子どもや初心者にもおすすめのワールドプレミア公演!世界的ダンサー・熊川哲也が語る、気軽なバレエの楽しみ方と「マーメイド」の魅力
東京ウォーカー(全国版)
世界的バレエダンサーとして知られる熊川哲也さんが主宰する「K-BALLET TOKYO」。古典改訂からオリジナルにいたるまで、数々のグランドバレエを立て続けに世に送り出した熊川さんが、250万人以上の観客を魅了してきた自らのバレエ団の創立25周年記念作品として選んだのは、アンデルセン原作の童話「人魚姫」をベースにした「マーメイド」だ。公演は、ワールドプレミアとなる2024年9月8日(日)の東京を皮切りに、名古屋・大阪・札幌、そして再び東京での全17回を予定している。
そこで今回は、K-BALLET TOKYOの芸術監督でもあり、本公演で演出・振付・台本・音楽構成を務める熊川哲也さんにインタビューを実施。バレエ公演の楽しみ方から「マーメイド」の見どころまで、たっぷりと話を伺った。「新作が気になる」というバレエファンの方はもちろんだが、「バレエってなんだか気軽に行けなそう…」と思っている初心者の方にこそぜひ読んでいただきたい内容だ!
新作の「マーメイド」は子どもやバレエ初心者にもおすすめ!
―― 25周年の新作公演に「マーメイド」を選んだ理由を教えてください。
【熊川さん】
年齢が50歳を超えたいま、子どもたちにももっとバレエを楽しんでもらいたいという思いが強くなってきたんです。いままでは難しい話や濃厚な描写があるような作品が多かったんですが、「人魚姫」のストーリーは有名ですし、子どもたちにもわかりやすい。そういう意味で「マーメイド」はしっくりきました。
実はバレエ業界全体として、バレエ人口の減少が問題となっています。選択肢がたくさんある習いごとの中で、最近はバレエが選ばれなくなってきている。そういった業界の背景もあり、子どもたちが観たときに「バレエってすごいな!」「バレリーナになりたいな!」と感じてもらえるような作品を作らなきゃいけないと思うようになりました。そこで選んだのが「人魚姫」の話、「マーメイド」です。とはいえ、決して子ども向けに作ったわけではないんです。バレエファンの皆さんにも楽しんでもらえるようなテクニックもしっかりと散りばめていますよ。
―― 原作の知名度という面でも、今回の公演は子どもやバレエ初心者がバレエに触れるきっかけとしてよさそうですね。
【熊川さん】
そうですね。僕は原作となるアンデルセンの「人魚姫」を読んでいないのですが、どんなストーリーなのかは聞き知っていました。バレエの公演は、ある程度のストーリーを事前に知っておいたほうが楽しめるので、そういう意味でも今回の「マーメイド」はバレエ初心者の入門編としてもぴったりだと思いますね。
―― バレエ初心者は、どのようにバレエの公演を楽しむのがおすすめでしょうか?
【熊川さん】
まずはいい“景色”を観てくだされば、それでいいんです。ダンサーや舞台セットを観て、歴史ある生の音楽を聴いて、「すてきだな、きれいだな」と思ってくださればそれでいい。難しいことは考えなくても大丈夫です。観光で絶景スポットに行くのと同じような感じで、きれいな景色を気軽に楽しみに来てほしいですね。
いっそう楽しんでいただくために大事なポイントを挙げるとすれば、“感受性のスイッチを入れること”ですね。バレエ公演にはセリフがありません。ただ、セリフがないからこそ、いろいろな表現ができるし、芸術性も高い。せっかくですから、お客さんもそれらの表現や芸術を受け取る準備をしておいていただけると、より楽しめると思います。
オリジナルの要素も多数!新作「マーメイド」の見どころ
―― 新作「マーメイド」で、特に注目してもらいたいポイントはどんなところですか?
【熊川さん】
今回の「マーメイド」には、海底・海面・陸という3つの場面があるんですが、それぞれの場面で動きなどの表現方法が異なります。この表現の違いは、ぜひ観てほしいポイントですね。登場するマーメイドや海の生き物たちには本来足がない、けれど実際のダンサーには足があるわけです。そこで海の中の表現では、足がないと想像していただけるような動きを探りました。
逆に陸のシーンでは、人間社会の現実的なバレエの動きが表現できる。そんな風に、自分自身も楽しみながら振付を考えましたよ。海面や海底での動きは、お客さんが“感受性のスイッチ”を入れてくれれば、ちゃんとそう見えると信じています。
―― 熊川さんの作品には毎回、原作にないオリジナルの要素が入っています。今回の「マーメイド」では、どのようなところでオリジナリティが出されているのでしょうか?
【熊川さん】
先ほども言ったとおり、まず僕が原作を読んでないんですよね。そういう意味で言えば、すべてがオリジナルかもしれません。1番大きな部分で言えば、原作には登場しない「シャーク」というキャラクターが登場します。ストーリーの序盤はほぼオリジナルのシーンなのですが、そこで嵐を起こすのがシャークです。今回のストーリーには、明確な悪役が欲しかったんですよ。そのほうがおもしろいはずだと思ったら、積極的に採用します。だって、そのほうがおもしろいんだから。
シャークは、話にリアリティを持たせてくれるキャラクターでもありますね。「マーメイド」のストーリーはファンタジーですけど、劇場はあくまでリアルな体験の場。ある程度のリアリティを出さないと楽しんでいただけないかなと考えています。
―― ほかにも公演中にクジラが現れると聞きましたが、どのように登場するのでしょうか?
【熊川さん】
それはまだ内緒です(笑)。いま言えるのは、“ハワイからクジラを連れて来る”ということだけ。きっと驚いていただけると思いますので、楽しみにしていてください。…さすがにちょっと自分でハードルを上げすぎかな?(笑)
人のために東京でも地方でも 世界初演作に全力で取り組む
―― 2024年9月8日(日)に開催される1回目の東京公演は今日現在で全席完売。世界初演となるK-バレエの新作を最速で観るなら、次の名古屋公演という状況です。東京公演と地方公演ではどんな違いがありますか? ※取材日は8月16日
【熊川さん】
今回はトリプルキャストで、公演によって役を演じるダンサーが違います。それぞれニュアンスの違いはあるかもしれませんが、大きな違いはありません。気持ちの面で言っても、東京でも地方でも変わりはありませんね。
若いころは自分の“好き”を発信して、それでお客さんに喜んでもらえればいいと思っていました。でも、だんだんと「自分のためではなく、誰かのためにバレエをやろう」という気持ちに変わってきました。期待して待ってくれている人がいるなら、東京でも名古屋でも大阪でも、どこでも変わらず全力でやりたいと特に強く思うようになりましたね。いまは誰でも気軽に情報発信できる時代ですし、東京でも地方でもそのあたりはまったく変わらないので、どこであっても一切気は抜けないなと思っています。
―― 最後に、この記事を読んでいる方へメッセージをお願いします。
【熊川さん】
あるダンサーが、今回の公演の稽古中に「水族館みたいですね」って言っていたんですよ。ぜひ観客の皆さんにも、水族館に行ったような感覚で「きれいだな」と思って楽しんでいただければいいなと思っています。登場するイルカやクマノミ、ヤドカリなんかもみんなかわいいので、楽しみにしていてください。
僕は、バレエは“アート”であって“ショー”ではいけないと思っています。アートは観客の皆さんに考える余地を残す、そしてクラシックでなければいけないと。だから皆さんも“感受性のスイッチ”を入れて、目で見ているもの以上のものを心で感じていただきたいですね。
大人も十分に楽しめる内容という自負はありますが、今回は子どもたちにもぜひ観てほしいので、お子様を連れて観に来ていただけたらうれしいです。
―― ありがとうございました!
「Daiwa House presents 熊川哲也 K-BALLET TOKYO Autumn Tour 2024『マーメイド』」公演情報
【東京公演(1回目)/1公演】
開催日:2024年9月8日(日)
会場:東京文化会館 大ホール(東京都台東区)
開演(開場):15時〜(開場は45分前)
料金:※全席完売
【名古屋公演/1公演】
開催日:2024年9月10日(火)
会場:愛知県芸術劇場 大ホール(愛知県名古屋市)
時間:18時30分〜(開場は45分前)
料金:S席 1万7000円、A席 1万3000円、B席 9000円、C席 7000円ほか
【大阪公演/2公演】
開催日:2024年9月13日(金)
会場:フェスティバルホール(大阪府大阪市)
時間:14時〜、18時30分〜(開場は各60分前)
料金:S席 1万7000円、A席 1万3000円、B席 9000円、C席 7000円、学生 5000円、BOX 2万2000円、バルコニーBOX 2万6000円、Kプラチナシート 2万1000円
【札幌公演/2公演】
開催日:2024年9月18日(金)
会場:札幌文化芸術劇場 hitaru(北海道札幌市)
時間:14時〜、18時30分〜(開場は各60分前)
料金:S席 1万8000円、A席 1万5000円、B席 1万1000円、C席 9000円、Kプラチナシート 2万2000円
【東京公演(2回目)/11公演】
開催日:2024年9月21日(土)~23日(振休)、28日(土)・29日(日)、10月4日(金)~6日(日)
会場:Bunkamura オーチャードホール(東京都渋谷区)
時間:9月21日(土)、28(土)、10月4日(金)・5日(土)は18時30分〜、22日(日)・23日(振休)、29日(日)は13時〜、17時15分〜、10月6日(日)は13時〜(開場は各30分前)
料金:S席 1万7000円、A席 1万3000円、B席 9000円、C席 7000円、A親子席 1万7000円、学生 4000円、Kプラチナシート 2万1000円
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取材・文=民田瑞歩
※2024年8月30日現在の情報です。
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