すべては“こけし”の販売から始まった?「ベルメゾンネット」を運営する千趣会が女性の生活に寄り添うワケ

東京ウォーカー(全国版)

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通販サイト「ベルメゾンネット」などを運営していることで知られる株式会社千趣会(以下、千趣会)。寒くなってきた今、冬用の寝具などを探すのにサイトを利用している人も多いはずだ。そんな千趣会が、かつては「こけし」の販売に力を入れていたのをご存知だろうか。

日本の伝統工芸品のひとつである「こけし」は、もともとは温泉地のお土産として売られていた木製の人形玩具。長い歴史の中で定期的にブームが巻き起こり、今では国内だけでなく、海外の人たちからも人気を集めている。とはいえ、今の千趣会の事業を見てみると、なかなかこけしとは結びつかないものだ。では、なぜこけしを販売していたのだろうか?

今回は、千趣会 IR広報担当の稲垣利香さんに、こけしの販売を始めたきっかけと現在の通信販売事業に至るまでの変遷について話を聞いた。

現在は「ベルメゾンネット」など通信販売事業に取り組む千趣会が、なぜ過去にこけしを販売していたのだろうか?


こけしの販売には“女性の社会進出”が関係?当初は反対意見も

千趣会がこけしの販売をスタートしたのは、1954年のこと。創業メンバーである高井恒昌氏、行待裕弘氏、池田悟氏の3名は、もともと自転車のタイヤチューブを販売していたが、これだけでは経営が立ち行かなくなると考え、時代の変化に合わせた新しい取り組みを開始した。

「1954年頃には戦争の影響も徐々に和らぎ始め、女性が社会に参加する動きが出てきました。そしてある日、行待は『女性の職場には楽しさや潤いが必要ではないか』という議論の中で、彼の兄が経営するこけし販売店の評判のよさを話したそうです。そのお店は『こけし千体趣味蒐集(しゅうしゅう)の会』といい、後に弊社の名前の由来となっています」

行待氏がこけしの販売を提案するも、高井氏は当初反対。稲垣さんは「『終戦からまだ10年なのに、生活に必要不可欠ではない商品が売れるわけがない』というのが高井の意見であり、当時の一般的な認識でもありました」と話す。しかし、行待氏の熱意ある説得もあり、1955年に千趣会を設立。本格的にこけしの販売を始めることとなった。

こけし販売時は、和紙に詩を印刷したしおりを添えるサービスも。ピーク時はこけしが15万セット売れたそうだ


“こけしのサブスク”を実施!先見性のあるビジネスモデルの数々

まず千趣会が取り入れたのは、「頒布会」というサービス。これは、毎月違った商品を定期的に届ける仕組みで、いつでも入会・退会が可能だ。「頒布会は、現在のサブスクリプションサービスに近い仕組みですね」と稲垣さん。

「1955年の販売開始当時から、『こけし頒布会』を実施していました。前述の通り、女性が職に就くようになり経済的にも余裕が出てきて、主婦として家庭を支えるだけでなく、ファッションを楽しんだり、趣味のアイテムを集めたりするようになった時代です。これらの需要をとらえたことで、サービスを開始してからわずか2年で、会員数は4万人に到達しました」

こけし以外にも、ソフペットや北欧風の木製人形の「ロイヤルペット」なども販売していた


当初は、営業員が女性が多く勤める職場に出向き、職域販売を行っていたが、しばらくすると職場ごとに注文を取りまとめてくれる人が出てきたという。

「彼女たちは、取りまとめもすべて無償でしてくださっていたみたいです。このころから、今で言うファンコミュニティのような形態ができていました。その後、多くの企業との取引が生まれ、販路を全国に広げることができました。ですが、時代の流れに合わせ、こけしは1963年ごろを最後に販売を終了。『クック』というカラー印刷の料理レシピカードや北欧風の木製人形『ロイヤルペット』などの販売に移行していきました。ちなみに、当時としては画期的だったアイデアの数々は、主に行待の発案であることが多く、現在の主力であるネット通販事業にいち早く目をつけたのも彼でした」

創業60周年には社員1000人以上がオリジナルこけしを制作

2015年には千趣会創業60周年を記念して、「こけしの絵付けワークショップ」を開催。創業当時の様子を知る従業員がほとんどいなくなったことから、「原点回帰」をテーマに過去の振り返りが行われた。

「弊社の社員はもちろん、関連会社も含め、合計で1000人を超える従業員たちがこけしを制作しました。今はクローズしているんですけど、周年時にはX(旧Twitter)で、弊社のルーツである『こけし千体趣味蒐集の会』の名前でアカウントを開設。ここでは、社員が作ったこけしを毎日何かしらのテーマに合わせて1体ずつ投稿していましたね」

創業60周年の際に社員たちが製作したこけし(稲垣さん撮影)


1000体以上あるこけしたちはそれぞれ制作者の個性が出ており、スタンダードなこけしのイメージと比べ、いずれもカジュアルな印象を受ける。また、2010年代に巻き起こった第3次こけしブームでは、アニメや漫画のキャラクターを模したこけしが登場するなど、従来の形にとらわれない傾向にあった。そのことについて、稲垣さんはこう話す。

「こけしはフォルムがとてもシンプルなので、作り手によっていろんな表情に変化します。あの素朴さが制作者の想像力を掻き立てるのかもしれませんね。出っ張りがなく、かわいらしい雰囲気があるのもこけしの人気の理由かなと。いつの時代も愛されるのは、こうした魅力によるものではないかと推測しています」

右が稲垣さんのこけし。創業から未来に向けて西暦が書いてあり、ターニングポイントとなった年は色を変えている。このこけしには「会社が永遠に続くように」という願いが込められているのだとか

千趣会本社に保管されているロイヤルペットとこけし


定期的に「モニター会」を開催!創業当時から“利用者の声を聞くこと”を徹底

千趣会は、1976年からは頒布会事業だけでなく、“女性を幸せにする会社、女性に笑顔を届ける会社”としてカタログ事業を展開。2000年のインターネット通販開始以降は、カタログとネットのシナジーを生み出し、現在の事業形態となる。

通販カタログ「ベルメゾン」の創刊号


「事業形態は変わりましたが、一方で創業当時から変わらず定期的に行っているのが、通販利用者様を対象とした『モニター会』です。“お客様の声を聞くこと”を徹底するべく、オフラインで場所を設け、商品に関するご意見はもちろん、日頃の悩みなどをざっくばらんにお話しいただけるような会となっています」

また、子供向けの商品開発に関しては、子育て経験のある社員が子供を持つ利用者からフィードバックを受けたり、逆にアドバイスすることも。このようにコミュニケーションを大切にして、利用者が気軽に意見を言える環境づくりを徹底しているのだとか。

最後に稲垣さんは、「弊社は、女性のみなさまに支えられて、今があります。今後も『女性を笑顔にするウーマンスマイルカンパニー』として、常に女性のライフスタイルに寄り添っていきたいですね」と締めくくった。

現在はネット通信販売を軸としている。利用者の8〜9割は女性


事業形態は大きく変化したものの、創業当時から一貫して“女性を幸せにする、女性に笑顔を届けたい”という経営理念を掲げてきた千趣会。形は変われど、その理念があるかぎり、これからも女性が笑顔になれる商品を生み出してくれるはずだ。

取材・文=西脇章太(にげば企画)

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