コーヒーで旅する日本/関東編|一人ひとりの一期一会が見つかる場所に。すてきな出合いから生まれた「ichigoichie」
東京ウォーカー(全国版)
刺激にあふれていて、常に先端のモノ・コトが集まっている、日本一の大都市・東京。また、東京近郊の街にもそれぞれに個性があり、その分だけ衣食住を彩る店も多数。コーヒーショップも然りだ。
「暮らしやすい街にはいいコーヒー屋さんがある」
そのことを実感できるコーヒーのバトンリレーの旅へ。

第4回は神奈川県横浜市にある「ichigoichie(いちごいちえ)」。白い壁に木目のドアと看板を配したナチュラルな装いのカフェだ。高清水綾さんは元会社員でコーヒー好きが高じて脱サラ。2024年3月に念願のカフェをオープンさせた。コーヒーとの出合いや開業のきっかけ、そして店内を彩るライトやインテリアなどお店作りまでさまざまな人との出会いから生まれたこのお店には、“一期一会”という名前がしっくりくる。

Profile|高清水綾(たかしみず・あや)
千葉県生まれ。会社員時代からコーヒーの魅力にハマり、コロナ禍で脱サラ。その後、大倉山にある居酒屋「男魚魚」のスタッフとして働き、コロナで昼営業を行うタイミングではコーヒーの提供も行っていた。そしてお店を通じて新しい人々との出会いを広げるなかで、あるお客さんの言葉をきっかけに開業を目指すように。物件探しを行いながら、開業までの約1年は居酒屋「男魚魚」を間借りし、「ichigoichie」という屋号で月1回の営業を行う。おいしいコーヒーを提供したいという自身の“やりたいこと”を追求するため、コーヒーの知識と技術を高めた後、大倉山に開業の地を見つけると2024年3月に念願の「ichigoichie」をオープン。
ひと言からはじまったコーヒー人生

一度ハマるととことん突き詰めるタイプの高清水さん。コーヒーに関しても、会社員時代には多くのセミナーに通い、ハンドドリップやカッピングを学ぶなど趣味の域を超えるほどのハマりよう。そしてコーヒーの世界に足を踏み入れたきっかけは、会社員時代にスタッフとして入っていた居酒屋で「やりたいこと」に挑戦できたこと。そこで高清水さんは迷わず、コーヒーの提供をさせてもらうことに。
「ちょうどコロナ禍で、働いていたお店が昼営業をはじめるタイミング。自分で淹れたコーヒーをお客さんに飲んでもらえるのはいい経験でしたね。そこから人との出会いもどんどん広がっていきました」と高清水さん。
そしてある時、一人のお客さんから「お店やらないの?」と開業のきっかけとなるひと言があったのもこの時期。「それまでは会社員で自分はどこかに所属する立場だと思い込み、開業なんて考えてもいなかったのですが、その言葉を聞いてからカフェを開きたいという気持ちが芽生えはじめました。この言葉がなければ、カフェはやってなかったかもしれません。私のなかでとても大きな出来事でした」

カフェの開業を決意したころはコロナ禍の真っ只なか。未曾有の事態に周りの環境も変わり、そんな状況もあり「やりたいことをしっかりやろう」と決意をより一層強めていった。その後、すぐに勤めていた会社を辞め、開業準備を進めた高清水さん。彼女の熱意と行動力には驚かされる。退職後は「MUI」での勤務を経験、その後は居酒屋「男魚魚」に勤務している時はコーヒー担当として活躍し、経験を積みながらコーヒーの知識を深め、技術を身につけていった。開業までの約1年は居酒屋「男魚魚」を間借りする形でカフェ「ichigoichie」の営業を月1回行い、目指すものを明確にしていった。
「会社員時代に行っていたセミナーやバリスタスクールで、コーヒーに関する知識が深まりました。『堀口珈琲』『LIGHT UP COFFEE』『ブルーボトルコーヒー』といった有名店をはじめ、とにかく相当行きましたね。セミナーでは抽出方法ひとつで変わる味の違いを実感。言われた通りの味が出せた時は衝撃で、その感覚は今でも覚えています。その魅力に魅せられ、さらにコーヒーにのめり込むようにハマっていきました。また、いろいろなセミナーに通ったことで豆の選び方、抽出方法といった自分のスタイルはどれがよいのか、正直迷うこともありましたが、多くの選択肢があったからこそ、より自分に合った形が見つけられたと思います」
“一期一会”に包まれた空間でコーヒーを

店があるのは横浜の繁華街からは少し離れた大倉山というエリア。子どもからお年寄りまで幅広い年齢層が暮らす静かな住宅街。穏やかな街の雰囲気が気に入り、開業の地に選んだ。


「内装は設計事務所『設計機構ワークス』、テーブルやイスは『FLANGE plywood(フランジプライウッド)』など、特にここ大倉山の企業や作家さんたちの協力があってできています。ほかにも食器は私が大好きなイイホシユミコさんの作品をセレクト。ご本人に会うことができたのですが、作品への思い入れがより強くなりました。『フランジプライウッド』さんがつなげてくれたもので、このご縁に本当に感謝です」
高清水さんの優しい人柄に加え、温かい空間は初めてでも気軽で居心地がいい。また店内を見てみるとテーブル、イスはそれぞれが材質と形が異なり、天井に吊るされたペンダントライトもすべてが違うデザイン。あえてバラバラにすることで、“一期一会”を表現したこだわりのインテリアとなっている。
おいしいコーヒーのためにセレクトした良質な「MUI」の豆

訪れた人においしさを伝えたいという想いを大切にしている。そんな高清水さんがセレクトしたのが、自身が納得のいくものとして元住吉にある「MUI」の豆。


「素材のよさを第一に考えた『MUI』さんの豆を仕入れています。フルーティな味を感じやすいという理由で浅煎りの豆を出すお店が多いのですが、こちらの豆の焙煎度は中深煎り〜深煎り。コクや苦みだけではなく、深煎りでも果実感がしっかりと感じられるのが魅力ですね。『MUI』で働いた経験もありますが、実は会社員時代から客として通っているお店。たくさんのコーヒーを飲んだなかで、おいしくて毎日でも飲みたいと思えるんです」
コーヒーに合わせた焼き菓子も人気で、すべてが高清水さんの手作り。研究熱心な高清水さんの性格もあって、お菓子作りへのこだわりも並々ならぬものだ。

「スコーンやケーキといった焼き菓子がメイン。お菓子も自分でおいしいものを出したいと思い、すべて手作りしています。お菓子作りに関しては、まず教室に通って基本から学びました。そこの先生はお菓子の味が自分好みだったのはもちろんですが、所作が美しいのも印象的でした。そんな先生と出会えたことで、お菓子作りにもより一層、ハマっていきましたね」
焼き菓子はきび砂糖やゲランドの塩など厳選素材を使い、飽きのこない優しい甘さに仕上げるのがこだわり。サクッとふわっとした食感に驚く「発酵バタースコーン」(600円)のほかにも、有機ニンジンをたっぷり使った「キャロットケーキ」(550円)や自家製粒あんと発酵バターをクッキーで挟んだ「あんバターサンド」(350円)などを準備。今後はさらにメニューを増やし、お土産用にテイクアウトできるようにしていく予定だ。
「ichigoichie」について知れば知るほど、人とのつながりが大事なんだと気づかされる。どこかに属する安定を捨て、自分の好きなコーヒーの世界に飛び込んだ、高清水さんの生き方は素晴らしくかっこいい。店内に表現された一期一会の想いは訪れた人にもきっと伝わっているはずだ。おいしいコーヒーを片手に自分なりの一期一会を探しにいきたい。

高清水さんレコメンドのコーヒーショップは「Coffee and Baked Ura」
「横浜市・西神奈川にある『Coffee and Baked Ura』は深浦さん夫婦が営み、お二人の朗らかさを体現したようなすてきで居心地のよいお店です。ご主人はハンドドリップの日本チャンピオン、奥様は名店での経験を生かしてお菓子作りを行うなど、それぞれが手がけるコーヒーと焼き菓子はかなりの本格派。間違いないおいしさを、ぜひ体感してほしいです(高清水さん)」
【「ichigoichie」のコーヒーデータ】
●抽出/ハンドドリップ(ハリオV60)
●焙煎度合い/中深煎り〜深煎り
●テイクアウト/あり
●豆の販売/200グラム1950円〜
取材・文/GAKU
撮影/大野博之(FAKE.)
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