コーヒーで旅する日本/四国編|喫茶店全盛期から40余年。「可否庵」の多彩な豆の顔ぶれが物語る、変化を続ける老舗の懐深さ

東京ウォーカー(全国版)

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職人の経験とデータの融合、二人三脚の味作り

杉さんの加入を機に焙煎機を新調。小ロットのシングルオリジンを焼くときには、500グラムの小型焙煎機を使うことも

中深煎りと深煎り、2種の看板ブレンドはお客の好みに合わせて考案したもの。当時の徳島では、コーヒーといえば深煎りが主流だったが、そのなかにあって、近藤さんは一貫して浅煎り党。実は、開店当初に大量に買ったタンザニアの豆も、自らが飲むため浅煎り豆を焼くために使い、残りをアイスコーヒー用にしていたという。独学で始めた自家焙煎だったが、「その頃は勘頼みで、ひとりでやっていたから、技術を上げるにも限界がありました」と近藤さん。その間、街の姿も変わり、近隣にあった会社や喫茶店も減っていく、時代の変化の中で大きな転機となったのは2016年。娘婿にあたる杉大輔さんが、店に関わり始めたことだった。

実は、近藤さんの奥様は、徳島の人気ベーカリー・オーバッシュクラストを手掛け、姉妹店のオーバッシュカフェを娘のみわこさんが担当。杉さんと結婚した当時、みわこさんは、母のパンと共に父のコーヒーを受け継ごうと、焙煎の勉強をし始めていた頃だった。「マスターの焙煎技術を残そうと、妻は週に1回、マスターから焙煎のやり方を教わっていました。たまたま僕も付いていって、見せてもらったらおもしろくて。コーヒーは元々好きだったこともあり、ここで興味を刺激されて奥深さを知りました。そうして通ううちに、いつのまにか僕のほうが進んでやるようになると、妻はすっとフェイドアウトしていって(笑)、僕が焙煎担当になりました」

オーバッシュクラストのパンを使用したフードセットの中でも、一番人気のアボカド・エビ・チーズベーグル900円。ブレンドコーヒーor紅茶付き


その頃、杉さんは神山町で別の仕事をしていたが、2017年から「可否庵」に完全移行。近藤さんも、「2人が本気でやるならば」と、ちょうど修理がきかなくなったブタ窯を、新しい焙煎機に入れ替えた。「まずマスターの焙煎プロファイルを残そうと、データを取るのに半年くらいかかりました。その間に何となく自分なりのやり方を模索してきたけど、実際に試すと違うことも多い。ゴールはない仕事ですが、2人でやると違う視点を共有できるというのは大きい」と杉さん。対して、「数字だけでなく、豆の状態を見て焼くことも大事」とは近藤さん。職人の経験とデータに基づいたアプローチの融合が、「可否庵」の新たな味作りのスタンダードとなった。

また以前は、表立ってオーバッシュクラストとの関係は打ち出してこなかったが、杉さん夫妻が加わって以降は、近年は「可否庵」でのパンの販売やメニュー提供だけでなく、一緒にイベントなどに出店する機会も増えてきた。パンとコーヒーのコラボレーションの広がりも、店の新たな魅力の1つになりつつある。

近藤さんの奥様が手掛ける、オーバッシュクラストのパンも販売


好みの可否は人それぞれ。お客本位を貫く老舗の懐深さ

「1投目で豆がドーム状に膨らみきったところが蒸らしの終わり。2投目以降も素早く注いで、湯の重さで抽出する感覚」と近藤さん

新たに2人で作り上げるコーヒーは、焙煎では20分くらいかけてじっくりと時間をかけて火を通すのと対照的に、抽出はスピード重視。3回の注湯をものの1分ほどで終える、あまりの早さに思わず目を見張る。「ゆっくり淹れると、旨味も出るが雑味も出る。さっと淹れて、おいしいとこだけを取る感覚。抽出の早さは西日本一です(笑)」と近藤さん。和食でいえば、すっきり澄んだ一番だしを取る感じだろうか。軽やかな口当たりのなかにも、しっかりと風味の密度があり、後を引く清々しい余韻が心地よい。杉さんが加わった6,7年前から豆の種類も増え始め、シングルオリジンの品ぞろえは年々広がっている。希少なゲイシャ種から、アナエロビックやインフューズドなど最新のプロセスまで、失礼を承知で言えば、この店構えにして今様のコーヒーがそろっていようとは、よもや思うまじ。

ホットはハリオ、アイスはカリタとドリッパーを使い分け。カリタの抽出穴はアイスピックで広げて、抽出スピードを調整している


「きっかけは、一世を風靡したパナマ・エスメラルダ・ゲイシャでした。“何これ?自分が知っているコーヒーと違う!”という衝撃を受けて以来、個性的な豆をあれこれ探すようになりました。しかも、自分が飲んでみたいという興味が先に立っているから、メニューがどんどん増えていって(笑)。売れたらラッキーくらいの感じで、いろいろ提案しています」。深煎り全盛の時代から浅煎り一途だった近藤さんにとって、ようやく出合えた浅煎りならではの多彩な味わいに好奇心は尽きない。さらに開店当初を思えば、小ロットで買える現在のスペシャルティコーヒーの普及には、隔世の感があるだろう。

店の壁には、近藤さんが趣味で弾くギターやウクレレがずらり


サードウェーブコーヒーの上陸以降は、「流れについていくのが大変」というものの、コロナ禍を機に自宅でコーヒー飲む層が増えたことで関心が高まり、浅煎りを求めて訪れる若い世代も増えているとか。いまやシングルオリジンのメニューは数えきれないほどになったが、それでも、老舗のスタンスはブレることはない。「味わいの幅は広がりましたが、最終的に、お客さんにとって好みに合うかどうかが大事。まさに可か否か、コーヒーってそういうもの」という近藤さんの姿勢は、長年、徳島のコーヒーシーンを見てきたからこそ。絶えず変化を続けながら、大らかにお客を迎える懐深さこそ、地元で厚い支持を得る所以だ。

近藤さんレコメンドのコーヒーショップは「COFFEE TO」

次回、紹介するのは、徳島市の「COFFEE TO」(トーコーヒー)。「ここでコーヒーを好きになって、若くして店を開いた店主の森田君、西谷さん夫妻は、コーヒーの好みが同じ浅煎りで、相通じるものがある2人。焙煎担当の森田君は勉強熱心で、おもしろい豆の情報を教えてもらうこともあります。シングルオリジンのみ、2人がいいと思うコーヒーをプッシュしていて、浅煎りのコーヒーを飲める店が少ない徳島では貴重な存在です」(近藤さん)

【可否庵のコーヒーデータ】
●焙煎機/フジローヤル 3キロ(直火式)、煎っ太郎 500グラム(半熱風式)
●抽出/ハンドドリップ(カリタ・ハリオ)
●焙煎度合い/浅~深煎り
●テイクアウト/ あり(500円~)
●豆の販売/ブレンド2種、シングルオリジン7~8種、100グラム550円~

取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治

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