コーヒーで旅する日本/四国編|トライ&エラーこそロースターの醍醐味。松山のコーヒーシーンを牽引するパイオニア。「Cafe Crema」

東京ウォーカー(全国版)

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全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。瀬戸内海を挟んで、4つの県が独自のカラーを競う四国は、各県ごとの喫茶文化でも個性を発揮。気鋭のロースターやバリスタが、各地で新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな四国で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが推す店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

ビル2階にあるフロアは、元会社事務所を改装。南向きの窓からの陽光が心地よい


四国編の第1回は、愛媛県松山市の「Cafe Crema」。日本のスペシャルティコーヒー草創期に創業し、エスプレッソを主体としたロースタリーカフェとして、松山の新たなコーヒーシーンを牽引してきた先駆け的な一軒だ。店主の児嶋さんは、ほぼ独学で焙煎やブレンドに試行錯誤を重ね、地元の嗜好に応えながらオリジナルの味作りを追求。一方で、サービス業の経験を生かして、コーヒーファンを増やす取り組みを続け、長年、厚い支持を得てきた。開店以来、バリスタ、ロースターとして、コーヒーの大きな転機と変化の波を体感してきたパイオニアが、今も変わらず目指し続ける、この店のコーヒーとお客のいい関係とは。

店主の児嶋さん


Profile|児嶋厚樹 (こじま・あつき)
1974年(昭和49年)、愛媛県松山市生まれ。学生時代に訪れたコーヒー専門店でコーヒーの魅力を知り、そのままアルバイトとして約1年勤務。大学卒業後はシューズショップに勤務しながら、経営ノウハウを学び、結婚を機に本格的に開業を志し、2006年、松山市に「Cafe Crema」をオープン。愛媛県内ではいち早くスペシャルティコーヒーを取り入れ、界隈のロースターのパイオニアとして厚い支持を得ている。

理想のカフェを目指して、サービス業からバリスタへ転身

店があるのは雑居ビルの2階。入口はソフトクリームの看板を目印に

四国の西部の中核にして歴史ある城下町、観光地としても多くの人が訪れる愛媛県松山市。街なかを行き交う路面電車のターミナル・松山市駅、通称“市駅”の周辺は街の賑わいの中心だ。駅から東へ伸びる市内随一の商店街・銀天街の南にある「Cafe Crema」は、穏やかな界隈にあって隠れ家的な雰囲気が魅力の一つだ。「実は、人通りが多いのは銀天街の北側で、南側は裏通りのイメージ。開店前は、“飲食店には向かない”という声も聞きましたが、窓からの光の入り方が気に入って、直感的にこの場所に決めたんです」とは店主の児嶋さん。

創業以来、松山のコーヒーシーンの先駆けとして支持を得てきたが、意外にも、学生の頃までコーヒーは飲めなかったとか。今に至る原点となったのは、当時、同級生が連れて行ってくれたサイフォンコーヒー専門店だった。「このとき飲んだコーヒーが、当時の自分にはかなり衝撃的で。砂糖やミルクを入れてではありましたが、初めてコーヒーを飲むことができたんです。今思えば、喫茶店でなく“専門店”だったのが大きかったですね」。ここで味を覚えて以来、本格的にコーヒーに興味を持つようになったという児嶋さん。その後、店に通い始め、さらには自ら願い出て、アルバイトとして働くまでになった。

店の北側にある銀天街は、開業から半世紀を数える松山の街の中心地


卒業後は、シューズショップで10年間、販売やバイヤーを務めたが、「高校生の頃から接客の仕事に関心があって、どんなジャンルでもいいので、自分の店を持ちたいと頭の片隅で考えていました。接客のスキルやスタッフの教育、経理など、ここで経営のノウハウを学べたことは、独立に際して大きな財産になりました」という児嶋さん。一時はコーヒーの仕事から離れたものの、この間に出会った今の奥様がコーヒー好きだったことで意気投合。2人で方々の店を巡ったが、「自分たちが通いたいと思える店がなかった」と振り返る。

当時は、シアトル系カフェやエスプレッソが広まり始めたばかりの頃。松山には喫茶の老舗は多いが、新たなコーヒーカルチャーの波はまだ届いていなかった。そこで、「店をやるなら地元でと考えていたので、自分が気に入って使えるような場所を作ろうと思って」と一念発起。本格的に独立へ向けて動き始め、関東・関西のカフェやコーヒー専門店にも出向いて構想を練ること1年半。店のイメージを徐々に形にしていった。

本がずらりと並ぶカウンター席は、一人で過ごすのにもぴったり


ままならないからおもしろい、焙煎のトライアル&エラー

毎回記録するデータを元に、季節や気象条件によって焙煎プロセスを調整

「Cafe Crema」の開店にあたり、松山では当時まだ珍しかった、業務用のセミオートエスプレッソマシンをいち早く導入。さらにコーヒー豆は、島根の名店・カフェロッソを仕入れ先として考えていた。店主の門脇洋之さんは、ワールドバリスタチャンピオンシップで準優勝2回。日本を代表するバリスタの第一人者だ。ところが、仕入れの相談に訪れたつもりが、店の方向性が大きく方向転換することになる。「最初はバリスタの仕事を主に考えていたんですが、門脇さんから“焙煎してみたらおもしろいですよ”と薦められて。急きょ焙煎と豆の販売を店の計画に組み込んだんです。今思えば、その後の人生を変える出会いでしたね」と振り返る。

実際の焙煎作業については、ほとんどぶっつけ本番。以前、アルバイトしたコーヒー専門店の先輩に付いて現場に立ち会い、見よう見まねで基本を習得。開店の告知もしていなかったため、店を切り盛りしながら、半年くらい試行錯誤しつつ、徐々に技術と感覚をつかんでいった。焙煎の際は、温度変化を1分ごとにチェックし、条件によって細かくデータを蓄積。一方で、コーヒーを残したお客の反応を細かく拾って修正を繰り返す日々が続き、1年を迎えた頃からようやく軌道に乗り始めた。

ブレンドは定番5種と季節限定アイテムも提案。シングルオリジンも10種と幅広い


「焙煎のデータは今も手書きで取っています。以前は記録をすべて残していましたが、今は保存するのは1年前まで。過去にはとらわれず、前だけ向いて進化していくつもりで。むしろ、決まったプロファイルに沿って焼いても、決してその通りには仕上がらないし、だからこそ飽きることはないですね」と児嶋さん。開店以来、トライアル&エラーは続き、途中でガスの供給が都市ガスから天然ガスに変わったときは、火力が全く別物になったことで、蓄積したデータをすべて捨てて一からやり直し、という苦労も経験した。

それでも、「焙煎はやってみないとわからないし、遠回りもまた楽しい。時々で自分の感覚も変わるし、失敗から生まれる発見も多いので、人のやり方を真似してみたり、ちょっとセオリーを外してみたり、頭でっかちにならず今もいろいろ試しています。そもそも、スペシャルティコーヒーは収穫年や畑の場所、バイヤーによっても品質が異なるから、味の再現性はほとんどないようなもの。だから根底の味がブレなければいいという感覚。豆の質と焙煎度を組み合せるパズルみたいなものですね」。常に新しい味を探しながら、いろんな豆との出合いを楽しむことが、今も変わらぬロースターとしてのモットーだ。

焙煎の記録用紙には、びっしりと数値が書き込まれている


10年かけて実現したロースター本来のスタイル

ホットコーヒーはペーパードリップ、アイスコーヒーはエアロプレスで抽出

とはいえ、昔ながらのコーヒーの苦味が定着している土地柄もあって、当初、スペシャルティコーヒーの特徴的な酸味は、お客にはまだ馴染みがないものだった。「ハイローストくらいだとまったく受け入れられなくて、最初はすごく敬遠されましたね」と苦笑する。それゆえ、看板のクレマブレンドは、丸みのあるチョコレートフレーバーと余韻の甘味を感じる中深煎りに。さらに、それより深煎りのチャコールブレンドも定番で用意し、地元の嗜好に応えている。片やシングルオリジンは、浅めの焙煎まで幅を広げて、多彩な酸味の個性を打ち出し、お客の好みに合わせた提案に腐心する。

女性客に人気のカフェラテ650円。現在のエスプレッソブレンドにはロブスタ種の豆も配合し、ビターなコクを加味している


ただ、当初は夫婦でカフェのすべてを切り盛りしていたため、豆の販売に力を入れる余裕がなかった。まだ焙煎に自信が持てなかった頃は、豆の販売が1キロを切る日もあったとか。それでも、焙煎機を直火式から半熱風式に変え、機体の火力をアップしたことで味作りが格段に安定し、豆の販売やギフトの需要も劇的に増加。店頭販売が大半を占めるだけに、少量焙煎で新鮮なうちに提供できるメリットを生かして、ロースターとしての認知度を広げてきた。さらに、開店からしばらく定期的に店で開催していたコーヒー教室が、お客との距離を縮めるきっかけに。長年、接客業で培った経験を生かし、自宅でコーヒーを淹れる楽しさを広めると同時に、お客との貴重なコミュニケーションを通して、自らの課題を見つけ、店の方向性を考えるヒントを得てきた。

豆のパッケージやロゴなどのデザインも児嶋さんが手掛ける


その甲斐あって、以前は売上の約8割をカフェが占めていたが、現在は豆の販売が半分近くにまで伸びている。「はじめは、お客さんのニーズを満たすことに必死で、“何でも屋”みたいになりかけていました。オープンしてから5年ほど経つ頃に、コーヒー屋ならコーヒーをちゃんとしようと思い立って、やるべきことに時間をかけて、店のあり方も変えてきました」と児嶋さん。フードメニューを少しずつ減らし、代わってコーヒーのお供となるスイーツを充実。ぽってりとした富士山型のプリンをはじめ6種のケーキや、児嶋さんが子供の頃に好きだった味を再現した、こだわりのソフトクリームなど新作も相次いで登場し、いまや店の名物として定着している。

“この人が焙煎したから”と、求められる味作りを

穏やかな酸と余韻の甘さが染み入るクレマブレンド550円。ケーキはドリンク+550円でセットに。道後の平飼い卵を贅沢に使ったクレマプリンはまろやかな甘味が後を引く

児嶋さんがあるべき店作りを進めている間にも、年々コーヒーの産地や個性も多様化してきたが、児嶋さんにとってカッピングスコアや希少性がそのまま、“おいしさ”につながるわけではない。「豆の選択肢は開店時に比べたら遥かに広がりましたが、小さな店なので、違いを出すためには店のキャラクターが大事。もちろん品質も追求しますが、同じ豆でも“うちで買ってよかった”、“この人が焙煎した豆でないと”と思ってもらえるように。むしろ豆のグレードを下げてでも、焙煎やブレンドで独自の味作りを目指したい」という姿勢は、一貫してブレることはない。

「お子さんでも食べられて、長く愛されるメニューに」という自家調合のソフトクリームは、ミルキーなコクとさっぱりとした甘さが好評。エスプレッソ&ソフト450円のほか、コーヒーフロートでも楽しめる


その思いは、コロナ禍を経てさらに強くなったという。「この3年は、改めて自分の仕事や店のあり方を見直し、長年支えてもらったお客さんに対するありがたみを感じました。また、今まで扱ってきた豆が、手に入らなくなる可能性というのも意識させられました。そのときに、どんな豆でも上手く焼ける方法を持っておかないといけないし、原料の質に関わらず“この店・この人が作るから”という味への信頼を作る必要があります。その上で、幅広いニーズに寄り添える店でありたい」と、気持ちを新たにした児嶋さん。開店からの13年は、コーヒーシーンに新たな波が次々に現れた大転換期。その中で、地元の嗜好に寄り添いつつ、虚心にコーヒーと向き合い、常に試行錯誤を重ねてきた。

Cremaの店名には、「エスプレッソがおいしい店に」との思いが込められている


近頃は、店と共に重ねた時間の蓄積を感じることが多くなったそうだ。「自分がやりたいことを、多くの人に支持してもらえているのは、本当にありがたいこと。時に、学生時代に来てくれた方が結婚して子供を連れてきたり、元スタッフが訪れてくたりするのもうれしい。長く続けていると、そういう楽しみがありますね。この4,5年で松山にもまた新たなコーヒー店が増え始めましたが、僕自身は最近、古い喫茶店によく行くようになりました。新しい店にはない、どことなく落ち着く感覚は、その店の歴史が作るもの。ここも、そんな時間の経過が感じられるような場所にしていきたいですね」

「ずっと街なかでやってきたので、先々は開放的な自然の中で店ができればいいなと思っています」と児嶋さん


児嶋さんレコメンドのコーヒーショップは「Barrel Coffee&Roasters」

次回、紹介するのは、愛媛県今治市の「Barrel Coffee&Roasters」。
「店主の高橋君は、うちとほぼ同じ時期に松山で開業して、界隈のコーヒーシーンを盛り上げていこうと、一緒にがんばっていたバリスタの一人。2012年に店を地元に移して、今治でも先駆けてエスプレッソカルチャーを伝えています。移転後は自家焙煎も始め、力強いエスプレッソの味わいと、倉庫を改装したユニークな空間が魅力の一軒です」(児嶋さん)

【Cafe Cremaのコーヒーデータ】
●焙煎機/フジローヤル3キロ(半熱風式)
●抽出/ハンドドリップ(ハリオ)、フレンチプレス、エアロプレス、エスプレッソマシン(ラマルゾッコ)
●焙煎度合い/浅~深煎り
●テイクアウト/ あり(550円~)
●豆の販売/ブレンド5種、シングルオリジン約10種、100グラム700円~

取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治

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