有線イヤホンで紡ぐ愛の形――映画『(LOVE SONG)』に隠されたドラマ『2gether』のオマージュとは?チャンプ監督がカイとサラワットそれぞれの想いを語る【ネタバレあり】

東京ウォーカー(全国版)

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大好きな人に「好き」と言う。誰かにとっては簡単なことかもしれない。でも、このたった一言が伝えられずに、終わりを迎えた恋を経験した人も多いのではないだろうか。特にそれが初恋となると、ますます厄介だ。そんな学生時代の初恋に蓋をしてしまっていたソウタ(森崎ウィン)とカイ(向井康二)がタイ・バンコクで運命的な再会を果たし、自分の気持ちと向き合っていく映画『(LOVE SONG)』。カイが学生時代に制作していた未完成の曲が、2人の心をつないでいくピュアラブストーリーだ。

今作は、人々が鬱屈としたコロナ禍の2020年にBLドラマ『2gether』を世に送り出し、世界中の人に幸せをもたらしたチャンプ監督が、日タイ共同制作作品として監督・脚本を務める映画と発表され、大きな話題となっている。このたび、劇場公開を目前に来日したチャンプ監督に、撮影秘話や『2gether』との表現の違いについて語ってもらった。

映画『(LOVE SONG)』は、ひとつのラブソングが2人の心をつないでいくピュアラブストーリー(C)2025『(LOVE SONG)』製作委員会


ずっと待ち望んでいた監督の日本デビュー作。「ついにその夢が叶いました!」


――今作のオファーを受けたときの印象を教えてください。

連絡をもらったときはとてもうれしかったです。なぜならすごくやってみたいことだったから。私にオファーが来た理由の1つは、日本の皆さんが『2gether』をご覧になったことだと思うんです。音楽を通じて愛を表現するのが好きなのですが、そのような愛の形に感動や共感をしてくださったのかなと。以前から日本で仕事や撮影をしたいと願っていたので、ついにその夢が叶いました!待ち望んでいた機会が訪れたなと思っています。

――日本デビュー本当におめでとうございます!監督と脚本の両方を担当されていますが、脚本はどのように作り上げていきましたか?

日本のチームとは脚本を書く段階から一緒に仕事を始めていたので、多くの調整を重ねました。日本人とタイ人の文化をシェアし合って、この2つをうまく融合させて作品を作れたと思っています。時間はけっこう長くかかりましたね。まずアイデアをシェアし合って、脚本を書いて、お互いに翻訳をし合って、オンラインミーティングを重ねて…脚本のブラッシュアップを繰り返し行いました。

私ももちろんかなりアイデアを出しました。特に主人公の1人であるカイというキャラクターは、タイで暮らしていて、歌を歌うという設定ですから。タイのほうでも脚本チームを作って、何度も手直しをして、完璧な脚本を作り上げました。

「できる限りタイのリアルな生活を見せたかったんです。どれも観客に伝えたいことばかり」


――映画の中では、タイのあらゆる景色が登場して、ちょっとした旅行気分が味わえます。バンコクを象徴する寺院の1つであるワット・アルン、さまざまなタイ料理、ナイトマーケットなどの有名なものから、宝くじを売りに来る女性、オレンジ色のベストを着たバイクタクシーの運転手といった細かいものまで。あえて細かいネタを盛り込んだのはなぜですか?

できる限りタイのリアルな生活を見せたかったんです。映画では宝くじを売りに来る女性のシーンは一瞬なんですけど、実際にはタイでは日常的な光景ですし、バイクタクシーのベストを着ている男性も街のいたるところで見ることができます。

映像に映っているものは、どれも観客に伝えたいことばかり。ほんの数秒しか映らないものもあるので、繰り返し見て細かいところに気づいてもらえたらうれしいですし、これは何だろう?と思って調べてみると、タイの文化がもっと解像度高く見えてくるのではないでしょうか。

ルーク(逢見亮太)の案内で、屋台でソムタムなどを食べるソウタ(森崎ウィン)とジン(及川光博)。劇中に登場する数々のタイ料理にも注目!(C)2025『(LOVE SONG)』製作委員会


――なかでも、ナイトマーケットでの虫の唐揚げのシーンを大きく打ち出した理由を教えてください。

ナイトマーケットと虫の唐揚げ、これはタイではよくセットで見られる光景です。タイに慣れているカイがソウタにタイらしさを試す、という意味もあります。またそれと同時にすごくロマンティックなシーンになっていると思ったので、フォーカスしてみました。

実は雨は想定外ではあったのですが、あのシーンは雨が降ったことでよりロマンティックになったと思います。一緒に傘を差して音楽を聴く。一緒に傘を差すってことはお互いに距離が近くなりますよね。今思い出してもすてきなシーンだなと。あとタイでは雨季にスコールと呼ばれる激しい雨が降るので、あの雷や雨もタイらしさの1つと言えると思います。

ナイトマーケットを楽しむソウタとカイ。相合傘で自然と縮まる2人の距離がロマンティックなシーンだ(C)2025『(LOVE SONG)』製作委員会


幾度となく話し合い、アドリブが加わって完成した愛すべきキャラクターたち


――森崎ウィンさんの演技はソウタの心の機微を巧みに表現していて、見ていて引き込まれました。チャンプ監督とはどのような話し合いをしたのでしょうか?

ウィンとは、私が日本に行って初めて会ったときからたくさん話をしました。ウィンから見たソウタはどんな人物かということも話したし、実際に演技を見せてもらったりもしました。撮影中にもよく意見を交換して、演技中の感情を教えてもらったら、じゃあこういうのも足してもらっていい?と頼んでリアルさを追求したりとか。

ソウタのおもしろいところ、かわいらしいところ、悩むところ、ガッカリするところっていう感情の機微をとても丁寧に演じ分けてくれたと思います。これらを通して、ウィンが演じるソウタのことをますます愛するようになったんです。

――アドリブも多かったと聞いています。

そうそう、いろんなシーンでたくさんアドリブを入れていました。私は役者自身の自然な演技が好きなので、アドリブは思いっきりやってもらう派。編集段階で、そのシーンの雰囲気に合うものを採用していったんです。

例えば、タイに着いてソウタとジン(及川光博)が滞在するアパートの部屋に初めて入るシーンがあるのですが、先に荷物を搬入していたルーク(逢見亮太)のせいで散らかっているリビングを見たときに、ソウタが洋服をせっせと片づけるんです。あれは実はアドリブで、ソウタの几帳面な性格を表している、すっごくいい演技だったなぁと思いました。でもあのシーンはみんなアドリブだったんですよ。及川さんのコミカルな動きもそうです(笑)。

及川さんとのコミュニケーションを通じて、ジンが及川さんらしさのあるキャラクターになるよう脚本を書き直したそう(C)2025『(LOVE SONG)』製作委員会


――(笑)。森崎さん、及川さん、逢見さん3人のシーンはアドリブが多かったのでしょうか?

一応脚本はあるので、その通りに演じてもらってるんですけど、途中で冗談を挟んだりして、もっと楽しいシーンにしてくれました。それぞれのシーンの最後のほうはアドリブが増えがちです。脚本はある程度固めていましたが、実際に会って彼らと話をして、お互いにアイデアをシェアし合った結果、もう1回書き直したので、すごくその人らしさが出ているキャラクターに仕上がったと思っています。

――ほかにもその人らしさが加わったキャラクターはいますか?

カイもそうですね。タイに移り住んでタイ語を喋る設定ですけど、(向井)康二自身ももともとタイ語でコミュニケーションが取れるので、実際の要素と合わさって、彼らしいすごく魅力的なキャラクターを作り上げられたと思います。

――カイは口数が少なくてミステリアスながらも、相手をドキッとさせるような胸キュン要素が詰め込まれたキャラクターだと感じたのですが、これは監督の理想だったりするのでしょうか?

いやいや(笑)、日本の脚本家チームやプロデューサーチームとも話し合いをしながらキャラクター像を作り上げていったんです。私が知らないことに関してはいろいろと説明してくれました。例えば、タイではヒマワリは太陽という意味があるという話をしたら、日本でも似たような意味があるということとか。そういった細かいところを相談しながら詰めていったんです。そうしてあのカイというミステリアスで魅力的なキャラクターができあがりました。

酔って寝てしまったソウタをカイが優しく見つめている。このあとのキッチンのシーンも見逃せない(C)2025『(LOVE SONG)』製作委員会


「カイは、サラワットみたいには自分の気持ちを伝えられないんです」


――今作には監督の代表作『2gether』のオマージュがあったかと思います。特に印象的なのは有線イヤホンを用いたシーンですが、これにはどのような意図がありますか?

1つの曲を1本のイヤホンで一緒に聴くというシーンから、曲がつなぐ2人の関係性が見えてくるんです。今作では、ソウタは学生時代からずっと有線イヤホンでとある曲を聴いているんですが、こちらが言葉にできないことを曲が代弁してくれて、2人の気持ちがつながっていることを表しています。

――『2gether』ではサラワットがタインに有線イヤホンの片方を分け与えて曲を聴かせ、今作ではソウタが聴いているイヤホンの片方を奪ってカイが曲を聴くという、同じ有線イヤホンでも全く逆のシチュエーションだと感じたのですが、そのあたりはいかがでしょうか?

『2gether』でサラワットがタインにイヤホンを分け与えて一緒に聴くシーンは、サラワットがタインのことを好きだという気持ちの表れでもあります。言葉にはしていないけど、自分の気持ちを伝えている。

カイの場合は、ソウタの気持ちを知りたい。でも、サラワットみたいには自分の気持ちを伝えられないんですよね。それは過去にとある出来事があって、気持ちを隠しておかないといけない理由があるから。ソウタがもともとラブソングを聴くことが好きだというのは知っているので、何のラブソングを聴いているのかをイヤホンを奪って知ろうとした。でも、そこでは答えがでなくて…。

そしてタイでの再会後、自分の気持ちをあらためて自覚したから、未完成の曲の続きを書く自信がついたんだと思います。それで、完成させた曲をソウタに聴かせようとしたんです。

「あえて“有線イヤホン”なんです。シェアすることで自然と距離が近づくのも素敵ですよね」と監督は語る(C)2025『(LOVE SONG)』製作委員会


――貴重なお話ありがとうございます。最後に、チャンプ監督が日本で好きな作品や、今後日本で成し遂げたいことをお聞かせください。

好きな日本映画は、菅田将暉さんと小松菜奈さんがダブル主演された『糸』です。『糸』という曲を通じて、ストーリーを伝えていく。こういう雰囲気の映画が好きなんです。映画『君の名は。』も好きですね。実際ほかにもたくさん見ているので、選ぶのが大変なくらい。

今度日本で作品を撮るとしたら、まず曲は必ず使いたいです。そして、タイから日本に来て生活する人の話を描きたい。『(LOVE SONG)』は日本人がタイに行った話だったので。曲を通じて旅をする、日本で生活するという話がいいです。音楽というのは言葉の違いから歌詞の意味がわからなかったとしても、曲を聴けばこれはラブソングなんだとか、悲しい歌なんだ、楽しい歌なんだ、というのは誰にでも伝わると思うから。

(C)2025『(LOVE SONG)』製作委員会

映画『(LOVE SONG)』は2025年10月31日(金)より全国公開中。タイ・バンコクでの運命的な再会によってにわかに動き出したソウタとカイ、それぞれの想い。エンドロールの最後まで、物語を通じて有線イヤホンが紡ぐ愛の軌跡にも注目してみてほしい。

■チャンプ・ウィーラチット・トンジラー監督
タイ出身の映画監督・プロデューサーで、アジアを中心に活躍。BL(ボーイズラブ)ジャンルの作品で広く知られる。2020年のドラマ『2gether』で世界的なヒットを記録し、一躍有名に。純愛、音楽を用いたストーリーテリング、ユーモアの配分が絶妙なラブコメを得意とする。

■映画『(LOVE SONG)』
バンコク勤務を命じられた化学メーカーの研究員・ソウタは、渡航初日、大学時代に突然姿を消した初恋の人・カイと偶然の再会を果たす。あの頃、カイが奏でていたメロディは、今もソウタの心の奥で繰り返し響いていた。一方、カメラマンとして活躍し、音楽も続けていたカイもまた、思いがけない再会に心を揺らしていた。お互いを想いながらもすれ違ってしまう、2人の両片想いの行方は――。

映画『(LOVE SONG)』は2025年10月31日(金)全国公開(C)2025『(LOVE SONG)』製作委員会

出演:森崎ウィン 向井康二(Snow Man)
   ミーン・ピーラウィット・アッタチットサターポーン、藤原大祐、齊藤京子
   ファースト・チャローンラット・ノープサムローン、ミュージック・プレーワー・スタムポン
   逢見亮太、夏目透羽、水橋研二、宮本裕子、筒井真理子、及川光博
監督・脚本:チャンプ・ウィーラチット・トンジラー『2gether』
脚本:吉野主、阿久根知昭
音楽:近谷直之
劇中曲プロデュース:The TOYS
主題歌:Omoinotake『Gravity』(Sony Music Labels)
制作プロダクション:KINEMA STUDIO 
制作協力:h8 Studio アークエンタテインメント
制作幹事・配給:KADOKAWA
(C)2025『(LOVE SONG)』製作委員会


取材・文=鈴木惠

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