「じりん」心霊スポットで線の切れた公衆電話が鳴る。受話器から届く声に少年は笑い転げて…!?“恐怖と笑いは紙一重”と語る作者に聞いた

物語は、主人公の14歳の頃の思い出話から始まる。同級生からも先生からもいじめを受けていた彼はある夜、ロープを持って心霊スポットとして有名な神社の階段を上っていた。拝殿は奥まった場所にあり、参道の両脇には木々が茂っている。

「がさ。」不意に音がした。風はない。人間が立てた音のように聞こえた。その音は明らかに主人公の歩調に合わせて付いてくる。恐怖を感じた主人公は走り出すが、「ざわざわざわざわ…」と音も併走する。

意を決した主人公は踵を返し、音のする茂みをかき分けた。そこには電話線の切れた公衆電話がポツンと置いてあった。主人公が受話器に手を伸ばしたそのとき、「じりん」と電話が鳴った。受話器から聞こえてきた声が言った意外なセリフとは…!?それを耳にした主人公が数分間笑い転げたワケとは…!?

この作品を描いたのは、2023年2月に「第2回朝日ホラーコミック大賞」の漫画部門で大賞を受賞した鳩ヶ森(@hatogamori)さん。そして、この漫画も例に漏れずホラー作品なのである。しかし、受話器から聞こえてきた声を聞き、少年は笑い転げてしまう――!!一体どうして!?鳩ヶ森さんにこの作品について話を聞いてみた。

――今回紹介させていただいた「春の夜の友人」という作品について教えてください。

この作品は、実は私の実体験が元になっています。学生の頃、友人たちと地元の小さな神社に肝試しに行ったことがあるのですが、その参道の脇にある森からガサガサという足音が聞こえたのです。こちらの歩調に合わせるようにずっとついてくる足音に震えあがって退散したのですが、その思い出から着想を得て描きました。「怪異は怖いだけでなく時には人間に寄り添ってくれるもの」という思いを込めて、優しい話にしました。

――今後のご予定について教えてください。

WEBマンガサイトへの掲載を目指し、担当とホラー作品のネームを進めています。また、今回インタビューを受けたのを機にTwitterのアカウントも作りましたので、Twitterで短編のホラー漫画もなるべくコンスタントに上げていきたいと思っています。商業漫画に限らず、自分が満足するためだけのホラー漫画も描きたいです。もしかするとギャグだらけの一風変わったホラーになるかもしれませんが、ご覧いただけたらうれしいです。

――鳩ヶ森さんはホラー漫画をたくさん描かれていますが、実はギャグ漫画が得意なんですよね。

はい、得意というより好きなんです。基本的にはお笑い脳なんだと思います。それに、実はギャグとホラーは紙一重で、過剰な笑いは怖いし、極端な恐怖は笑ってしまう…と思っています。笑いの裏に潜む恐怖というようなものは、常に意識しています。

現実世界に友人もいなければ、頼れる先生も、信じられる肉親もいなかった。この漫画の主人公にとって、人間であろうがなかろうが、寄り添ってくれる存在は心の支えとなったのだろう。もしそれが最初に聞いた受話器からの言葉の意味を取り違えていたと後に気付いたとしても…。そしてその思いは、彼だけでなくずっと寂しかった怪異にとっても救いになったのではないだろうか？足音は、今でも彼のそばで聞こえる。きっとこの先も2人の“友人関係”は続いていくことだろう。“壊れてしまう”ことなく――!!

取材協力：鳩ヶ森(@hatogamori)