「たった一杯のラーメンでも立派な食事である」。ひとりの主婦が創業した「桂花ラーメン」が愛され続けるワケ

東京ウォーカー(全国版)

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東京・新宿エリアにはいくつものラーメン店があるが、時代の変化をモロに受ける巨大繁華街でもあることから、長く経営している店はそう多くはない。そんななか、50年以上もの間愛され続けているラーメン店のひとつが「桂花ラーメン」だ。

現在は、熊本県と東京都を拠点とし、フランチャイズ店も含めて計13店舗を運営しているが、もともとは今から69年前の1955年に、たったひとりの主婦が熊本県で創業したという「桂花ラーメン」。創業から13年後の1968年には東京・新宿に出店し、今では「新宿っ子のソウルフード」とも言わしめる存在となった。

しかし、「桂花ラーメン」が東京に進出した時代は、熊本ラーメンはもとより九州スタイルのとんこつを炊き込んだスープは、まだ関東人にはほとんどなじみのないもの。では、「桂花ラーメン」はどのようにして客をつかんでいったのだろうか?今回は、現在の運営元である桂花拉麺株式会社の常務取締役で、創業者の孫にあたる小林史子さんに話を聞いた。

熊本ラーメンの代表格「桂花ラーメン」。東京・新宿エリアのソウルフードにもなっている


「たった一杯のラーメンでも立派な食事である」という信念

1953年6月、熊本県を含む九州地方北部を中心に集中豪雨が襲い、死者・行方不明者が1000名を超える大水害となった。後に「昭和28年西日本水害」と呼ばれ、日本の災害史に刻まれる大被害となったが、この影響で地元では多くの人が仕事を失い、路頭に迷うことになった。

そんななか、2人の子を持つ主婦が「自分も何かで家計を支えなければいけない」と立ち上がった。それが、桂花ラーメン創業者の久富サツキさんだ。

29歳という若さで「桂花ラーメン」を創業者した久富サツキさん


食べることにも困るような時代だったため、「カレーかラーメンの店がいいのではないか」と思ったというが、当時はまだ熊本県でも珍しかった「とんこつラーメン」を考案。熊本県の繁華街の一角に、最初の店を開店させた。店名は、中国語で「キンモクセイ」を意味する「桂花」と名付けた。これには「キンモクセイのように芳醇な香りに魅せられて、多くの人々にお店に集まっていただけるように。そして、集まった人々が、オレンジ色の花が一面に広がるキンモクセイ畑のようにたくさんの笑顔で満たされるように」といった願いが込められているそうだ。

「繁華街の一角に出した最初のお店では、“豚の頭を炊く”という工程に多くの人が驚いていたと聞いています。裏口から垣間見える風景に、『まさか猫の頭を炊いているのでは…』という誤解や風評に耐える時期もあったようです。しかし2児の母親でもあった久富は、“食が体を作る”という信念のもと、子どもに栄養満点の食事を提供できるように『たった一杯のラーメンでも、栄養もしっかりとれる立派な食事である』という発想を持っていました」

この言葉にあるとおり、「桂花ラーメン」は十分な食べ応えを感じつつ、バランスに優れた構成になっている。豚と鶏のガラを長時間かけてグラグラ炊いて栄養たっぷりのスープを作り、そのスープがよく絡む中太ストレート麺、強い風味のある香味野菜の焦がし油・マー油で仕上げるのが「桂花ラーメン」のスタイルだ。

今から69年前に久富さんが考案したコンセプトと味わいは、今日まで大きくは変えず、細部のみをブラッシュアップ。幾度かの工場移転に伴い、製造ラインの見直しや麺の配合などを改良する程度だったという。

「十分な食べ応えを表現しながらも、ラーメン全体としてのバランスが崩れないよう意識しています。個性あるスープ、麺、具材であっても、それぞれがぶつかり過ぎず、調和がとれるようにトッピングの叉焼や太肉(ターロー)の味付けはシンプルに、メンマなどの味付けも控えめにしています。こういった点もこだわりのひとつです」

当初は物珍しさから「麺が硬い」「生煮えではないか」といった意見も

「桂花ラーメン」の繊細なコンセプトから誕生した個性的な味わいは、地元・熊本県で好評を博し、後に県外に進出。しかし福岡県などではなく、いきなり東京への進出となった。

当時は、東日本エリアでとんこつラーメンの店はほとんどなく、ご当地ラーメンと言えば札幌ラーメンくらいしかなかった時代だ。久富さんはどのようにして東京進出を決めたのだろうか。

「熊本からより近い福岡や大阪ではなく東京だったのは、久富の『外に出る苦労は同じだから、それならいっそ東京で有名になろう』という、思い切った性格からでした。東京の土地勘が全くなかったので、知人に案内されながら、さまざまな繁華街を歩いて物件を探しました。そして当時の新宿のゴールデン街の賑わいを見て、『この近くならうまくいきそうだ』と思ったようです。新宿には、サラリーマンの方はもちろん、近くの大学や専門学校の学生も多く、『桂花ラーメン』のコンセプトと味をきっと受け入れてもらえるだろうと思ってのことだったと聞いています。ただし、最初は『とんこつラーメンは見たこともない』というお客様がほとんどでした。真っ白のスープを凝視されるお客様がいらっしゃったり、クセのある香りに驚かれたりすることも多かったようです。また、歯応えある麺に対しても『硬い』『生煮えではないか』と言う方もいらっしゃいました(笑)」

こういった客からのあらゆる驚きに対し、「桂花ラーメン」では「1回目は驚き、2回目は徐々に魅力に気付き、3回食べるとヤミツキになる」と伝え続け、その言葉通りに少しずつ熱烈なファンを獲得していった。

東京進出の1号店・新宿三丁目にある新宿末広店。中央にいるのが久富さん


後に「桂花ラーメン」では、「太肉麺」(ターローメン)という、当初のコンセプトをそのまま象徴するかのようなメニューを考案。ラーメンの上に特製の角煮(太肉)と生キャベツ、そして茎ワカメをのせたひと品だ。現在も、数あるメニューの中でも不動の人気を誇っている。

「ラーメンを『一回の食事の機会』として考えていた久富は、ラーメン一杯でも、一汁三菜のような栄養バランスをご提供したいと考えていました。そこで誕生したのが『太肉麺』でした。サッと食べられてしっかり栄養がとれるようにし、『育ち盛り、働き盛りのお客様の心もお腹も満たす一杯になるよう』と愛情を込めて考案したと聞いています」

各店で煮込まれる、名物の太肉

「桂花ラーメン」の不動の人気メニュー「太肉麺」

太肉の塊が2つものりながら、栄養バランスや彩りを考慮してたっぷりのキャベツ、茎ワカメなどものっている

中太ストレート麺とのバランスもばっちり!


親戚や地元・熊本の人々に継承しながら、熊本ラーメンの一端を担う

東京・新宿を舞台に、右肩上がりで絶大な支持を得ていった「桂花ラーメン」だが、東京進出から10年ほどの間に、久富さんは大病を抱えてしまう。熊本〜東京間の移動もままならなくなり、東京および熊本の店それぞれの運営を親戚に任せることになったという。

「工場や本店を含む熊本の店は娘夫婦に、東京は立ち上げから携わっていた甥を中心に運営するようになりました。また、人手不足のときは熊本から東京に進学する学生さんに契約アルバイトとして来てもらったり、家族の力や郷土からの応援で支えられました。そして、2011年には熊本の食品メーカー・重光産業グループに事業を譲渡。その一員としてみなさまに支えていただき、原点回帰やたくさんの学びをいただくようになりました。重光産業グループの『味千ラーメン』とともに、熊本ラーメンの魅力を伝える一端を担うブランドとして、これからもみなさまに恩返ししていければと思っています」

そして、久富サツキさんが2019年8月に永眠。享年93歳だった。

「久富が最も大切にしていたことは、『自分で生み出した食で体と心を支えること』でした。『素材を仕入れて思いを込めて手作りし、“本物の味”を出すことでこそお客様に伝わるのだ』ということをよく口にしていました。そして、強く掲げていた『栄養いっぱい、お腹も心も満たす一杯であり続けたい』という久富の思いを引き継ぎ、さらなる未来へ向けて邁進しようと、あらためて心に誓いました」

その思いを表すかのように、近年「桂花ラーメン」では新たな挑戦をし続けている。「桂花ラーメン」「太肉麺」といった基本のメニューは守りながらも、季節限定メニューや不定期で展開されるメニューなども各店で考案。また、2023年12月からは、渋谷センター街店で実験的に曜日限定(木〜日)で24時間営業をスタートさせた。

さらに、通販事業にも着手し、お店の味をそのまま届ける「店舗直送便」というサービスもスタート。渋谷センター街店で毎日作られるスープと具材をそのまま冷凍して届けるというものだが、従来の常温保存可能な袋麺タイプと併せて、ファンの間で支持を集めているという。

「桂花ラーメン」のスープは店ごとに若干の違いがあり、各店にファンがいるのも特徴

新宿・歌舞伎町に近い「桂花ラーメン 新宿ふぁんてん」


長い歴史を持つ「桂花ラーメン」でも、これまでの成果におごることなく、変化し続ける人々の生活スタイルに柔軟に応え続け、進化を遂げようとしている。

「『桂花ラーメン』の社是は、『和』というものです。ラーメンのどんぶり一杯の中にある調和、支えてくださるお客様との感謝の和、どんなときでも欠かさずに食材を納品してくださる業者さんとの和、そして新しいニーズに対する和を、これからも大切に、さらに多くの方々に『桂花ラーメン』の味をご提供していきたいと考えています。お客様とお店の出合いはさまざまですが、『久々にお店で食べたけど、やっぱりおいしかった』…そういったお声をいただくのが、私たちの何よりの励みになっています。お店に立ち寄っていただき、元気になって帰っていただく姿をお見送りするのが、私たちの元気のもとです。久富が店に立ってお客様を笑顔で送り出していたことを忘れない一方で、時代の変化に合わせてこれからも進化し続けていきます」

取材・文=松田義人(deco)

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