袋麺「うまかっちゃん」が西日本でしか売られていない理由とは?“香り”にこだわりとんこつラーメンを再現

東京ウォーカー(全国版)

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「福岡県の名物といえば」と聞かれて多くの人が思い浮かべるであろう、とんこつラーメン。そんな福岡県のソウルフードを袋麺で再現した、「うまかっちゃん」という商品をご存知だろうか。

本場のとんこつラーメンの味を自宅で気軽に味わえると人気の「うまかっちゃん」は、2024年で誕生45周年を迎えるロングセラー商品だ。かつては全国で売られていたが、現在は九州から関西にかけて、西日本限定で販売されている。あのおいしさと再現度であれば東日本でも売れると思ってしまうが、なぜ全国展開をやめたのだろうか。

そこで今回は、ハウス食品株式会社(以下、ハウス食品) 食品事業二部 ビジネスユニットマネージャーの富田将史さんに、「うまかっちゃん」の販売戦略と開発の裏側を聞いた。

本場のとんこつラーメンを再現した「うまかっちゃん」。西日本限定販売なのはなぜ?


ポイントは“香り”!「うまかっちゃん」誕生秘話

ハウス食品が袋ラーメンの販売を始めたのは1973年のこと。当時は「シャンメン」という、しょうゆ味の袋ラーメンを全国で展開していた。だが、とんこつラーメンが主流の九州地方でしょうゆラーメンが互角に戦うことは容易ではなく、決して「良い」とは言えない売れ行きだったそう。

「福岡にも『シャンメン』の生産ラインがあったんですが、残念ながらあまり稼働してなくて、従業員たちが敷地内の草むしりをしていることも多かったと聞いています。社員食堂では、当然自社のラーメンを提供してたんですけど、社員たちからもあまり良い評価はもらえていませんでした(笑)」

九州地方におけるとんこつラーメンの文化は、とても根強い。今では福岡県でも多彩なラーメンの種類があるが、かつてはしょうゆ、みそ、しおといったスープの選択肢はなく、“ラーメンといえばとんこつラーメン”状態。「ラーメン店のメニューには『ラーメン』としか書かれていなくて、出てくるのはもちろんとんこつラーメン。それくらい、福岡ではとんこつラーメンが当たり前でしたね」と富田さんは話す。

発売当初の「うまかっちゃん」


そんななか、九州地方を担当する営業マンから「九州でウケるラーメンを作ってほしい」と声があがり、「うまかっちゃん」の開発プロジェクトがスタートした。当時のハウス食品に在籍する九州出身者たちがプロジェクトに参加し、九州各地のラーメンを食べ歩き、“九州のラーメンとは何なのか”を研究したそう。しかし、実際の開発は苦労の連続だったのだとか。

「『うまかっちゃん』には、とんこつラーメンならではの特有な香りがあるんですよね。今となっては慣れ親しんだ香りだと思うんですけど、袋ラーメンにその香りを取り入れるのには迷ったそうです。最初はマイルドな味わいを目指したんですが、現地で市場調査をしたらあまり評価されなくて…。思い切って、現在の香り強めの方向にシフトチェンジしたんです」

すべては“九州で愛されるため”。コンセプト第一に販売エリアを縮小

こうして、とんこつラーメンをとことん追求し、“九州で愛されるラーメン”に特化した「うまかっちゃん」の販売をスタート。結果、「うまかっちゃん」は九州地方で大ヒットとなる。その勢いに乗って1983年に全国販売を開始したが、現在はエリアを限定している。

「九州でヒットしたことで、『うまかっちゃん』は全国でもウケるんじゃないかと、販売エリアを広げていきました。しかしながら、全国に出すとなるとどうしても幅広い層に合う味を作る必要があるんですよね。当初からのコンセプトである“九州で愛されるラーメン”を優先することにして、2008年以降は沖縄県を含む西日本限定で展開しています」

富田さんは、「『うまかっちゃん』において、九州の人々に愛される味を追求するのは必須です」と語る。実際に現地の人々に意見をもらったり、九州出身の社員に意見を求めたりして味の方向性を決めてきたそうだ。

「現在は、九州の方々に試食していただいてフィードバックをもらうシステムがありますが、以前はまだそういった体制が十分ではありませんでした。社内で作ったラーメンが本当に受け入れられるか、不安もありましたね。だからこそ、九州の人々の声が最終的に商品の方向性を決めていると言ってもいいほど、その意見を大切にしています」

「うまかっちゃん(博多 からし高菜風味)」。九州地方のスーパーでは「うまかっちゃん」のブースが広く設けられている

「うまかっちゃん(濃厚新味)」


これからも“九州の「うまかっちゃん」”であり続ける

「うまかっちゃん」が誕生40周年を迎えた2019年には、メモリアルイベント「うまかっちゃんサミット」を開催。工場のある福岡県古賀市まで自腹で来てもらう形で募集したところ、熱狂的なファン20名が集まった。

「ファンの方に聞いた意見の中で特に印象的だったのは、『うまかっちゃん』を世界中の人々に知ってもらいたいという声が多い一方で、国内での展開をさらに進めてほしいといった要望は少なかったことです。むしろ国内での拡大は控えてほしいという、少し意外な意見もありましたね」

これを受け、富田さんは「ファンの方々は、海外の人に紹介する際に“日本の『うまかっちゃん』”ではなく、“九州の『うまかっちゃん』”としてアピールしてほしいのかもしれません」と話す。販売する側も、地元の人々も、双方が「うまかっちゃん」を大切に思っていることが伝わる。

「うまかっちゃん(熊本 香ばしにんにく風味)」


そんな「うまかっちゃん」は、2024年で誕生45周年を迎える。これまで変わらないおいしさとコンセプトを守り続けてきたロングセラーブランドだが、今後の展開についてはどのように考えているのだろうか。

「九州の企業さんやメーカーさんと組んで、コラボ展開やイベントなどを積極的に行っていきたいですね。他社の方と『うまかっちゃん』についての話をする際、その方もうまかっちゃんファンであることが多く、ビジネスの話というより、ファン同士の会話のようになっていることもあります(笑)。ビジネスマンというよりも“ひとりのうまかっちゃんファン”として接していただいていますね。これからもいろんな企業とコラボして、一緒に九州を元気にできればと思っています」

「うまかっちゃん(黒豚とんこつ 鹿児島焦がしねぎ風味)」


これまでも、福岡のコーヒーショップとコラボしたオリジナルTシャツが販売されたり、福岡の人気ラーメン店による「うまかっちゃん」アレンジレシピを公開したりするなど、地元企業と共に九州を盛り上げてきた。これからもさまざまなコラボを予定しているのだとか。地元の声を大切にし続けた「うまかっちゃん」は、今後も“九州の袋ラーメン”として愛され続けるに違いない。

取材=西脇章太(にげば企画)
文=永田奏歩(にげば企画)

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