コーヒーで旅する日本/四国編|のどかな一軒家で、レコードの音色とコーヒーの香りがつなげる同好の縁。「オオカミ珈琲」

東京ウォーカー(全国版)

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全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。瀬戸内海を挟んで、4つの県が独自のカラーを競う四国は、各県ごとの喫茶文化でも個性を発揮。気鋭のロースターやバリスタが、各地で新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな四国で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが推す店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

本棚に並ぶ、コーヒーや音楽関連の書籍、雑誌も曽我部さんが集めたもの


四国編の第4回は、愛媛県今治市の「オオカミ珈琲」。店主の曽我部さんの実家を改装した店は、一見すると農家と見まがう、田園地帯の一軒家。どこか懐かしいレコードの音と、コーヒーの香りに満ちた空間は、まるで友人宅に招じられたような親近感を覚える。学生時代を過ごした京都で独自の喫茶文化に触れ、好きな音楽とコーヒーを柱に店を開いた店は、曽我部さんの愛着が詰まった“趣味の部屋”の延長のような趣がある。ゆるりと時が流れるのどかな憩いの場は、開店以来、多くの同好のお客が訪れ、“好き”でつながる人の輪を広げつつある。

店主の曽我部さん


Profile|曽我部孝 (そがべ・たかし)
1978年(昭和53年)、愛媛県今治市生まれ。学生時代を過ごした京都で、音楽や本などの多彩なカルチャー、独特の喫茶店文化に触れたことが開業のきっかけに。卒業後、飲食店経験を積むため、地元のイタリアンで7~8年勤務。その間、自宅に焙煎機を導入し、自家焙煎を始め、2016年、実家の一部をリノベートして「オオカミ珈琲」をオープン。今治のコミュニティFMラヂオバリバリで、レコードを紹介する番組「趣味趣味音楽」のパーソナリティも務める。

多様な音楽と独自の喫茶文化に触れた京都での学生時代

界隈では数少ない古民家を改装した店として、遠方から訪れるお客も少なくない

今治市街から車で10分ほど。電車で1駅の距離ながら、周囲には田畑が広がり、街並みもにわかにのどかな雰囲気に変わる。一見、コーヒー店などありそうにない田園風景の中、小さな看板を頼りにたどり着いたのは、長い生垣に広い庭園を擁する、大きな木造一軒家。門口に寝そべる柴犬を横目に玄関へ向かう感覚は、親戚の家を訪ねてきたような心持ちに近い。「ここは実家の応接間みたいな場所で、使われていなかった部屋を改装したんです。外からではお店に見えないので、最初は場所がわからない、とよく言われました(笑)」と、はにかむ店主の曽我部さん。オオカミという屋号も、実はこの界隈の古い呼び名“大上”が由来。「音が同じなので、動物の狼をロゴのモチーフにして、土地の名前も残せればと思って」と、まさに地元に根付いた一軒だ。

店内は、文字通りお家感覚でゆったりとくつろげる雰囲気


障子戸や欄間、年代物の戸棚など、随所に家の名残が感じられる店内で、ひときわ目を引くのは、奥の壁一面にびっしりと並んだレコード。学生時代から曽我部さんが収集したコレクションは、7000~8000枚は下らないとか。「今もどんどん増えているので、数えきれないですね。一生かけても全部を聴けるかどうか」と、本人も把握しきれないほど。1970年代のシンガーソングライター、ロックを中心に、ジャズや歌謡曲まで、ジャンルも実に幅広い。「自分のなかでの流行りもあるので、店でかけるレコードはほとんど気まぐれ」とはいうものの、逆に言えば、訪れるたびに違う音楽が流れているということ。アナログならではの音を目当てに通うファンも多いという。

ターンテーブルはカウンターのすぐ横に設置。その日かかる音楽も楽しみの一つ


そもそもが、「今どきのカフェというより、純喫茶に近い雰囲気が好きで」という曽我部さん。レコード然り、自家焙煎のコーヒー然り、「オオカミ珈琲」を形作る感性の素地は、京都で過ごした学生時代の影響が大きいという。「京都には学生向けの店が数多くあって、在学中はレコード屋や書店、喫茶店、ライブハウスなど、あちこちに足を運びました。当時は音楽への関心が先行していましたが、京都独特の喫茶文化を体験したことが、今の店作りにもつながっています」。当時の京都は、気鋭のクリエイターが集まり、新たなカルチャー発信地としても注目されていた時期。曽我部さんが大いに刺激を受けたことは想像に難くない。

壁に据え付けた棚にはレコードがぎっしり


近しい人からの好評に応えて、磨きをかけた看板ブレンド

押入れを改装したコンパクトな焙煎室

音楽はもちろん、コーヒーとの関わりも、この頃に興味を深めたことのひとつだ。「たまたま、下宿の近くに焙煎卸の直営店があって、豆やミル、抽出器具などを揃えたのが今に至る原点かもしれません。焙煎までは考えませんでしたが、喫茶店のマスターに憧れみたいなものがあって、漠然と自分の店のイメージは浮かんでいました」と振り返る。何より、曽我部さんが惹かれたのは、京都の人々の喫茶店の使い方。今治では、車でわざわざ出かける場所だったそうだが、京都では街なかでふらりと寄って、顔見知りと会うといったことも日常茶飯。そんな店のあり方もまた、店作りのイメージを膨らませた一因だったかもしれない。

京都での得難い体験を経て、卒業後、地元に戻った曽我部さんは、自店を始めるために動き出す。飲食店の経験がなかったため、イタリアンレストランで7~8年修業。その間に、焙煎機を自宅に設置して、焙煎も始めた。しかも、1キロの小型の機体とはいえ、れっきとした業務用だ。「煙が出ても周りが田んぼばかりなので、その点は安心でした(笑)。はじめは趣味程度のつもりで豆を焼いていましたが、しばらくして周りの人に飲んでもらったら、好評をもらえたのがうれしくて」と、多くの人の“おいしい”の声に応えて、焙煎の醍醐味を深めていった。

焙煎後の豆はザルに入れてサーキュレーターで冷却


現在、店で供するコーヒーは、ブレンド、シングルオリジン共に、すべて中深煎り以上の焙煎度に。中でも、店の顏でもある定番が、中深煎りのオオカミブレンドと、深煎りのコヨーテブレンドだ。「お客さんからは、“酸味が少ないものを”とのリクエストが多いので、中深煎りが味作りのベース。最新のスペシャルティコーヒーを推す店ではないので、ぜひブレンドを楽しんでもらいたいですね。逆に、今治ではさらに深煎りのコーヒーはあまり馴染みがないんですが、自分の好みでもあるので、深煎りブレンドは必ずいれたいと思っていました。ここで、深煎りの味を知って、お客さんの新たな好みに加えてもらえるのもうれしい」と曽我部さん。オオカミブレンドは、ほのかな酸味の後に芳醇な香味とビターな甘味が心地よく、ほっと心和むふくよかな余韻は、曽我部さんの柔和な人柄が現れているかのようだ。

オオカミブレンド(500円)。カップや食器は、愛媛の砥部焼の窯元・イロリ工房に特注したオリジナル


ウィンナコーヒーやコーヒーフロートなどのアレンジコーヒー、さらにサイドメニューの構成も、喫茶店を思わせる顔ぶれ。スイーツには、6種のケーキに加えて、ボリュームたっぷりのパフェが4種と充実。中でもキャラメルパフェは、濃厚な自家製キャラメルアイスと甘酸っぱいリンゴジャムの取り合わせの妙で、シンプルながら食べ飽きない人気の一品だ。また、喫茶店と言えば欠かせないカレーも名物のひとつ。スパイスの調合もオリジナルの特製チキンカレーは、フルーティーな甘味と共にじんわりと湧き上がる厚みのある刺激が、深煎りコーヒーのキレのある苦味を呼んでやまない。

キャラメルパフェ(1200円)。自家製キャラメルアイスは、イタリアンでの修業時代に教わったレシピを元に独自に改良。シフォンケーキ、チーズケーキも乗ったボリューム感も人気


コーヒーと音楽を介して、人の縁が広がる場所に

「今後は、店で音楽のイベントなども考えていきたい」という曽我部さん

「今治は新しいもの好きの方が多くて、宣伝すると一気に来られることがあるので、ひっそり始めて徐々に慣れていきました。最初は、自分の店でゆっくりレコードが聴けるな、と思っていましたが、忙しくなって作業に集中していると、何を聞いていたか憶えていないことも多いですね(笑)」との言葉通り、口コミでじわじわと店の存在は広まり、いまや週末ともなれば松山から訪れるお客も多い。

オオカミ珈琲の特製チキンカレー(1100円)には、自家栽培の米や野菜を使用。ルウは今もマイナーチェンジを続けている


また、今治にはジャズ喫茶が多く、四国最古参のジャズ喫茶があったり、年に一度の大きなフェスがあったりと、音楽と縁が深い街だけに、レコードの音を懐かしむジャズ好きの年配客も少なくない。「うちに来たのがきっかけで、“久しぶりにレコードを聴こう”とか、“レコード針を買いに行った”といった話を聞くとうれしくなります」と曽我部さん。実は、地元のコミュニティFMラヂオバリバリで十数年、番組を続けるパーソナリティでもあり、時にリスナーと店で顔を合わせることもあるという。

看板犬のはなちゃんに会うために訪れるファンも


「6年続けてみて、大変だけど、楽しい気持ちも強い。自分で焼いたコーヒーを飲んでもらえるという喜びは、今でも持ち続けています。豆の種類も広がって、市内で委託販売してもらえるお店もいくつかできたので、コーヒー屋さんとして存在感を高めていきたい」という曽我部さん。とはいえ、柔らかな口調からは、気負いは感じられない。レコードの音が響く、どこか懐かしさをおぼえる店内は、名曲喫茶やジャズ喫茶などにありがちな緊張感とは無縁。むしろ、友人の部屋に招じられたような親近感が、「オオカミ珈琲」の居心地よさの所以だ。「趣味の延長でやっている感覚があるので、コーヒー好き、音楽好きが自然と集まるような店にしたい。“あそこに行ったら誰かがいる”と思ってもらえるような、人をつなげる場所になれたらと思っています」。コーヒーと音楽が共にあればいい。のどかな一軒家から、少しずつ同好の縁が広がりつつある。

店の店を訪れる際は、敷地に立つ看板を目印に


曽我部さんレコメンドのコーヒーショップは「みんなのコーヒー」

次回、紹介するのは、愛媛県新居浜市の「みんなのコーヒー」。
「海の目の前というロケーションが素敵な一軒です。アウトドアやマリンスポーツ、自転車好きの拠り所でもありますが、店主の伊藤さんの人柄もあって、誰もが気軽に立ち寄れるオープンな雰囲気は、まさに店名通りのイメージ。メニューもほぼコーヒーだけという潔さで、同好のつながりだけでなくいろんな人が集まる場所として、自分が目指すべき理想の店の一つです」(曽我部さん)

【オオカミ珈琲のコーヒーデータ】
●焙煎機/フジローヤル1キロ(直火式)
●抽出/ハンドドリップ(コーノ式)
●焙煎度合い/中深~深煎り
●テイクアウト/ あり(400円~)
●豆の販売/ブレンド4種、シングルオリジン8~9種、100グラム550円~


取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治

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