コーヒーで旅する日本/東海編|ソムリエだから見えてくる、コーヒーの特性と魅力。「THANKFUL DAYS COFFEE」

東海ウォーカー

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全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも名古屋の喫茶文化に代表される独自のコーヒーカルチャーを持つ東海はロースターやバリスタがそれぞれのスタイルを確立し、多種多様なコーヒーカルチャーを形成。そんな東海で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

「THANKFUL DAYS COFFEE」のオーナーの臼井さんは、ソムリエでありバリスタ

東海編の第25回は、愛知県刈谷市にある「THANKFUL DAYS COFFEE」。オーナーの臼井良哉さんはJSA認定ソムリエであり、キャリアを重ねるうちにバリスタとしても活躍するようになった人物だ。イタリアンレストランで長年勤務していた経験から、臼井さんの淹れるエスプレッソにはイタリアのコーヒーカルチャーの影響が強く表れている。一方で「ワインとコーヒーは共通点が多い」と話すように、ソムリエとしての目線からもコーヒーのおもしろさを実感している。バリスタとソムリエという似て非なる2つのスペシャリストとなった臼井さんが捉える、コーヒーの特性と魅力を紐解いてみたい。

オーナーの臼井良哉さん

Profile|臼井良哉(うすい・よしや)
1973年(昭和48年)、神奈川県横浜市生まれ。6歳から高校まで宮崎県で育つ。大学時代のアルバイトを機に飲食業に興味を持ち、卒業後はホテルに就職。1995年にソムリエ資格を取得。ホテル内のイタリアンレストランでコーヒーを淹れる機会があり、講習会などに参加しながらコーヒーの学びも深めた。2007年、有名シェフがオーナーを務めるイタリアンレストランの開業時に、支配人兼ソムリエに就任。「ジャパン バリスタ チャンピオンシップ」入賞者から手ほどきを受けて、バリスタとしても活躍するようになる。2020年、独立して「THANKFUL DAYS COFFEE」をオープン。

時間帯や気分によって、いろいろ使える店

【写真】臼井さん自ら、図面を引いて店をデザイン。カラーリングやステッカー制作なども手掛けた

JRと名鉄が乗り入れる刈谷駅から徒歩7分。デンソー本社の西向かいに2020年オープンした「THANKFUL DAYS COFFEE」では、スペシャルティコーヒーを主軸にスイーツ、サンドイッチ、パスタ、ワインまで幅広いメニューを扱っている。

カウンターにはワインがずらり。イタリアワインをメインに扱っている

オーナーの臼井良哉さんは元ホテルマンであり、名古屋の有名イタリアンでは支配人ながらソムリエ、バリスタとしても活躍。ホテルマン時代にはバーテンダーに混じってカクテルの勉強をした経験もあり、コーヒーは元より、おいしいイタリアンワインやカクテルもそろっている。

11時から14時はランチメニューあり。写真はカルボナーラ風リゾット(1400円)

さらに、キッチンを担当するシェフは臼井さんと同じ職場の元スタッフであり、カジュアルなカフェスタイルからは想像できない手の込んだ料理を提供。ランチスポットやレストランとしても重宝する店だ。

カスタードプリン(580円)など、デザートは営業時間中いつでもオーダー可能

コーヒー、スイーツ、料理、ワインやカクテルに至るまで、どれもレベルの高さに驚かされる。これもひとえに、何でも一流の域まで極める臼井さんのスペックの高さによるのだろう。「この一軒で、何でもある店にしたかったんです。気分や時間帯でいろいろできるイメージです。お昼だったらご飯が食べたいし、夜だったらお酒が飲みたいし、食後にはおいしいコーヒーが飲みたい。どれをとっても、ちゃんとおいしいことが大切です。私がひとりで営業するのであれば、料理はそんなに凝ったものにはできませんが、もうひとりスタッフがいるので今のスタイルを実現できました」

コーヒーとワインにみる、類似点と相違点

店内で飲めるコーヒー豆の販売も行っている

ホテルに就職して数年のうちにソムリエ資格を取得した臼井さん。それからコーヒーを学ぶようになり、ワインとの類似性に驚いたという。「ワインだと、イタリア、フランス、ドイツなど国によって味が違っていて、その中でまた品種の違いがあります。作り方によっても、味が全然変わってくる。『コーヒーも一緒だな』と思いました。ブラジルはすごくなめらかな感じ、エチオピアは繊細で軽さがある、といった具合です。作り方は、コーヒーでいう精製方法に該当しますね。最近注目されているコーヒーの精製方法でアナエロビックという方法がありますが、これは真空で発酵させるもので、ソムリエとしては『ボジョレー・ヌーヴォーと同じ作り方だな』と驚いています。また、香りの表現もワインとコーヒーは非常によく似ています。フルーツのニュアンスとか、スパイシーさとか、言い回しがすごく近いので『おもしろいな』と思い、コーヒーのこともどんどん知りたくなりました」

ハンドドリップする臼井さん

逆に、ワインを知るからこそ、その違いを強く意識するポイントはあるのだろうか。「コーヒーにあってワインにないもの。それは、抽出ですね。ソムリエは、自分たちの料理に合うワインを選ぶまでが仕事。たくさんのワインの中から、店の料理との相性がよく、ある程度お客様の好みのバラつきをカバーできるように選んだワインリストを作ります。ところが、コーヒーは、選んだあとの淹れ方で相当味が変わる。選んで終わり、ではないのがまた、おもしろいところです。せっかくいい豆をそろえても、ちゃんと淹れることができないとそのポテンシャルを引き出すことができません」

ラテアートの出来でエスプレッソの味がわかる

エスプレッソ用の豆。見た目からも、深い焙煎度合いがよくわかる

「THANKFUL DAYS COFFEE」の抽出方法は、ハンドドリップとエスプレッソの2種類。それぞれの抽出方法で、使う豆は真逆ともいえるタイプになっている。臼井さんがイタリアンレストランで長年務めていたこともあり、エスプレッソはイタリア流。愛知県日進市にある「自家焙煎珈琲 豆楽」にオーダーした、イタリアらしい深煎りの専用ブレンドを使っている。

「カプチーノやラテに使うときは、深いんですけど、苦くはならないように、ドッピオをリストレットで抽出します」。ドッピオとは、通常のエスプレッソを豆、お湯ともに2倍にしたもの。リストレットとは、お湯の量を半分ほどに減らして抽出するもの。つまり、豆は通常の倍量を使い、液量は通常のソロと同じ程度にするのだ。こうすることで、後半に出てくる苦味をカットし、前半の酸味やフルーティーさ、中盤までの甘味を生かすことができる。

パワーが強いので、スチームのあて方にも細心の注意を払う

エスプレッソマシンは、ラ・マルゾッコのリネア クラシックを使用。この選択にも、臼井さんのマニアックなこだわりがある。「このモデルはマルゾッコの中でも比較的古い設計で、中身が非常にシンプルなんです。湯温や圧力を自動で制御する機器がなく、手動で調節できる範囲が広い。私はもともと機械いじりがすごく好きで、家で使っているチンバリ ジュニアは自分で圧力計を付けるなど、もう原形がないくらいカスタムしています。だから、自分にはいろいろと中身をいじれるリネア クラシックが向いているんじゃないかと思いました。車でいうミッションのように、コンピューターの制御が入らずに自分でいろいろと決められる感覚がおもしろい。このマシンは、パワーが異様にあって、上手にコントロールできないと失敗しちゃうので、そこは要注意です(笑)」

エスプレッソとミルクのコントラストがはっきりと浮き出た、美しい仕上がり

完成したカフェラテを飲んでみると、チョコレートやキャラメルのような深みを感じつつも、口当たりはなめらか。やさしい味わいが、なんとも贅沢な気分にさせてくれる。

2018年に開催された「SUZUKI CUP」の3位入賞トロフィー

臼井さんは、こういった抽出技術を磨くひとつのモチベーションとして、さまざまな大会にも出場している。海外からも実力者が参加するというラテアートの大会「SUZUKI CUP」では、2018年に3位入賞を果たした経験もある。

エスプレッソにある程度の粘度がないと、キレイな絵を描けない

「ラテアートという技術はおまけのようなものですが、エスプレッソがうまく抽出できているかどうかの指標にもなります。たとえば、粉密度がバラバラで均一に圧力がかからずに抽出されたエスプレッソは、お湯が通る量にも差がでるため、場所によっては酸っぱかったり苦かったりと、味にバラつきが出ます。できあがったエスプレッソは酸っぱ苦いし、シャバシャバになってしまいます。ちゃんと均一に圧力がかかって抽出されたエスプレッソは、酸味と甘味があって、フルーティーさとコーヒーらしい香りが凝縮されていて、粘度感もあります。こういうエスプレッソじゃないと、うまく絵が描けないんです。だから、おもしろいもので、絵が上手に描けているラテは、味もおいしい」

確かに、カフェラテは上手に淹れられたかどうかを味見はできない。ラテアートの上手な店は味のクオリティも高いとは、意外な判断基準だった。

ハンドドリップに使用するシングルオリジンの豆は、基本的にすべて浅煎り

一方、ハンドドリップコーヒーに用いる豆のラインナップは、スペシャルティコーヒーのシングルオリジンのみ。八角形をベースに構成されたキントーのOCTブリューワーに紙フィルターをセットして抽出する。適度にコーヒーの油分が取り除かれるためさっぱりとした味わいになり、多彩なフレーバーや軽やかな酸味をわかりやすく表現できる。

外縁のリムは大きなカーブを描き、お湯の注ぎ口をできるだけ豆に近づけられる設計になっている

「ワインのように産地や品種の個性を出すなら、浅煎りの方が向いています。いろいろな店のコーヒーを飲む中で、愛知県幸田町の『ROLE COFFEE』の浅煎りが飛びぬけておいしいと思ったので、当店ではキャラクターが被らないように4種類をラインナップ。OCTブリューワーはお湯の抜けが早く、香りは十分ありつつも濃度は出すぎない仕上がりにできるので気に入っています。ドリッパーのタイプとしてはハリオのV60と似ていますが、こちらのほうが若干リブ(溝)が低いので、その分お湯の抜けがゆっくりになってボディー感も出てきます。このバランスがちょうどいいんです」

酸味のネガティブなイメージを払拭したい

ハンドドリップコーヒー(イートイン540円~)。ワイングラスのようにカップの飲み口が狭まった、香りを感じやすい形状もポイント

「せっかく品質のいいスペシャルティコーヒーを使うならば、ワインのように『こんなのもあるんですよ』という味のバラエティを知ってほしい。浅煎りのほうがそういった違いはわかりやすいので、ハンドドリップコーヒーでは、そういう味の個性を見てほしいです」と臼井さん。店のある三河エリアにはまだ浅煎りのシングルオリジンをやっている店が少なく、必然的にこの近辺の人たちは飲む機会も少ない。そうすると、コーヒーの酸味にネガティブなイメージを持っている人が結構多いという。「飲んでもらえれば、おいしいとわかってもらえると思うんです」と自信を覗かせる。

香り高いコーヒー。豆ごとのフレーバーの違いを楽しんでほしい

臼井さんがコーヒーに関わるようになって20年超。ずいぶん長いようにも思うが、ワインと比較すれば若いカルチャーだけに、目まぐるしく進化していく点もコーヒーの魅力のひとつだという。「コーヒー器具も、ドリッパーなど新しいものが出てきています。カフェラテやカプチーノなど昔からあるメニューも、おいしく淹れるためのセオリーがどんどん変わっていく。タンピングの力加減も、昔はすごく力強く押していましたが、今の流行りはもっとフワッと軽い。空気を含んだほうがおいしいことがわかってきたんですね。どんどん新しい技術や理論が出てきて、進化していくので、自分もどんどん勉強していかないといけません」

ナチュラルテイストの明るい店内。抽出教室なども開催している

コーヒーマンとしてはレアな、ソムリエというバックボーンを持つ臼井さん。その独自の着眼点から解釈したコーヒーの姿は、どこか新鮮に見えた。飲食業界で積み重ねてきた長年の経験、蓄積したワインやコーヒーの知識、マシンの調整まで自分でしてしまう器用さ。それらを唯一無二の武器として、臼井さんがこの地方のコーヒーシーンにどんな変化をもたらすのか、これからも注目したい。

臼井さんレコメンドのコーヒーショップは「kissa hitonoto.」

「私はドリップとエスプレッソの両方を提供している店が好きなのですが、どちらも群を抜いておいしいと思うのが、名古屋・八田の『kissa hitonoto.』です。そのときの気分で、『今日はスッキリしたいから、ちょっと酸味のあるコーヒーをドリップで飲みたいな』とか、『甘いまったりとしたカフェラテと、甘いお菓子を合わせたいな』とか、いろいろなシーンにマッチします。食事は食パンメインですが、結構おもしろいアレンジが多くて、すごく楽しいですよ」(臼井さん)


【THANKFUL DAYS COFFEEのコーヒーデータ】
●焙煎機/なし
●抽出/ハンドドリップ(キントー OCTブリューワー)、エスプレッソマシン(ラ・マルゾッコ リネア クラシック)
●焙煎度合い/浅煎り~深煎り
●テイクアウト/あり
●豆の販売/100グラム900円~

取材・文=大川真由美
撮影=古川寛二


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