岡田将生「村上春樹さんが書く言葉はすごく自分の中に入ってくる」“震災後30年”の物語『アフター・ザ・クエイク』が公開
東京ウォーカー(全国版)
村上春樹さんの傑作短編連作『神の子どもたちはみな踊る』のうちの4編にオリジナル設定を交えてドラマ化した『地震のあとで』。その『地震のあとで』に新たなシーンを加えて映画化した『アフター・ザ・クエイク』で、謎の“箱”を釧路へ運ぶ男・小村を岡田将生さんが演じている。
『ドライブ・マイ・カー』に続き2度目の村上作品への参加となる岡田さんに、撮影エピソードや村上作品の魅力、井上剛監督のユニークなリハーサル法について、さらに韓国に撮影で訪れた際に食べた絶品グルメなどを語ってもらった。
村上春樹さん原作の作品は「俳優として発してみたいセリフが多い」
――村上春樹さんの小説を映像化した作品への参加は『ドライブ・マイ・カー』に続いて2本目となりますが、最初に本作のお話をいただいた時の心境はいかがでしたか?
【岡田将生】最初に村上春樹さんの小説に触れたのが『ノルウェイの森』で、そのあと『ドライブ・マイ・カー』への出演が決まったタイミングで『神の子どもたちはみな踊る』も読んでいて、その時に“村上さんが書く言葉はすごく自分の中に入ってくる”と感じたんです。『ドライブ・マイ・カー』の時も思ったのですが、村上さんの作品はお芝居に関して正解がないような気がしていたので、今回の役もすごく難しいのだろうなという予感はありました。
――本作で岡田さんが演じられたパートの中で、印象に残っている言葉や大事にした言葉を教えていただけますか?
【岡田将生】小説にも本作にも登場する『からっぽ』という言葉はとても印象的というか、体内に残っていくような言葉だと感じました。ほかにも自分の中で引っかかるというか、気になる言葉が今回は多かったです。そられはすべて“俳優として発してみたいセリフ”でもあるので、あらためて今作と出会えてよかったなと思いました。
――小村の背景は劇中で具体的には描かれておらず、「なぜ妻が突然姿を消したのか」「彼の過去に何があったのか」など自分の中でいろいろと想像をしながら鑑賞していました。岡田さんご自身は小村をどのような人物だと捉えて演じられましたか?
【岡田将生】確かに、小村についての具体的な背景は語られないので、わからないことがあるとその都度「僕はこう思うのですが、みなさんはどう思いますか?」と、監督やスタッフの方々に尋ねていました。ただ、みなさんの回答が見事にバラバラで、正解がないことに気づいて。
そんな中で意識していたのは、すべてのシーンをフラットに演じるということ。きっと観る人によってそれぞれ受け止め方が違うはずなので、お芝居で大きく感情を見せることはせずに、小村のラストの表情が“からっぽ”という言葉につながることをゴールにして、そこまでは余白を意識しながら演じていました。
――演じていく中で発見したことや気づいたことがあれば教えていただけますか?
【岡田将生】撮影が進んでいく中で、“もしかしたら小村は橋本愛さん演じる未名とは結婚をしていなくて、本当は一人で暮らしてたんじゃないか。すべてが幻だったのではないか”という考えが浮かんできたんです。クランクインする前にも監督とそういったことを話しましたし、ドラマを考察する人たちのように“実はこうではないか…”と、あれこれ思考を巡らす時間がとてもおもしろく感じられて、“わからないこと”を楽しんでいる自分がいました。
そういえば、今回の現場である方から「わからないと思うことはつらくないですか?」と聞かれたのですが、僕は「わからないほうがおもしろいです」と答えました。そう思えるようになったのは30代になってからなのですが。
――20代の頃はお芝居について正解を求めることが多かったのでしょうか?
【岡田将生】20代の頃はお芝居においてはっきりとした答えを求めていたので、わりと直線的な考え方をしていたように思います。そこから経験を積んでいく中で、人間の感情や思考はもっと複雑であることに気づき、正解や答えがわからないものを楽しめるようになっていきました。30代になり、難解で複雑な作品と出会えるようになったことも大きく影響しているのかもしれません。20代の頃よりも俳優という仕事がより好きになりました。
ユニークなリハーサル法を経験「いろいろな可能性を探っていく監督の姿が印象的だった」
――井上剛監督は事前の読み合わせに関して「最初は普通にセリフを言って演じてもらって、そのあと試しにセリフを喋らずに演じてもらったりしました」と仰っていたのですが、このやり方を経験してみていかがでしたか?
【岡田将生】例えば、部屋の中で誰かと一緒にいた場合に、一言も話さなくても仕草や表情でお互いに気持ちが伝わりますし、無言で水の入ったコップをテーブルに置くだけでもいろいろな意味を持たせられるので、セリフなしで演じても成立するとは思っていたんです。今回、監督の提案で実際にリハーサルで試してみたところ、橋本さんとただ同じ空間にいるだけで“夫婦”という形が見えて、それはすごく不思議な体験でした。
――セリフありのリハーサルと同じような動きをされたのでしょうか?
【岡田将生】そうです。セリフありの動きを考えながら、セリフなしのリハーサルを試していく中で、未名との距離感や未名を見る時の眼差しなどから小村の気持ちがちゃんと伝わったように感じて、セリフがなくても成立するのだと気づかされました。リハーサルのあと、監督も『セリフがなくてもいいな』と仰っていたのを覚えています。もしかしたら今後、シーンによっては意図的にセリフを排除してみてもいいのではないか、そんな風に思えたリハーサルでした。
――長年キャリアを積まれてきた岡田さんにとって、すごく新鮮な体験だったのですね。
【岡田将生】クランクイン前にセリフなしというユニークなリハーサルに挑戦させていただけたことはいい経験になりましたし、今後もこのやり方でリハーサルをしてみたいような気もします。まだ準備が整っていない状態で行うことが多い本読みやリハーサルは、恥ずかしい時間でもあるんです。
でも、終わってみると“恥ずかしい”という気持ちを超えて“おもしろい時間だった!”と思えることもあるので不思議だなと。今回は特にセリフなしのリハーサルというやり方が楽しかったので、それを実践してくださった井上監督のことを大好きになりましたし、チームとしていろいろな可能性を探ろうとする姿勢を感じることができてうれしかったです。
――「妻が姿を消し、失意の中訪れた釧路で UFO の不思議な話を聞く小村」「焚き火が趣味の男と交流を重ねる家出少女・順子」「“神の子ども”として育てられ、不在の父の存在に疑問を抱く善也」「漫画喫茶で暮らしながら東京でゴミ拾いを続ける警備員・片桐」のエピソードが一つの映画となった本作をご覧になってどんなことを感じましたか?
【岡田将生】ドラマでは一つひとつのエピソードとして独立していたものが1本の映画としてまとまったことで、登場人物たちの人生や日本で起きた出来事など、それぞれのつながりを深く感じられたところがすてきだなと思いました。それから、ここ一年は人生において大きな変化があったこともあり、作品の見え方が以前とは違うようにも感じました。本作では“命の尊さや儚さ”について考えさせられるようなシーンがありますが、そこがより響いたように思います。
――4つの短編を1本の映画として見事にまとめ上げた井上監督のセンスが素晴らしいと感じました。現場では監督の“こだわり”を感じる瞬間も多かったのではありませんか?
【岡田将生】限られた時間の中で、俳優やスタッフといろいろな可能性を探っていく監督の姿が印象的でしたし、その中で出てきた監督のアイデアは素晴らしいものでした。機会があればまた井上監督とご一緒したいです。
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