アイヌ民族の目線で見る知床の自然

北海道ウォーカー

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多様な動植物が見られることからユネスコの自然遺産に登録された知床。その自然をアイヌ目線でガイドしてもらうと…? 自然と密接に結びついていたアイヌの暮らしが見えてきました。

アイヌ式の祈りを捧げツアー開始


ガイド歴12年の早坂雅賀(まさよし)さん


参加したのは「アイヌ民族と歩く知床の自然」ツアー。ガイドしてくださるのはガイド歴12年の早坂雅賀(まさよし)さんです。アイヌ民族の血を引き、アイヌの文化を広く伝えるアイヌ・アート・プロジェクトのメンバーとしても活躍しています。待ち合わせ場所の知床自然センターにはアイヌの楽器、トンコリを片手に登場。あとで演奏が聞けるのかな? 楽しみです。

ツアーはフレぺの滝遊歩道を使った約2キロ、2時間のコースです。まずはツアーの無事を願いカムイ(神)に祈りを捧げます。

ガイドツアーへ出発!


知床と言えばヒグマ。ツアー開始前に、クマに遭ってしまった場合の対処法もレクチャーされます。声を出さない、走って逃げない。そして「そーっと私の後ろに来てください。あとは私が話し合いで解決します」と早坂さん。

冗談かと思いきや、早坂さんは実際、至近距離でクマに出会ってしまった経験をお持ちでした汗。その時は目をそらさずにじーっとクマの目を見ていていたら、クマのほうから去っていったのだそう。まぁ話し合いというか、気迫勝ち?(クマスプレーももちろんお持ちです。ご安心を)。

知床自然センターにあったクマの毛皮についていたツメ。毛は意外に柔らかい


カムイに祈りを捧げる早坂さんの後ろで、その話を思い出し「クマは見てみたいけれど、近距離はやめてください」とカムイにお祈り。ちなみに手をすり合わせ手のひらを見せるアイヌ式のお祈りのしぐさは「私は手に何も持っていません。あなた(カムイ)に対して何もするつもりはありません」ということを表すものだと教えていただきました。

役立つ部位、使い方をダイレクトに表すアイヌ語の植物名


早坂さんから意外な事実が語られ……


いよいよツアー開始です。この辺りに生えている木は細いんですよ、と言われて見回すと確かに。「開拓のために一度伐採され、そのあと自然に生えてきたり植林されたいわゆる二次林だからなんです」。え、えーっ⁉ 知床って全部原生林じゃないの? しょっぱなから衝撃の事実。

その中に1本だけ太い木がありました。エゾヤマザクラです。原生林時代からのものとみられています。かつてはすぐ横に開拓者の家があり、花を愛でるためにその木だけ伐採されなかったのでは、と早坂さん。ちなみにエゾヤマザクラのアイヌ名はカリンパニ。巻き付ける木、という意味です。装飾品として利用されていました。

アイヌの暮らしを絡めた自然ガイドでどちらの魅力もわかりやすく説明してもらえる


ちなみにアイヌ語で「花」は、直接的に役立つものでない限り、ノンノでひとくくり。まず自分たちの生活に利用できるか、が重要だったようです。

「何の跡だかわりますか?」と早坂さん


道を進むと表面の皮がところどころなくなっている木がありました。「何の跡かわかりますか?」。シカが食べた跡ですか?「シカが、“食べられるかどうか”を試した跡ですね」。この木はオオバボダイジュ。アイヌ名では「ただの内皮が採れる木」を意味する「ヤイニペシニ」と呼ばれます。

味見の結果、シカのお目当てではなかったオオバボダイジュ


アイヌの織物、アットウシでは木の内皮が材料となりますが、ニペシニ=内皮が採れる木と呼ばれていたのがシナノキ。シカの冬の非常食にもなります。そのシナノキとオオバボダイジュの見た目がそっくり! そこで「材料となる内皮が採れる木」と区別するためオオバボダイジュは「(着物を作るのには適さない)ただの内皮が採れる木」と言われるように。残念ながらシカのエサにもなりません。この木を味見してみたシカたちもさぞやがっかりしたことでしょう。

私たちがただ歩くだけの道の中に、いろいろな発見が


アイヌの人々は毒を持つ植物も、分量を調整して薬として使っていました。「毒薬ではトリカブトが最強ですね。そこにあるイケマは根に毒がありますよ」。ほかの植物に巻き付くようにして伸びているガガイモ科の植物です。

イケマの葉。根の部分に毒がある


「チセ(伝統的家屋)を建てる時、土地の魔よけに使いました。根の部分を口に含んでかみ砕き、魔よけの言葉を唱えながら吹き出しました」。毒を持って毒を制す、的な考えだったのでしょうか。ちなみに和名、アイヌ名が同じです。アイヌ語では「それ(神)の足」といったニュアンスの意味で、アイヌの人々にとって役に立つ部位を表しています。

強風が吹き抜けるため木が育ちづらく、ワラビの草原と化したエリアも


植物の名前からアイヌ語がわかってきた⁉


ようやく折り返し地点に到着


さていよいよコースの折り返し地点でもある知床観光の代表的なスポット、フレぺの滝です。「フレぺ」は赤い水(川)の意味。「北海道」と命名した冒険家の松浦武四郎がこの地を訪れた時に、滝の水をすくってみたら赤かったから…という逸話が残っていますがさて。ともかく鉄分が多いのは確かなようで、滝のある側の崖は赤っぽくなっていました。

滝の水量が多いのは6~8月。迫力のある滝を見たい方はぜひその時期に


崖がとどろどころ赤く染まっている


滝を見下ろす東屋には近くで見られる鳥の説明がありました。その中のひとつを指し、早坂さんが「ケイマフリはアイヌ語のケマフレです。意味はわかりますか? 今日出てきましたよ」と。むむ。「フレ」はフレぺの滝の「フレ」で意味は「赤」でしょ。で、ケマってなんだっけ? メモを慌ててめくると、あった! 根に毒があるイケマだ! つまり「ケマ=足」。とするとケマフレで…赤い足? 改めて説明版を見るとケイマフリは足が赤い鳥ではないか。おぉ! なんかちょっとアイヌ語がわかってきたかも? 

厳しい自然の中でたくましく生きる動物、植物の姿


木漏れ日の気持ちいい林を歩いていくと前方にやけに存在感のあるシラカバが。近寄ると切り株から5股にわかれて成長したものでした!

人一倍目を引く5股のシラカバ


シラカバは生命力が強く、切ったあとから2股、3股に分かれて成長することはありますが、5股というのは珍しいそう。油分の多いシラカバは松明や、狩りに出かけた先で使う簡易的な調理器具や食器の材料になったり、樹液を取ったりとアイヌの人の暮らしには大事な存在でした。

雨の日は知床100平方メートル運動ハウスの軒下で雨宿りをしていることもあるそう


コースも終盤。ふと見るとシカが1頭…いや2頭静かに草を食んでいます。横を人が通ろうが写真を撮ろうが知らん顔。「知床のシカは目の前で出産したりもしますよ。人のそばだとクマが出づらいことを知っているんです」。

アイヌ文化に浸るひとときも用意


ツアーの最後にトンコリを演奏していただきました。5本の弦が奏でる音は、アカゲラが木をつつく音になったり、岩の間を飛び跳ねる男の足音になったり。素朴ながらも多彩に表現されます。実は早坂さん、木彫家でもありトンコリも自作の物。トンコリが女性をかたどったものであること、そのため実のなる木で作られていること、中には通常魂代わりにガラス玉が入っていることなどを教えてくれました。

作るほうから入ったトンコリの世界。これまで300台ほど作り音も改良を重ねている


お母さん手作り、早坂さんのチカラカラペ。母方の家系に伝わるシマフクロウをモチーフにした模様が刺繍されている


そんなこんなで2時間があっという間! フレぺの滝遊歩道はガイドなしでももちろん歩けますが、それだとただ滝を見に行く往復になってしまったんだろうなぁ。つくづくもったいないっ! アイヌの人目線で見ると、自然界がより彩をもって見えることを肌で感じました。ガイド期間は4月~10月末。季節によって生えている植物が異なるのでガイド内容も異なるとのこと。別の季節も来てみたいなー。

※文中のアイヌ関連の用語は、カタカナの大文字のみで表現しているため、実際の発音と異なることがあります。

季節によって植物が異なるので、また違った魅力が。


アイヌ民族と歩く知床の自然 ■主催:NPO法人知床ナチュラリスト協会 ■住所:斜里郡斜里町ウトロ東284(集合場所はツアーによって異なる) ■電話:0152-22-5522 ■時間:9:00スタート。約2時間 ■実施日:木曜 ■催行:2名より ■料金:中学生以上4100円 小学生2100円 ■実施期間:4月~10月末

市村雅代

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