気鋭の講談師・神田伯山が名作の舞台を歩く。“伝統的エンタメ”をぐっと身近に感じる「講談放浪記」
東京ウォーカー(全国版)
あなたは「講談」を聞いたことがあるだろうか?講談とは寄席などで楽しめる伝統的な大衆演芸のひとつで、武将や偉人など歴史にちなんだ話を講釈師がひとりで読んでいく芸のこと。張り扇と呼ばれる扇子を片手に、釈台を打ちながら物語に引き込んでいく講釈師の姿をテレビなどで見たことがあるという方もいるかもしれない。
※2023年8月4日掲載、ダ・ヴィンチWebの転載記事です

新しいエンタメがさまざまに登場する中、講談界は長年低迷が続いてきた。そんな中に現れた救世主が六代目・神田伯山さん。「最もチケットが取れない講談師」とも言われる伯山人気によって、今再び講談が注目を浴びるようになっているのだ。このほど登場した「講談放浪記」(講談社)は、そんな伯山さんが講談ゆかりの地を訪ね、講談の物語としての魅力をあらためて見つけていく一冊。講談の世界が持つ奥行きに、講談初心者もぐっとひきつけられそうだ。
本書のメインは講談にまつわる「現場」を伯山さんがめぐる、いわゆる「聖地巡礼」だ。第一部は名作講談の舞台ということで、源平の戦いを描いた「源平盛衰記」では最後の戦場・壇ノ浦へ。怪談話としてよく知られる「四谷怪談」では東京・四谷にある於岩稲荷田宮神社へ。さらには剣豪・宮本武蔵を語る「寛永宮本武蔵伝」では佐々木小次郎との運命の決闘の場となった巌流島へ――。
たとえば赤穂義士の吉良邸への討ち入りを描くいわゆる忠臣蔵の物語は、「赤穂義士伝」として講談でも最重要の読み物とされている。本書で伯山さんが訪れるのは四十七士のお墓がある東京・泉岳寺。以前、このお寺の庫裡で開かれた赤穂義士追悼の会で伯山さんは「赤穂義士伝」を読んだことがあるというが、そこでは四十七士の子孫に当たる方に会ったことがあるとのこと。実は「講釈師見て来たような嘘をつき」という言葉があるように、講談が伝える物語には虚実が入り乱れるのは当たり前のこと。とはいえ、このように子孫という「リアル」とちゃんと接続するのも、史実にフィクションがまじってエンタメとして花開いた講談らしいエピソードといえるだろう。
第二部では歌舞伎座や国技館、寄席といった伝統芸能の「現場」へ。現在はなくなってしまった講釈場(講談専門の演芸場)の復活を願いつつ、「伝統」が受け継がれていく現場の感触を通じて講談の未来を考えていく。さらには特別企画として伯山さんの師匠・人間国宝の神田松鯉さんに講談の神髄を聞く対談も収録。全編にわたって細かく丁寧な注釈がついており、この一冊があれば初心者でもかなりの「講談通」になれそうだ。
なお本書は2021年から1年間続けた文芸誌「群像」での連載に大幅加筆したもの。実は伯山さんはあとがきで「(本書は)伯山へのインタビューからの、九龍ジョーさんの聞き書き」によるものだと明かしているが、そんなことを正直に書いてしまうのも、伯山さんらしい諧謔(かいぎゃく)であり潔さといえるのかも。とにかく本書を読めば、「講談師・神田伯山」の芸に向き合う真摯な姿勢にぐっと来て、講談に興味が出るのは間違いなさそうだ。
文=荒井理恵
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