人との程よい距離の取り方がわからない。他人の想い出が欲しくてシャッターを押す日々【作者に聞く】

XやInstagramでイラストや漫画を発信しているせきやよい(@sk_yayoi3)さん。2020年からイラストレーターとして本格的に活動を開始し、今ではループアニメーションやGIF動画などのショートアニメーションのほか、MV用イラストや書籍の装画、挿絵、ジャケットイラストの制作、個展開催、グッズ販売など幅広く活躍。温かさが伝わってくる人物の表情や柔らかい色使いが魅力で、2024年に公開した漫画「日暮夕子は今日も想い出を盗る」もファンから好評だ。

ウォーカープラスでは「日暮夕子は今日も想い出を盗る」を、せきやよいさんのインタビューとともにご紹介。こだわりポイントやお気に入りのシーン、見どころや制作の裏側、作品への思いなどを、連載として全5回でお届けする。

第2回となる今回は、主人公の夕子が引っ越してきたアパートの隣に住むおばあさんと出会う4話と5話。人とはあまり関係を持たないと決めている夕子は、簡単に懐に入ってくるおばあさんに戸惑う。静かな田舎ライフを望んでいた夕子に、おばあさんが放った一言とは―。

一人になりたがる夕子におばあさんが出した交換条件

――第1回でお聞きした「日暮夕子は今日も想い出を盗る」を描くきっかけとなった「架空装丁シリーズ」(架空の表紙イラスト)について、描き始めたきっかけはありますか？また、どのような思いで描かれているのでしょうか。

「自主制作として描いていた一枚絵を眺めていたとき、短編のようなストーリーが頭の中に浮かび、『これ小説の表紙っぽくしてみたいな』と思ったのがきっかけです。また、本が好きなことと、装画のお仕事に携わることが夢の一つだったので、それも相まって定期的に制作を始めました。はじめのうちこそ自主制作で描いたイラストにあとで追加するようにタイトルなどを入れていたのですが、段々と帯が入ることを意識したり、余白を考えたりなど、〝架空装丁用のイラスト〟を描くことが増えました。自主制作はすべてストーリーを考えながら描いているのですが、架空装丁用のイラストはストーリーの内容をもっと深く考えながら描くことが多いです(漫画1話分や短編集の1話分くらい)」

――「日暮夕子は今日も想い出を盗る」4話のこだわりポイントを教えてください。

「これまで盗ってきた写真を壁一面に貼り、眺める夕子。とあることをきっかけに誰かと思い出や時間を共有することを避けてきた夕子は、他人の想い出を盗ることで架空の思い出を作り自分を生かしています。そんなある日、よく行く公園で猫を待ち伏せてシャッターを切ろうとした瞬間、レンズの目の前に見知らぬおばあちゃんが現れます。4話ではキーパーソンとなるこのおばあちゃんによって、夕子の表情が目に見えて変化していくところが見どころです。特に最後のページの驚くシーンは大袈裟なくらいの表情にしました。驚いてるを通り越して、もはや恐怖で涙も溢れ出てます(笑)。4話を境目にデフォルメの表情が高頻度で出てくるようになるので、この回は夕子の気持ちや表情の変化のきっかけとなるお話になりました。また、ここまでのお話ではゆっくりと時間が流れるような内容だったので、どこかで波をつけたいなと思い、おばあちゃんが普通に登場するだけだとインパクトに欠けるなぁと感じ、アクティブな登場の仕方を考えました」

――5話の見どころを教えてください。

「物陰からカメラを構えていた夕子は、おばあちゃんに自分が怪しいやつだと思われているんじゃないかと、この世の終わりかのように絶望してしまいます。そんな考えとは裏腹に、おばあちゃんは気さくに話しかけてきて、あれよあれよと後をついて行った先は…というお話です。夕子の淡々とした感情や、行き場所のない気持ちをかき乱したい気持ちをおばあちゃんに込めました。お腹が空いた夕子を何の躊躇もなく半ば強引に連れていくシーンは、過去の自分とその時助けてくれた人たちとの記憶を重ねています。まさに漫画と同じような感じで、表には出さないけど内心ちょっと引き気味で…でも連れ出してもらえたことによって何かが変わるきっかけになりました」

最後に「日暮夕子は今日も想い出を盗る」のタイトルにどのような思いが込められているのか尋ねると、「架空装丁を描いた当初につけたタイトルなのですが、イラスト自体は柔らかくて温かい雰囲気だけど、タイトルは少し意味を含んだミステリアスなものにしたいと思っていました。主人公の女の子がとあることをきっかけにカメラで写真を撮る行為に後ろめたさを感じるという設定なのですが、そこを含めて撮るをあえて『盗る』にしました」と話してくれた。

取材協力：せきやよい(@sk_yayoi3)