疲れた心をほぐす仔羊料理やオニオングラタンスープ…。読むだけで洋食屋さんに行きたくなる!絶品グルメ小説「キッチン常夜灯」

東京ウォーカー(全国版)

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食欲の秋、読書の秋。あなたは、どちらの秋が好みだろうか。もしくは、どちらも楽しみたい派だろうか。
※2023年10月4日掲載、ダ・ヴィンチWebの転載記事です

「キッチン常夜灯(角川文庫)」(長月天音/KADOKAWA)


読書欲も食欲も満たしてくれる、このシーズンを味わい尽くすのに絶好の小説が出版された。「キッチン常夜灯(角川文庫)」(長月天音/KADOKAWA)は、「ほどなく、お別れです」シリーズ、「神楽坂スパイス・ボックス」シリーズなどで注目される、2018年に作家デビューした著者の最新刊。著者は、飲食店勤務経験が長く、本書はそんな著者の経歴が存分に発揮されている。本書の主人公・みもざはチェーン系レストラン「ファミリーグリル・シリウス浅草雷門通り店」の店長。その多忙ぶり、プレッシャーがまずリアルに描写される。

ホールを走り回り、料理が出てこないと言われてキッチンのヘルプに入る。そうかと思えば、レジを打ち間違えたと呼ばれてお客さんに謝った。今日も賄いなど食べる暇はない。バイトの休憩を優先しなければ、彼らは不満を募らせて辞めてしまうし、本社からもきついお叱りを受けることとなる。


責任感が強い性格も相まって、みもざのストレスと疲労は、日々増大していく。

本書の大きなテーマの一つは、「疲れた心と不眠症」でもある。32歳にして、望まず店長となってしまったみもざは、この分不相応な役職を「鎧」だと捉えている。防具であり、重しなのだ。みもざは、「大丈夫。眠れる。眠れる。今夜こそしっかり眠るんだ」と、毎夜自分に言い聞かせるが、満足いく睡眠は得られない。

みもざが日をまたいで店を閉めた後にふと訪れたのは、街の路地裏で夜から朝にかけてオープンする「キッチン常夜灯」。自分の店と比べると、【ずっと純度の高い「本物」の香り】が漂う店。一晩でとりこになる。みもざは店の常連になり、心の疲れが緩和されていく。

本書は、めくるめく登場する美味しそうな料理と描写も魅力だ。次のようなメニューが登場する。

牛ホホ肉の赤ワイン煮とこんがり焼けた丸いブール/シャルキュトリー盛り合わせとアルザスの白ワイン/お野菜たっぷり農夫風ポタージュ/仔羊のロースト バルサミコソース/クレームカラメル/チーズたっぷりのオニオングラタンスープ/コキールグラタン/ほか


読んでいると食欲が高まり、おなかが鳴る。洋食屋さんに行きたくなること請け合いだ。

心がどん底まで疲れているみもざが不安を抱えながら初めて「キッチン常夜灯」に入店し、登場する「牛ホホ肉の赤ワイン煮とこんがり焼けた丸いブール」は、次のような描写である。

赤ワインとフォンドヴォー、牛肉の旨みが溶け出した芳醇な香りが皿から立ち上がっている。ダウンライトを浴びて輝く黒に近い赤褐色のソースは、まるでビロードのように滑らかだ。一緒に煮込まれたのはマッシュルームと小タマネギ。横にはたっぷりのジャガイモのピュレが添えられている。ナイフを入れた瞬間、肉のあまりのやわらかさに驚いた。口に入れるとほろほろとほぐれる。


美味しいに決まっている。描写があまりにリアルで、まるで自分がその場にいて、香りをかぎ、味わい、口の中に温かさまで広がるようだ。

「キッチン常夜灯」の常連になったみもざは、自分の仕事や自身の内面と向き合い、葛藤し、成長していく。そして、「鎧の脱ぎ方」がわかってきて、不眠症も落ち着いていく。「キッチン常夜灯」のシェフや常連さんたちの心の変化、ドラマも読者の心をじんわりと温かく包み込む。

本書を、秋の夜長のお供にしてもらいたい。

文=ルートつつみ(@root223)


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