【連載/ウワサの映画 Vol.3】全シーンが絵画的美しさ。麗しすぎるP・レネに目が眩む!
東海ウォーカー
人生初、たった1枚のメインビジュアルに”絶対に観る!”と決意させられた「婚約者の友人」。ヒゲが主張しずぎな美男子と、複雑な面持ちで彼を見つめるウブそうな娘さん。2人の微妙な距離に横たわる”ワケあり”な事情に首を突っ込まずにはいられない…。調べてみたら、このヒゲ男子は「イヴ・サンローラン」でブレイクしたピエール・二ネ、監督はフランソワ・オゾンではないか!前知識を得たことで、そのモノクロ写真から匂い立つ濃密な空気感に、早くも陶酔状態になっちゃいました。

本作の影の主役と言える、第一次世界大戦でフランスと戦い戦死したドイツ人青年・フランツ。彼の幻影に魅入られた周囲の人々を巡るミステリー・ドラマです。舞台は1919年・敗戦直後のドイツ。ヒロインであるアンナ(パウラ・ベーア)の婚約者・フランツの墓の前で泣いていた見知らぬフランス人・アドリアン(ピエール・ニネ)。戦前にパリ留学をしていたフランツと知り合ったという彼が語る2人の友情物語に、悲嘆の日々を送るフランツの両親とアンナは癒されます。徐々にアドリアンに恋心を寄せていくアンナでしたが、彼が自身の”正体”を告白したことから、再び悲しみのどん底に…。彼女は、多くの謎を残してフランスへ帰国し、消息を絶ったアドリアンを探すためにフランスへ旅立ちますが…。

モノクロをメインにした映像マジックが見事!「8人の女たち」や「スイミング・プール」など色彩豊かな映像美に定評のあるオゾンですが、モノクロを採用した今作でもその威力は健在。情報過多の現代、色の限定がこんなにも想像を掻き立てるなんて。アンナのホクロ1つに釘付けになり、感情をより注意深く追いかけるようにもなる。さらに、若干のカラー映像を差し込むことで、モノクロが暗示する哀惜を強調することにも成功。回想や嘘、幸福など登場人物の気持ちの高まりを表すカラー・パートはどこか夢心地で、マネの絵画「自殺」を用いた”血”のイメージも、死が生に与えるある種のエネルギーを巧みに印象付けます。1つのシーンにモノクロとカラーを交錯させたりと、手法も斬新です。

謎解きのスリルと並行して、”嘘”をモチーフに人間の性を浮き彫りにしていく展開にも唸ります。戦争で自身の一部を失い、フランツに取り憑かれた感もあるアドリアンがポロっと放つ嘘。それがフランツの両親には安らぎをもたらし、アンナには安らぎののちに痛みをもたらす。1つの嘘が新たな嘘を呼び、いびつな波紋を広げていくのです。そして、あれ、あれれ…、いつの間にか皆さん、エゴが全開になってますよー!戦禍を生き延びた人々は、この先を生きねばならない。ならば”より良く””より幸せに”…、と。生命力としてのエゴを投入し、オゾン特有の毒をほんの少し効かせています。

いつもの毒を抑え、フランスとドイツの闇に真摯に向き合った、オゾンにしては珍しい(?)正統派作品です。ナチへの熱狂を予感させるドイツ国民の荒み具合といい、ゾクッとさせる描写も冴えてます。2人の男性を巡る愛と嘘をバネに強く再生するアンナに重ねた、反戦と人間賛歌の物語でもありました。

それにしても、ピエール・ニネの浮世離れしたイケメンぶりは芸術の域。「お前、いったい何がしたいんだよ!」と挙動不審だったり優柔不断だったり自分勝手だったりするアドリアンも、かっこいいから許します。でも一番見たかったニネのお色気シーンが待てど暮らせど現れず…。お得意の官能要素を封印するなんて…、オゾンの裏切りに涙。【東海ウォーカー】

【映画ライター/おおまえ】年間200本以上の映画を鑑賞。ジャンル問わず鑑賞するが、駄作にはクソっ!っとポップコーンを投げつける、という辛口な部分も。そんなライターが、良いも悪いも、最新映画をレビューします! 最近のお気に入りは10月27日公開「ゲット・アウト」のジョーダン・ピ―ル監督。
おおまえ
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