「朝起きると死んでたらいいなと思ってた」発達障害グレーゾーンの映画監督・瑚海みどりと漫画家・クロミツが対談【映画「99%、いつも曇り」公開&書籍「灰低カタルシス」発売記念】
東京ウォーカー(全国版)
2023年12月15日に映画「99%、いつも曇り」がアップリンク吉祥寺で公開された。インディース映画の登竜門とされる第17回田辺・弁慶映画祭ではグランプリなど5冠を達成し、発達障害の傾向がある女性のリアルな生き様を描いた本作に絶賛の声が集まっている。
映画を手掛けたのは、50代にして初の長編映画監督を務めた瑚海(さんごうみ)みどり。女優として本作の主人公も演じている。
主人公は、アスペルガーの傾向があるアラフィフ女性・楠木一葉。母親の一周忌に叔父から言われた「子どもはもう作らないのか」という言葉をきっかけに、発達障害グレーゾーンである自分自身の存在や夫の気持ち、子どもをもつことの難しさに葛藤していく。


瑚海みどり監督自身も発達障害グレーゾーンの当事者のひとりだ。発達障害グレーゾーンとは、発達障害の傾向があるものの発達障害という診断には至らない状態を指す。本作では、発達障害グレーゾーンであるが故の生きづらさを知る当事者として、「子どもをもつことは幸せの証」という世の中の“普通”に真正面から疑問をぶつけ、発達障害グレーゾーンに悩む女性の生き様を描き切った。
対談の内容を一部公開「私の人生は昔があって今がある」
アップリンク吉祥寺に続き、2024年1月からはシアターセブン(大阪)やアップリンク京都での上映も決定している映画「99%、いつも曇り」のパンフレットには、瑚海みどり監督と同じく発達障害グレーゾーンの当事者である漫画家・クロミツ氏との対談が掲載されている。
クロミツ氏はKADOKAWAより12月20日に発売されるコミックエッセイ「灰低カタルシス グレーゾーンダイアリー」の作者で、40代半ばで判明した発達障害グレーゾーンという特性と向き合い、生きづらさを克服していく奮闘記を描いた。
この度、そのクロミツ氏と瑚海みどり監督の対談内容を抜粋紹介する。

【対談】漫画家クロミツ VS 瑚海みどり +KADOKAWA編集 澤田(一部抜粋)
(瑚海みどり/以下、瑚海)映画って観てもらいました?
(クロミツ/以下、クロ)あ、観ました。
(瑚海)あ、観ました?どうでした?
(クロ)あの、すごいリアルだなと思いました。一つひとつの所作がすごいリアルに感じましたね。
(瑚海)私自身はちゃんと診断は受けてないんです。私、役者をずっとやってたんですけど、いっとき辞めてて。そのとき、昔お世話になった劇作家から演出助手をやってくれないか?って頼まれまして。それで、その劇作家のお兄さんが発達障害の子どもたちを見たりする先生みたいなことをやってたんです。そういうことから発達障害のことを彼女も知識として知っていて、「私もアスペルガーだけど、あんたもそうだと思うよ」って言われて。その後、全然別のところで一緒になった役者にも「私アスペルガーなんですけどサンゴさんも多分そうだと思います」って言われて。そこから、そうなのかなと思うようになったんですね。それで、今回長編映画を作ろうと思ったときに調べ始めたら、最近は「グレーゾーン」と呼ばれる、診断では発達障害までいかないんだけど傾向がある人たちが悩んでるっていう話がYouTubeにいっぱい上がってて。日本っていうのは閉鎖的だったりするからそういうところを書くのは挑戦しがいがあるんじゃないかなと思って書き始めたんですよね。
◆本当はどっちなんだ?自分はどっちなんだろう?
(瑚海)漫画、読ませていただいたんですけども。お父さんの存在とか、軋轢みたいなのとか、特に自分を追い詰めていく感じがね、すごく私にも響いたんですよ。

(クロ)親父とは、僕自身が親子喧嘩とが得意じゃなくて……親父はガンッて言ってくるんですけど、でもどっかで、ごめんな、と思いながら言ってきてるのかなって思っていましたね。
(瑚海)私たちの親の世代って口が悪いじゃないですか。「毒親」っていう言い方をするとそこまで毒ではないんだけども、結構口がきつい。そのことがあって、私は自分の生きづらさやコンプレックスが強くなっていったと思うんですよね。漫画を読んだ感想として、クロミツさんも漫画しかないんだ!って行き着くまでにちょっとお時間がかかったのかなという印象でした。私もこの映画を作るに至るまでっていうのが、やっぱり時間かかっていて。クロミツさんの白いやつと黒いやつが出てきて自分をずっと……。
(クロ)「どっちなんだ」と言ってくるみたいなね。
(瑚海)あれがものすごくリアルにわかってよかった。
(クロ)よかった!この描き方あってるのかどうかわからないまま描いてたんで。自分がぶつかり合って、本当はどっちなんだ?自分はどっちなんだろう?というふうに思いながら描いてました。



◆私の人生はこうやって流れてきたから今がある
(瑚海)こういうふうになってきた道のりってやっぱり大事だと思うから、「何々だったら早く漫画家になれたのにね」っていうことはなかったと思うんですよね。私も「早く自分を素直に認めてスタートしてたら活躍してたかもしれないね」とか誰かに言われたとしても、そんなことはなくって。私の人生はこうやって流れてきたから今があるんだと思っているので。それが全部血肉となって、漫画にもこれだけ描けるっていうのは、めげずに引きこもったりせずにこれた強さもあるし、その力を親が授けてくれたというのもあるだろうし。
(クロ)はい。そうですね。おっしゃる通りで。
(瑚海)なので読んでるとジーンとくるっていうか、なんかすげえわかるっていうのがあって……私は朝起きるともう死んでたらいいなって思うこととかもよくあった。
(クロ)僕もありますね。なんか生きるの面倒くさいな、みたいな。
(瑚海)また始まっちゃった、みたいなね。だけど、あるときから考え方が変わったというか、何でも前向きに捉えていけば自分の武器になるっていうか、どれもこれも使えるなって思ってて。嫌なことが起きるとめんどくせえなって言いながらもそれも書いちゃえ、みたいなね。朝起きたら死んでたらいいなって思うようなこととか、リアルに書けて。大丈夫、みんなやってることだからっていうね。
(澤田)純粋な興味なんですが、お2人はご自身の経験を書いているわけですよね。いわゆる自分の写し鏡のようなところだと思うんですけど、正直書きたくないみたいなものはなかったんですか?
(瑚海)ありましたありました。具体的に言うと子どものことを語るシーンは本当の話ですね。「子どもが同じような思いしたらどうしようとかって心配した」って自分で書くのは嫌だなと思って、ちょっと覚悟がいりましたね。
(澤田)泣きました、あのシーン。クロミツさんは書きたくなかったものはありましたか?
(クロ)僕は、会社で怒られっぱなしだったけど、社長に言われたことがどうしてもすごい心残りだったんで。君は人が1年でできることを3年かかるかもしれないけど、しっかりやっていきなさいねっていうような。これは絶対描かなきゃ駄目だなと思いました。

(瑚海)私、あのシーンがすごくグッときましたよ。クロミツさんが今後いろいろ苦労するかもしれないっていうことを彼は見ててくれて、それを言葉としてアドバイスしてくれて、しかも投げやりな言葉じゃなくって、頑張っていきなさいよって最後に見送ってくれる感じが、いいシーンだなと思いました。
(クロ)曝け出すって、結構大変な作業ですよね。

取材協力=瑚海みどり、クロミツ
文=澤田麻依
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