽曲で検討し、ほかに対立候補はなかったと聞いています。
決め手となったのは、「京都に再び注目して、好きになっていただきたい」というキャンペーンの狙いや思いと、「My Favorite Things」の日本語訳がそのまま「私のお気に入り」であること。京都を新しくまたこの時代に位置付けたいと願う、私たちの企画と完全に合致していたからです。

――福井さんにとって、京都とはどんな存在ですか
?
【福井更彩】新旧の魅力が実に奥深く、尽きない場所ですね。「そうだ 京都、行こう。」を長年支持いただけているのは、京都が何度訪れても飽きないからではないかなと。私たちにも毎回新しい発見がありますし、尽きることのない京都の魅力をお伝えしたいと思っています。

京都の紅葉はグラデーション的に展開される
――企画を継続するために大切にしていることは?
【福井更彩】前述の話と重複するかもしれませんが、京都の世界観を大切にしつつ毎回新たな視点から発信することです。毎年のように訪れている方、久しぶりの方、初めての方。全世代、すべてのお客様が、存分に京都の魅力を体験していただけるように心がけています。

2022年は神護寺をメインビジュアルに起用させていただきました。清水寺などは何度か起用していますが、毎回伝えたいテーマは若干異なるので、見せ方やコピーも違っているかと思います。

今回、神護寺を取り上げた理由は、このお寺近辺の高雄エリアが特に早く紅葉を迎えるからです。3年前の写真ではありますが、京都の紅葉は広域にわたってグラデーションのように展開されていくということをお伝えしたいと思いました。
実は突発的にスタートした初回キャンペーン
――約30年続くキャンペーンの中で、印象に残っている回は?
【福井更彩】ひとつは、まさに今年の秋。直接携わっていることも大きいですが、3年ぶりという機会でもありますし、その分の思いや熱量が込められていると自負しています。
もうひとつは1993年の第1回です。京都に光を当てようと奮闘した先輩たちの思いがクリエイティブからも伝わってきますし。それでいて、実は初回だけは前年に撮影していないとか。今では1年間かけてじっくり作りますが、当時は比較的急に決まったそうなんです。

清水寺のメインビジュアルも、晩夏の夕暮れ時などに撮って秋らしく演出したとか。でもそうして始まった企画が多くの支持を得て、今私たちへと受け継がれている。平安遷都1200年を機に、京都を旅行で盛り上げていきたいと四苦八苦した先人の情熱が伝わってきて、ナレーションの「京都は1200年目の秋です。」など、何度見返しても初回の作品は特に感動します。

――最新作の制作秘話を教えてください。
【福井更彩】ビジュアルを撮影した2019年時に私は関わっていなかったので、当時のクリエイティブを生かしつつ今年の作品として表現していくことに注力しました。2年ぶりということもあり、かなり燃えましたね(笑)。
具体的には、コピーやナレーションはどのタイミングで入れるか。BGMも「これだと響きわたる感じが少し足りないよね」など、どの部分をどう入れて、どう盛り上げていくか。挿入タイミングに関してはコンマ数秒まで試行錯誤しました。それらをうまく仕上げるのが非常に難しかったです。

CM動画は発表会(2022年9月22日)でお披露目する計画だったので、キャンペーン開始日(2022年10月1日)の数日前には完成させなければなりませんでした。でも締め切りの前日ぐらいまで編集作業を行っていましたね。
――今季のキャンペーンがスタートしましたが、反響はいかがですか?
【福井更彩】今年の「そうだ 京都、行こう。」秋編は10月1日からスタートしているのですが、SNSなどでお客様の声を見ると、好意的な声が大変多くてうれしいですね。サブコピーどおりに「待ち遠しかった」というコメントも見られ、明るいニュースとして捉えていただいていることに感激しています。
テレビCMは公式のYouTubeチャンネルでも配信しているのですが、再生回数がすでに450万回以上。また、無料の体験周遊型イベント「謎解き×観光ガイド 鳥獣戯画と京の足跡」ではクリアした方にグッズをプレゼントしていたのですが、1カ月を想定して用意した量が1週間でなくなってしまうなど、反響の大きさを感じています。

おすすめの車窓は浜名湖と米原
――京都に行く人へ向けて、東海道新幹線の車窓でおすすめの景色を教えてください
。
【福井更彩】ひとつは、晴れの日の浜名湖です。キラキラと輝く水面が非常にきれいで、おすすめですね。もうひとつは冬の米原。雪がかなり降る地域なので、あたり一面が真っ白に染まるんですけど、あの雪景色は東海道新幹線における冬の風物詩だと思います。
ほかに豆知識でいうと、富士山は上りでも下りでも、必ず2列シート側から見られるようになっているんですね。ただ静岡付近で1カ所だけカーブがあり、3列シート側でもよく見られる瞬間が訪れます。ぜひその地点をチェックして、写真などを撮っていただけたら。
――最後に、今後の展望を教えてください。
【福井更彩】2023年はいよいよ30周年を迎えますので、より大々的なキャンペーンを打ちたいと考えています。今年も最高の企画になったと自負していますが、やはり来年はさらに上回るものを作っていきたい。お客様の期待も大きいでしょうし、プレッシャーも感じていますが、来年はまた新しい京都の魅力を発信できるよう、頭をフル回転させて取り組もうと意気込んでいます。

具体的にはまだお伝えできないのですが、2023年の夏前には、今までとは少々異なる形で展開する企画を検討中です。ご期待ください!
この記事のひときわ
#やくにたつ
・キャッチコピーに込める思いの表現は、細部のニュアンスまでこだわる<br />・同じテーマでも視点を変えれば新たな発見がある<br />・企画を継続するためには、現状を上回るものを作りたいという気持ちが大切<br />
取材・文=中山秀明、撮影=齋藤ジン
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