【寺島しのぶインタビュー】「これ、私!」と即決した傑作舞台で主演
関西ウォーカー
2011年にブロードウェイで上演され、高評を得たジョン・ロビン・ベイツの傑作「OTHER DESERT CITIES(アザー・デザート・シティーズ」。カリフォルニアの家にクリスマス休暇で集まった家族へ、作家の娘・ブルックが回想録の出版を伝える。それは、ずっと昔に封印し、互いに語らずに来た過去を赤裸々に描いたもの。政治家の父、作家の母は、娘と激しく対立し…。
緻密な演出で知られる熊林弘高のもと、寺島しのぶをはじめ、佐藤オリエ、麻実れいなど、演技派俳優が結集。演劇ファン必見の濃密な家族の物語を繰り広げる。
念願の熊林演出、自らとリンクするブルックの役柄、「演劇界のレジェンド」と呼ぶ共演者。「これ、私!」とブルック役での出演を即決した寺島は、自ら来阪会見へ臨むほどの熱意をみせる。超久しぶりの来阪会見では、作品への想いから熊林演出の楽しさ、自らのプライベートな家族の話にまでおよんだ。レアな会見の内容を紹介しよう。
Q:台本を読んで「これ、私!」と思われたとか?
この話は、家族の中のひとつの核となる大きな問題が書かれていて、それをもとに家族がバラバラになっていくんです。厳格な家庭の中で生まれ、母親と同じ作家の娘は、子供の時からここを出て行きたいなといつも思っている。リベラルな自由な発想を持っている子供と厳格な親の戦いを超えることで、家族の中での居場所や、自分の存在を自覚していく。
そういう部分は、私も小さい頃からけっこうありました。親の迷惑のかからないところで自分も好きなことがやりたいとしょっちゅう考えていました。でも、そこからは逃げ切れなくて、結局はそこに戻って行く。家族との縁はそう切り離せるものじゃなくて、初めはうっとおしい存在かもしれないけど、自分が大人になって初めて親の気持ちもわかるとか、だんだん無意識のうちに親と似てくるとか。そんな話なんですよね。
核となっているのは家族の話。シンプルに家族とは何かっていう普遍的な問題を感じ取っていただけるような作品になると思います。いわゆる洋物だと、それなりのセットがあって名前も日本人ではないですから、ちょっと引いちゃうっていうのはあると思いますが、きにならないようになる気がします。舞台上は、ほぼ何もない状態ですので、役者の力量に課せられてる部分が大きいです。そんな中で演技をさせていただくのは、久しぶりですね。
熊林さんって、あんまり仕事をしない演出家なんですけど(笑)、すごく才能があって、暇なら海外の演劇を観て、とにかく知識が豊富でいろんなものを取り込んでいる方です。だから、日本の演劇をやっている感覚がないです。
共演者もオリエさんや麻実さん、いわゆる演劇界のレジェンドみたいな方たちとご一緒できて毎日が刺激的です。レジェンドみたいな方々が熊林さんならやりたいっておっしゃってこの作品がある。それぐらいおもしろい演出をされるんですよね。今まだ本読みをやって、立ち稽古に入って何日かですけど、非常に楽しいです。
Q:セリフに毒やとげがある、いかにもユダヤ人作家らしい作品ですが、違和感はない?
私が読んでいて、これはちょっとって思うことがひとつもないのは、かなり役とリンクしているのかなと思います。私もけっこうシニカルな部分がある人間だと思ってます。他人だったらちょっと気を使って言う所を、家族だからこそ、肉親だからこそ傷つけたくなってしまう。この作品では母と娘の関係がすごく強いんですけど、母を超えられない、押し付けてくる母に反発していく。お互い同じ作家としてぶつかり合っている。でもこれを母親に言ったらダメだよね、母親もこの言葉を私に投げかけたらダメだよねっいう、禁止ワードみたいなのって、どの家族でもあるじゃないですか。私の中ではこの母娘の関係はすごくリアルです。
Q:1番楽しみにされてるのは熊林さんの演出?
それは1番ですね。前にもご一緒するチャンスが何回かはあったんですけど、なかなかタイミングが合わなかったんです。今回このお話をいただいた時に「あ、これが会うべくして会う作品だったのかな」っていうふうに思ったりもしていました。思いもつかなかった動きをさせたりするんですよね。ちょっとこうやってみてくださいっていうことが、ふっと腑に落ちたり。今、役者さんが好きにどうぞっていう演出家がすごく多いんですけど、そういうのではなく、緻密に緻密に演出してくださっています。毎日すごく楽しいし、充実してますね。
Q:これまで熊林さんの作品を観たことは?
そんなに観てないんですが、ワークショップには参加していたので、いつかご一緒したいなと思ってたんです。彼の舞台は、いわゆる洋物なんだけど、そんなにセットがないんです。そうすると、役者の肉体の表現に頼るしかない。役者にとっては過酷なんですけど、それがとても挑戦になっていくので、新鮮です。
Q:役者以外は入れない稽古とか?
出てる人たちも全員見られるわけではなくて、今日はこの人とこの人のシーンを1時間でやりますっていうと、他の人たちは入っちゃいけないんです。だから、熊林さんとあと2人だけ。別に張り詰めたシーンを作るっていうことではなく、「稽古って恥ずかしくない?」っていう考えなんですね。稽古場は役者が頑張って恥をさらす場所だから、それをあえて人に見せることはないし、出来上がって完成した時にお見せすればいいんじゃない?っていう感じの考え方です。それが非常に心地いいですね。稽古場っていろいろなことを考えてしまうので、邪魔が入らないのはありがたいです。そういう繊細さを持ってる演出家なんですよね。そういう外国人の演出家はたくさんいるんです。彼はTPTで演出をしてた時があるんです。TPTでやっていたデヴィッド・ルボーも集中して出演者のみしか入れない稽古だったので、もしかしたらその影響もあるのかもしれないですね。役者としてはすごくありがたいです。
Q:家族観は変わりましたか?
子供が生まれてからが一番、父と母と一緒にいる時間が長くなった気がします。私自身も、そういう親に対する反発みたいなものももうないですし、ありがたいの一言でしかないです。10代や20代の時は、全然そんなふうに思えなかったですし、これからまた変わるかもしれない。そうやって人生を歩んで、ちょっと自分を探す家族の話、誰にでも何か共通点が見つかるような作品だと思ってます。
Q:子供が生まれたことでどう変わった?
父と私の会話って今までほとんどなかったですけど、子供を通じて会話が生まれたりしています。彼のためにご飯会が開かれるんですが、結果、家族の輪が出来る感じです。子供がかすがいになってくれているような気はしますね。いろんな状況が家族の形を変えていくんだなと思います。
Q:お子さんをもたれて、お父さんお母さんの気持ちがわかるようになった?
はい。やっぱり愛情をいっぱい注がれて育ったんだなって、すごく思います。ちょっと前までは、弟の方が愛を注がれていたとか、そういう気持ちを持って育ってきていました。でも、そういうことでもなかったんだなぁ、と今は思います。
Q:ミステリー的な要素もある作品ですよね。
本を読んでいる限りでは、最後、家族の在り方を見つけて、ハッピーエンドで終わるのかなという感じには書かれてるんですけど、でもそれだけじゃねっていう感じだと思います(笑)。
Q:お客様へのメッセージを。
セットも含め、とてもコンテンポラリースタイルの、おしゃれな演劇になってると思います。その無の空間を埋められる先輩の役者さんたちと創るお芝居をできることがすごくうれしいですし、新しいものをちょっと見てみようかなという感覚で、足を運んでいただけたらいいなと思っています。
Q:出演作品の選び方とその思いは?
この仕事は絶対に代わりはいるんですけど、観終った時に、これは寺島しかできなかったよねって言ってもらえる作品に出たいなと思っています。時間が限られてるので、より研ぎ澄まして、これは逃したくないっていう作品をこれから先もやっていきたいなと思っています。
Q:舞台と映画とテレビの中で、どれが一番好きですか?
舞台が一番好きですね。
Q:舞台が一番なのは、なぜ?
舞台はお客さんとのセッションです。生身の人間がやるものを、生身の人間が観るっていうことが最高ですよね。一期一会感っていうのかな。
Q:観る時もやってる時も?
やっぱり演じてる方が楽しいです。映画はそこをちょっとクローズアップして空気感を作るので、そこはそこですごく好きです。
Q:大阪に来られた時、必ず行くところはありますか?
NHKの近くにある居酒屋さん。連続テレビ小説「あさが来た」の時に、教えてもらってから必ず行くようになりました。
【関西ウォーカー編集部/ライター高橋晴代】
高橋晴代
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