「口をつけるのははしたない…」と受け入れられずに全然売れなかった?サーモスの「真空断熱スポーツボトル」がV字回復を果たしたワケ

東京ウォーカー(全国版)

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新製品を発売するうえで大事なことのひとつが「タイミング」。いくら品質がよくても、時代がそぐわなかったために売れなかったという製品は星の数ほど存在する。そのうちのひとつが、サーモス株式会社(以下、サーモス)が開発した「真空断熱スポーツボトル」だ。

これは業界初の「直接口をつけて飲料を飲める」保冷専用のボトル。現在では当たり前の形だが、発売当初の1998年には新しすぎて受け入れられず、販売が振るわなかったという歴史がある。しかし、その後の2002年に思わぬ形で大ヒットし、見事復活に成功。一体、どのような背景があったのだろうか。

今回はサーモス マーケティング部 商品戦略室 企画2課の山田恭平さんに、初代の真空断熱スポーツボトルが売れなかった理由や、そこからV字回復を果たしたきっかけ、そして現在のスポーツボトルのマーケティング戦略について話を聞いた。

サーモス マーケティング部 商品戦略室 企画2課の山田恭平さん【撮影=福井求】


発売後、全く売れなかった「真空断熱スポーツボトル」

サーモスが業界初の保冷専用で直接口をつけて飲む「真空断熱スポーツボトル(FBE-500)」を発売したのは1998年のこと。当時の水筒といえば、コップの形をしているフタに飲み物を注いで飲む形式が一般的だった。しかし、真空断熱スポーツボトルは従来の水筒の常識を超えた、新しいコンセプトの製品として登場した。

業界初の直接口をつけて飲むスポーツボトル「FBE-500」【提供=サーモス】

少し前の1996年には、500mlのペットボトルの飲料が発売され、飲みものを持ち歩くというライフスタイルが少しずつ定着してきていた。そのタイミングで業界初の保冷専用真空断熱スポーツボトルを発売したが、実際にフタを開けてみると初年度の発売本数は1万本程度と、全く売れない状態が続いた。

「それまでの魔法瓶は熱い飲み物を入れることを想定した製品でした。しかし、『保冷専用』を謳ったスポーツボトルはこれまでの水筒の概念とは大きく異なっていたため、あまり受け入れられませんでした。また、当時の日本人はボトルに直接口をつけて飲むことを『はしたない』『衛生的によくない』と感じる人が多かったのも、販売数が伸長しなかった要因のひとつです」

ペットボトルの台頭でボトルに口をつけて飲む文化は浸透したものの、気軽に買えて飲んだら捨てられるペットボトルの便利さに、飲料を持ち歩く水筒の需要が激減。ペットボトル飲料が充実していく反面、水筒の市場は次第に低迷することになってしまった。このようなタイミングの悪さも売れなかった原因のひとつだ、と山田さんは話す。

「FBE-500」はペットボトルのようなフタと飲み口が大きな特徴【提供=サーモス】


また、当時の日本では飲料を常に持ち歩く習慣が定着しておらず、運動会や遠足などの特別な日に飲料を持ち運ぶために水筒が使われていた。しかし、真空断熱スポーツボトルはスポーツのための水分補給や、日常的に飲料を持ち運ぶことを目的にしていたため、時代の需要にそぐわなかったことも背景にあった。

小学生の間で人気爆発!V字回復の理由とは?

しかし、時代が進むにつれて、真空断熱スポーツボトルのすぐに飲める飲み口は素早く水分補給したいスポーツシーンにおいて好評で、口コミで徐々に人気が出始めていった。さらに、2000年代前半には熱中症への注意喚起がなされはじめ、運動時の水分補給の重要性も認識されるように。同時に、水分補給のため飲料を冷たいまま持ち歩ける水筒のよさが見直され始めた。

小学生に大人気となった「FDKシリーズ」【提供=サーモス】


そのようななか、サーモスは2002年に現在のボトルの原型となる「FDKシリーズ」を発売。すると、スポーティなデザインと持ち運びやすいポーチ、そして飲みやすいボトルの形状がスポーツに取り組む小学生からの支持を得て大人気に。その後も、子どもが使いやすいように改良したり、カラーバリエーションを増やしたりするなどして、ユーザーを拡大していった。

「スポーツチームや部活動を中心に子どもたちの間で口コミが広がっていき、チーム内でスポーツボトルの人気が出ると次第に広がっていくという現象が起こりました。そして、子ども自身がスポーツボトルを選び、親に買ってもらうことが多くなりました。また、ペットボトル飲料の持参を禁止していた学校も多く、夏季の熱中症対策のための水分補給用にスポーツボトルを学校に持っていく子どもたちが増えました。このような理由から、子どもたちを中心に爆発的に広まりました」

再注目を果たした真空断熱スポーツボトル。人気に火がついたもうひとつの理由に、ワンタッチ・オープンのキャップユニットが付属していたことで、片手で簡単に開けられてすぐ水分補給できたこともあった。特に、スポーツ中の小学生からは1秒でも早く飲めることが評価され、フタを回さなければいけないペットボトルよりも便利だと話題になった。

「FJS-1500F」はポーチにすべりにくい「グリップサポート」を採用【提供=サーモス】

「FJS-1500F」は小学生が好むようなスポーティなカバーデザイン【提供=サーモス】


スポーツに打ち込む子どもたちを中心に人気が出たスポーツボトルは、運動会や遠足などに持っていくための「一家に1本」という魔法びんから大きく進化し、「1人に1本」というニーズを生み出した。そして、現在まで続く大きなマーケットを作り出すまでにいたった。サーモスのスポーツボトルは様々なシーン・用途に応じた新製品の投入を行い、2024年1月時点で累計出荷数3000万本を突破しているまさに業界のパイオニアと呼ぶにふさわしいだろう。

カラーバリエーション豊富で選ぶのも楽しいのが特徴【提供=サーモス】


「スポーツボトル人口を増やしたい!」サーモスのマーケティング戦略

サーモスの真空断熱スポーツボトルは2002年以降のヒットから進化を続け、洗いやすさを向上させたキャップユニットや、ボディをガードするカバーやポーチの採用など、さまざまなシーンや用途に応じた製品の開発を行ってきた。また、近年では小学生だけの需要にとどまらず、部活動に励む中高生やスポーツジムで運動に励む社会人などにフォーカスしたプロダクトを展開している。

「小学生のころに使っていたスポーツボトルを長く使い続けられる工夫として、ポーチを外せばスタイリッシュなデザインになる製品を展開しています。そして、ジム通いをする大人に向けて持ち手のついた持ち運びしやすいデザインのものを発売しています。マシンの移動のときに手軽に持つことができると好評です」

「FJU-1000」はさまざまなシーンで持ち運びやすいキャリーループ付き【提供=サーモス】

「FJUシリーズ」。ジム通いをする社会人をターゲットに作られた【提供=サーモス】


ボトル文化が一般化してきている現在の日本。スポーツボトルの利用者の中には、1人で2本以上ものボトルを持っている人もいるのだとか。今や用途に合わせてボトルの種類を選ぶ時代で、「1人1本」よりもさらに先に向かっている状態だ。「スポーツシーン以外でもキャンプやハイキング、仕事中など多様な場面でボトルが使われるようになっています」と山田さんは話す。

スポーツシーン以外でも、日常使いしやすいのもポイントだ【提供=サーモス】


スポーツボトルの市場開拓に成功し、現在も拡大を続けているサーモス。今後はどのようなターゲットに向けて製品開発を進めていくのだろうか。

「スポーツボトルでは、子ども向けはもちろん、最近では大人の方に向けてのマーケティングにも力を入れています。また、近年ではジムの増加をはじめ、スポーツ人口が拡大している状況です。『1人1本の水筒保有』が当たり前になったなかで、次は『1人1本のスポーツボトル保有』を目指していきたいです。また、スポーツ以外にも多様な場面でボトルが利用されるようになっていますが、まだまだ開発の余地があるのではないかと考えています。弊社から使用シーンの提案をしていくことも大事ですので、今後も頑張っていきたいです!」

「今後もスポーツボトル人口を増やしていけるよう頑張ります!」と山田さん【撮影=福井求】


これからは気温が上がり、熱中症対策や水分補給が重要になる季節に突入する。スポーツだけでなく、アウトドアやサウナ、移動中など日常的に汗をかくシーンが多くなる時期。真空断熱スポーツボトルの底力が発揮され、さまざまな人に広がっていくのが楽しみだ。

この記事のひときわ #やくにたつ
・ヒットを打ち出すためにはタイミングが大事
・時代の流れがマーケットを作り出すこともある
・「一家にひとつ」は「1人にひとつ」に進化できる

取材・文=福井求(にげば企画)

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