吉田栄作、3度目の「ローマの休日」で名舞台の魅力と裏話を語る
関西ウォーカー
WEB連載「はーこのSTAGEプラスVol.44」をお送りします。

『ローマの休日』は、言わずと知れたオードリー・ヘップバーン主演の名作映画。これを舞台化するなんて…と、脚本・演出のマキノノゾミも出演者も私たち演劇ライターも、全員が「いや、ちょっと…」と思った。しかも3人芝居で。ところが2010年の初演を観て、「おぉ!」。すごくおもしろかったのだ。ローマを舞台にした切ないラブ・ストーリーは、あまりに有名なので物語は割愛する。
ローマ支社のアメリカ人新聞記者・ジョーを演じる吉田栄作は、グレゴリー・ペックのカッコよさのまま。アン王女役の朝海ひかるは、見た目からオードリー。ジョーの相棒のカメラマン・アーヴィング役の小倉久寛も適役。そして何よりもマキノノゾミの脚本が出色の出来だった。これによってマキノは第36回菊田一夫演劇賞を受賞。まず脚本、そして最適なキャスティングが成功をもたらした。
脚本はオリジナルのパラマウント映画に許可を得ての上演だったが、初演では当時の2トップが来日して観劇、カーテンコールではその2人が観客の誰よりも最初にスタンディングオベーションで讃えた。「ステージ側から見ていて、すごくうれしかった。その光景がずっと脳裏に残っています」と吉田。

2年後に王女役を替えて再演、そして今回、初演のキャストが再結集し5年ぶりに大阪と東京(7月30日(日)~8月6日(日)世田谷パブリックシアター)で上演される。
3度の続投となる吉田栄作が稽古前に来阪、作品の魅力とその裏話、さらに「これが最後になるかも」と意気込みを語った。
吉田栄作は映画の『ローマの休日』について「大好きです。自由を知らなかった王女がアメリカから来た男と出会って自由を知り、また王女として帰っていく。切ないラブ・ストーリーでもあり、もう素敵過ぎる話ですよね。世紀を越えた映画界の教科書のよう」。時代を超えて世界中で愛される超有名映画を舞台化する。当初は「ものが大きすぎる。しかも日本人がやるなんて、と、いい印象を持たなかった」が、台本を読み終えると「是非やらせてほしいという気持ちになった」と言う。
マキノは、無謀とも言える舞台化に「逆転の発想」で臨んだ。架空の話として、この作品がオフ・ブロードウェイで3人芝居として上演されていたとしたら、それはどんな戯曲だったろうと…。幻の舞台版を原作として映画化されたのが、あの『ローマの休日』だったと考えたら。キーは、原作者のダルトン・トランボだった。ハリウッドに“赤狩り”の嵐が吹き荒れた時代、トランボは友人をかばったためにハリウッドを追放された人。当時、彼は自らの名前を隠して映画の原作を描いたと言われている。その事実から発想し、アメリカ人記者のジョーが、なぜローマにいるかに投影、ジョーとアーヴィングの友情関係の背景に織り込んだ。
「それで人物像や物語全体に深みが増しているんですね。そういう男だからこそ、最後の別れのシーンで見せる男気につながっていく。映画よりも深みが増し、切なさも映画以上だと思います」。『ローマの休日』が、美しき悲恋の物語だけでなく、非常に説得力のある話として立ち上がる。
また、吉田と同じように原作映画ファンであるマキノは、映画へのリスペクトから、誠実な舞台化を試みた。「“真実の口”のシーンは、映画を良く見て完コピしてくれって。ここは自分は演出しない、ウィリアム・ワイラーの演出にする、と。だから、音楽から手を入れるタイミングから、全部映画の通りにやったんです。僕は毎日、繰り返し映画を見るようになりました。グレゴリー・ペックはこっちの手をポケットに入れているな、とか、ネクタイをズボンにはさんでいるところとか」。映画『ローマの休日』のファンも納得するジョー・ブラッドレー像が出来上がっている。
今回は初演から7年。「3人が年齢を重ねているので、湧き出る芝居がどう成長したのか、多分、ずっと観ていただいているお客様に何かを感じていただけるかと。それが僕自身の楽しみでもあり、若干、怖くもあります」。この作品を40代の仕事に、と考えていた吉田は48歳になる。「お姫様抱っこ、けっこうキツイんですよ(笑)。あれを軽々とやってるように見せなきゃいけない。映画は1回撮ったら終わりですけど、舞台は稽古も含め何度もやりますから(笑)。そのためにちゃんとトレーニングもしてますけどね」。そのためだけではないけど、と笑いながら。でも、もし止めないでコールがあったら?
「可能性があるうちは、誰にもゆずりたくない役ですね」と正直に。そして「同じ舞台の再演もやったことがなかったし、3回もやるのは初めてです。僕が、舞台という表現の場に自分の活動を広げてからの代表作なんだろうなと思います。自分でもしっかり、そう言えるように、今回が最後になってもいいように、しっかりやらせていただこうと思っています」と結んだ。
『ローマの休日』の舞台は、今回の3人がベストキャストだと思う。映画ファンで観ていない人がいたら、是非すすめたい。私は、絶対にもう一度観る。最後にアン王女が言うセリフ「わたくしは人間同士の友情を信じるように、各国間の友情を信じます」の背景を(架空かもしれないけれど)新たに噛みしめながら。
【関西ウォーカー編集部/演劇ライター・はーこ】
演劇ライター・はーこ
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