企業にいながら起業!「eyeforthree」が目指す、世界から失明をなくすための事業とは

東京ウォーカー(全国版)

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ロート製薬の目薬ボトルの廃プラスチックをアップサイクルし、サステナブルなサングラスや眼鏡を販売する「eyeforthree(アイフォースリー)」。代表を務める長岡里奈さんの「世界の貧困問題と廃プラスチックの問題を解決したい」という思いと、ロート製薬の社内ベンチャー制度「明日ニハ」がマッチしてプロジェクトがスタート。現在もロート製薬のマーケターと社会起業家の二足のわらじを履きながら活動する長岡さんに、起業のきっかけや「eyeforthree」誕生の背景、今後の展望について話を聞いた。

今回お話を伺った「eyeforthree」代表の長岡里奈さん。2019年ロート製薬入社、2021年「eyeforthree」設立【撮影=福羅広幸(兄弟エレキ) 】


インドの健康問題に衝撃。リサイクル石鹸をスラムに配る活動を実施して見えた課題

【写真】ベーシックな健康が貧困によって叶わないのは世界的な問題だと語る長岡さん【撮影=福羅広幸(兄弟エレキ) 】


ーーまずは長岡さんの経歴について、起業にいたるきっかけを教えてください。
【長岡里奈】高校生のころから海外で働きたいと漠然と思っていて、慶応義塾大学の総合政策学部在学中の2年次にボランティアとしてインドに約6週間行きました。そこで日本との価値観の差、貧富の差を目の当たりにしました。物乞いの方や、歩けない方のすぐ横をバイクがすごいスピードで通ったりしていましたが、一緒に同行していたインドの富裕層の方は特に問題意識を感じていなくて、ショックを受け、泣いてしまいました。ですが「泣いているだけで何もできないじゃないか、それは偽善だ」と言われてしまいました。一体何が正しいんだろうというか、自分に何ができるんだろうとすごく感じました。

ーー自分の価値観がインドでは全く通用しなかったと。
【長岡里奈】そうなんです。大学に帰ってからは開発学などを学び、大学4年次に3回目の渡印。その際は半年休学してインターンという形で行きました。スラム街に行って現地の方々と話をしていると、「石鹸を買ってほしい」という声がすごく多く、調べてみると、当時インドの5歳未満の死因の1位が下痢だったことに衝撃を受けました。どうしようかと考えたときに、ホテルでゲストが一回使っただけで捨ててしまう石鹸をリサイクルして、スラムの子どもたちに配ろうと思いつきました。

ーー具体的にどのような活動を行ったのでしょうか?
【長岡里奈】現地でリサイクルを行うスタートアップがあったので、事業のひとつとしてスタートさせてくれないかお願いをして協力してもらったり、さらに日本で、インドでリサイクルした石鹸を日本人がひとつ買うと、ふたつがインドで配られるというクラウドファンディングも行いました。本当はこの活動をずっと続けていきたかったのですが、半年しか休学していなかったので、日本に帰らなければいけなくなってしまったこと、送料がものすごくかかるということなど経済的な持続性の問題のほか、自分自身がインドにいなければ事業が成り立たないといった理由で、単発のプロジェクトで終了してしまいました。これはすごく課題だなと感じ、現地でしっかり経済的に持続できるビジネスをして社会貢献がしたいと強く感じました。

想定外の早さで「eyeforthree」を起業!

ーーロート製薬に入社された当時から起業しようという思いはあったのでしょうか?
【長岡里奈】大学時代から起業している友人がいたり、起業するということ自体に肯定的な時代背景でもあったので、新しい事業を起こしたり、起業して社会に貢献するということがすごく魅力的だと感じていました。選択肢のひとつとして、何年かロート製薬で働き、独立したいなとはボヤッと考えていました。ただ、2019年の入社段階では社内起業制度がなかったので、こんな風になるとは思っておらず、想定外の早さでチャンスが回ってきたという感じです。

ーー「eyeforthree」起業の背景を教えてください。
【長岡里奈】社内ベンチャー制度「明日ニハ」が2020年4月に始動し、希望者を募集していました。その趣旨が私の「Well-being(ウェルビーイング)」につながる事業領域だったので挑戦してみることに。もともと、途上国での貧困による健康課題、生まれに関わらずすべての人が健康ということに貢献したいなと考えていました。ではロート製薬のなかで何をやったらそこに近づくのか、というところはあまり具体的に思いつかなかったんです。「明日ニハ」の公募が始まった際、私が思う環境課題に対して、現在のロート製薬のリソースでできるアイデアをたくさん考えました。

ーー具体的なアイデアの内容を教えてください。
【長岡里奈】入社してから現在まで目薬の商品企画・マーケティング担当で、目薬の工場に行くことがたくさんあったんです。目薬は医薬品のなかでもより安全で高品質な生産環境が必要で、有効成分が保たれる作り方をしています。クオリティが高い分、どうしてもその品質保持のため捨てられてしまうプラスチックがあるということ、目薬の有効成分が紫外線で分解されてしまうことを防ぐため、容器にUV吸収剤が入っていることを知りました。紫外線というのは白内障や目の病気の原因のひとつとも言われていますし、実際にインドでは白内障で失明してしまう方が多いんです。そういった課題とロート製薬でできることが結びついたというか、これはサングラスに使えるのではないかと、アイデアだけですが考えつきました。実際に「eyeforthree」プロジェクトとして動き出したのが2020年5月のことです。

社会課題に対する思いを形にする社内ベンチャー制度

強力なパートナー会社の尽力と、ロート製薬社内のサポートのおかげで商品が完成【撮影=福羅広幸(兄弟エレキ) 】


ーーロート製薬の社内ベンチャー制度「明日ニハ」とはどのような制度ですか?
【長岡里奈】社会課題に向き合い、自身の思いとアイデアをもとに起業する社員の支援を行うことで、会社の枠にとらわれないマルチジョブな働き方を推進する制度です。もともとロート製薬では2016年2月に副業を解禁し、それをきっかけにビール会社を立ち上げた社員がいるんです。その社員がイチから事業を立ち上げることを経験する中でさまざまな学びがありました。そこで、ロート製薬でも事業化を目指す社員の思いを形にするサポートをしたいという思いから「明日ニハ」は生まれました。

ーー長岡さんは「明日ニハ」の一期生と伺いました。活動内容を教えてください。
【長岡里奈】まずはアイデアを形にしていく作業から始めました。大阪にある「山本光学」さんというサングラスメーカーがパートナー会社として協力してくれることになったのですが、プラスチックにはさまざまな種類があって、サングラスはアセテートやナイロンなどを使うことが多く、目薬のボトルにはPETが使われているんです。全く性質が違うのですが、私は知りませんでした。

ーー完成までに相当苦労されたと。
【長岡里奈】実際にやってみるとうまく成形できなかったり、金型から剥がれなかったり、白く結晶っぽくなり脆くなってしまうなど、さまざまな問題がありました。それを解決するため、山本光学さんはもちろん、社内のプラスチックに精通している社員に何度もお願いして会議に参加してもらったり、アドバイスをたくさんいただきました。一時期は金型を作るのもうまくいかない、成形してもうまくいかない、かなりハードルは高かったのですが、社内外の方々のサポートもあり、さまざまな工夫をして完成しました。私ひとりの力では解決できなかったと思います。

商品を通じて世界中の人々の健康を実現

「サステナブルなサングラス」「サステナブルなブルーライトカット眼鏡」はともに1万5000円【撮影=福羅広幸(兄弟エレキ) 】


ーー「eyeforthree」の製品について教えてください。
【長岡里奈】現在は「サステナブルなサングラス」と「サステナブルなブルーライトカット眼鏡」の2品を販売しています。「あなたの目も、あの子の目も、地球も守る」をコンセプトに、100%リサイクルプラスチックのフレームで地球環境に配慮しつつ、売上げの一部をインドの白内障手術に寄付しています。

ーー製品に関して特にこだわった部分はどこですか?
【長岡里奈】今はロート製薬の「アルガード®︎」という商品のボトルの部分のプラスチックの端材や、整形不良になってしまったものを粉砕し、整形し直して作っています。着色や塗装、混ぜ物は一切せず、100%リサイクルで作っているのがこだわりです。着色や塗装をしてしまうと、次にリサイクルしたいとなっても、異物が入ってしまってリサイクルできないという事態になってしまうので、循環的に使えるように工夫して作りました。

ーーデザインもかなりオシャレですね。
【長岡里奈】日本人に合うようにフラットなフロントデザインで、環境にいいということだけでなく、日常的に紫外線やブルーライトから目を守るデザインにこだわりました。3Dプリンターで形を作り、たくさんの人にかけてもらって鼻と耳の位置を何度も調整し、「今までサングラスが似合わなかったけれど、これは似合った」といううれしいお声もいただいています。

ーーパッケージにもこだわりがあると伺いました。
【長岡里奈】はい、サステナブルで心地よく使ってもらうためにこだわりました。100%古紙から作られた段ボールを使用し、工場内で出る端切れもリサイクルされます。また、通常はタグが付いていたり、緩衝用材などプラスチック素材が多く使われていますが、タグや説明書の記載事項をパッケージの内側に記載することで、タグレス・説明書レスを実現しています。これはロート製薬で説明書を紙箱の内側に書く添付文書レスという2022年からの取り組みよりヒントを得ています。

二足のわらじを履くからこその苦労と成長

70%リサイクルポリエステル素材を使用した巾着は眼鏡拭きにもなる【撮影=福羅広幸(兄弟エレキ) 】


ーーロート製薬の社員、そして起業家としての活動を両立させるのは大変なことと思います。
【長岡里奈】「eyeforthree」として動くのも、本業のロート製薬の社員として働くのも、両立するとどうしても時間が足りなくなります。また、マルチタスクになってしまうため当初はすごく大変でした。本業をおろそかにしてはいけないという気持ちがすごく強かったので、「睡眠時間を削る、土日も働く」ということしか思いつかなかったのですが、そうするとやはり心身ともに不調をきたしました。

ーーどのように乗り越えたのでしょうか?
【長岡里奈】「明日ニハ」の事務局のメンバーがメンターとして事業の相談に乗ってくれたり、上司からも「応援しているから困ったことがあったら何でも言ってね」と、たくさんの助言をもらえました。このようなサポーティブな姿勢なんだとわかってから、心のなかでの負担やプレッシャーがなくなり、本業も「eyeforthree」もすべてガムシャラに動くのではなく、より前に進むために何が一番重要なのか、今一番やるべきことに優先順位をつけて動くようになりました。社会人として当たり前のことかもしれませんが、この考えをより濃縮した期間で学べたということは、大変でしたがすごくいい糧になったと思います。

ーー苦労を乗り越えたことで、特に考え方が変わった点はありますか?
【長岡里奈】全部自分でやるのではなく、周りにアドバイスを求めると同時に、一緒に同じチームとして取り組んでいってもらおうと思うようになりました。社内の後輩に副業という形で手伝ってもらったり、環境問題について私と同じ価値観を持っている海外の先輩に業務委託という形でサポートしてもらったり。「eyeforthree」を前に進めるため、自分ひとりの力だけでなく、いろいろな人の力で進めていく分、本業と並行して進めていけるようになりました。

ーー二足のわらじを履くことで利点はありましたか?
【長岡里奈】ロート製薬で商品企画に実践的に携わっているからこそ、サングラスを作るときにどういうところにこだわったら喜んでもらえるか、マーケティングの方法を学ばせてもらっていました。この経験をせず、「eyeforthree」だけを起業していたら今の形になっていたとは到底思えません。「eyeforthree」はたくさんの方々に協力してもらいたいと思っているので、新しいことに挑戦したい、「eyeforthree」の目指す方向に共感してもらえる方がいらっしゃったら、どういう形でもいいので一緒に働けたらなと思っています。

国内での販売を伸ばし、インドの環境課題にもっと貢献したい

長岡さんによると、自分の性格は「よく言えば素直、悪く言えば空気が読めないところ」とのこと【撮影=福羅広幸(兄弟エレキ) 】


ーー仕事をするうえで、長岡さんが大切にされていることはありますか?
【長岡里奈】“素直にあり続ける”ということは変わらず持っていたいと思っています。自分に対しても、相手に対しても嘘をつかず、変にいいように見せたり、隠したりせずに、思っていることをしっかり伝えることを大事にしています。そうすると私の考えていることがみんな丸わかりになるので、親しみやすいし巻き込まれてくれやすい、手伝ってもらいやすい、という部分もあります(笑)。仲間に対しても、取引先に対しても、自分に対しても、しっかりと誠実で素直で、透明性を持って、等身大で働くということを大事にしています。

ーー今後、事業をどのように展開していこうと考えているか、今後の展望を教えてください。
【長岡里奈】現在は国内での認知度が低いので、より多くの方に知っていただく、そして販路をもっと広げて売り上げを伸ばしていきたいですね。もう少し中長期的なプランで言えば、インドで「形」として貢献したいと考えています。今はまだ商品を日本で製造し、日本で販売しているのですが、インドで廃プラスチックをリサイクルし眼鏡にして、インドの方々に安価で提供したいなと。これはもともと「eyeforthree」を始める際の事業計画のなかにアイデアとしてあり、なかなか準備が整わなかったのですが、ようやくインドのパートナー企業と準備段階に入ったところです。

ーー販路の拡大について、具体的な施策はありますか?
【長岡里奈】現状、オフラインの店は5店舗しかないのですが、これはあえて店を絞っています。通常の眼鏡屋さんに置いていても1万5000円という少々高価な価格設定ですので、なかなか手に取ってもらうことが難しいということ。また、エシカルなことに興味があるような方々が集まるお店に置いてもらって、「eyeforthree」のストーリーも丸ごと知っていただいて購入していただきたいと思っているからです。少しずつ、しっかり「eyeforthree」とマッチするような場所で販路を拡大していきたいです。そうすることで寄付も増えるし、廃プラスチック問題にもより貢献できるので、まずはそこに注力していきたいですね。

ーー「eyeforthree」を認知させていくために活動などはされていますか?
【長岡里奈】SNSを仲間と毎日更新しているので、そこから知ってもらえるよう間口を広げてやっています。自社ECサイトにも飛べるようにしているので、そこから購入していただいけることもあります。

ーー最後に、長岡さん自身の今後の野望を教えてください。
【長岡里奈】おばあちゃんになったときに、今の環境課題は解決されているかもしれませんが、そのときにはそのときの課題が発生しているはずです。その課題に立ち向かっている方々を応援できるような経験とかスキルなどを持った生き字引的な存在として、サポートできるようになりたいです。そのためにはもっと成長しないといけないし、もっとたくさんの経験を積まなくてはと思っています。

この記事のひときわ #やくにたつ
・今あるリソースと課題を結びつけることで新たなアイデアが生まれる
・より前に進むために何が一番重要なのか、優先順位をつけて動く
・嘘をつかず素直に思いを伝えることで、共感してくれる仲間が増える

取材・文=日高ケータ、撮影=福羅広幸(兄弟エレキ)

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