ジョシュア・オッペンハイマー監督最新作『THE END(ジ・エンド)』を鑑賞。“完璧な家族”の物語を描いたミュージカル映画が誕生!
東京ウォーカー(全国版)
2025年12月12日より全国公開された『THE END(ジ・エンド)』は、アカデミー賞ノミネート監督ジョシュア・オッペンハイマーが贈るミュージカル作品。公開前に試写で観た本作の感想を紹介(以下、ネタバレを含みます)。
【ストーリー】
環境破壊により地表が居住不可能となってから25年。裕福な一家の母(ティルダ・スウィントン)、父(マイケル・シャノン)、そして20歳の息子(ジョージ・マッケイ)は、改装された塩抗の奥深くにある豪華な地下シェルターで、数人の仲間とともに隔離生活を送っていた。
仲間とは、母の旧友(ブロナー・ギャラガー)、老齢の執事(ティム・マッキナリー)、そして医師(レニー・ジェームズ)の3人だ。
家族は、安全訓練や屋内プールでのフィットネス、地下壕と小さな前哨基地の維持管理、母が持ち込んだ美術品の管理などを行いながら日々規則正しい生活を送っていた。
ある日、坑道で意識を失った少女(モーゼス・イングラム)を発見した彼らは、どうやってこの場所を見つけたのか尋問するために連れ帰る。少女は人間が住めない地表の様子を語ると、家族が川を渡ろうとして亡くなったあと、自分だけが生き残ったと告白する。
一行は少女を地表へ追い返すことに決めるが、少女は逃げ出し、地下壕を駆け抜けて彼らをかわす。彼らは致し方なく、少女を地下シェルターに迎え入れることを決断するのだった。
アカデミー賞受賞俳優ティルダ・スウィントンら豪華俳優陣が“クセ強親子”を熱演!
本作のメガホンをとったのは、長編デビュー作『アクト・オブ・キリング』でアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞にノミネートされたジョシュア・オッペンハイマー監督。
監督が本作を撮ることになったきっかけについて「私はインドネシアで、いまだ処罰されることなく生きている大量虐殺の加害者たちについて 2本の映画『アクト・オブ・キリング』と『ルック・オブ・サイレンス』を撮った。3本目として、数百万もの命を破壊することで権力を握り、今なおインドネシアを支配している億万長者たちについて映画を作りたいと考えていたが、安全に帰国できなくなってしまった。その代わりに、ほかの国の寡頭政治家についての企画を練り始めた。なかでも特定の一家に注目した。石油成金で政治的な影響力を持ち、深刻な政治的暴力に関与した人物たちだ。彼らは豪華なシェルターを購入しようとしていた。人為的な世界の終末に際して、自分たちだけは助かろうと考えていたのだ」とコメントしている。
ミュージカル映画になったのは、シェルターを見学したあとにジャック・ドゥミ監督の『シェルブールの雨傘』を観たのがきっかけだったのだそう。
本作で母役を演じたのは、トニー・ギルロイ監督『フィクサー』(2007年)でアカデミー賞助演女優賞を受賞し、その後はリン・ラムジー監督『少年は残酷な弓を射る』(2011年)、ウェス・アンダーソン監督『ムーンライズ・キングダム』(2012年)、ルカ・グァダニーノ監督『サスペリア』(2018年)、ジム・ジャームッシュ監督『デッド・ドント・ダイ』(2019年)、アピチャッポン・ウィーラセタクン監督『MEMORIA メモリア』(2021年)、ペドロ・アルモドバル監督『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』(2024年)など錚々たる監督とタッグを組んできたティルダ・スウィントン。
どんな役も魅力的に演じてしまうティルダ・スウィントンが個人的に大好きで、普段は「ティルダ様」と勝手に呼んでいる。本作の母親役もビジュアル、キャラクターともに最高なのでティルダ様ファンには期待してほしい。
息子役を演じたのは、サム・メンデス監督の戦争映画『1917 命をかけた伝令』(2019年)の主演を務めて注目を浴び、サム・H・フリーマン監督、ン・チュンピン監督『FEMME フェム』(2023年)での演技で英国インディペンデント映画賞を受賞したジョージ・マッケイ。
個人的にはヴィゴ・モーテンセンと共演した『はじまりへの旅』(2016年)とホラー映画『マローボーン家の掟』(2017年)のジョージの芝居が印象に残っていて、特に『マローボーン家の掟』で演じた4人兄妹の長男役は、彼の俳優としてのポテンシャルを大いに感じられる作品だった。ちなみに『マローボーン家の掟』はアニャ・テイラー=ジョイ、チャーリー・ヒートン、ミア・ゴスという今や人気者になった俳優たちが兄妹役を演じており、ショッキングな結末もなかなかなので、気になった方はぜひチェックしてほしい。
父親役を演じたのは、アンドリュー・ガーフィールドと共演した『ドリーム ホーム 99%を操る男たち』(2015年)、ギレルモ・デル・トロ監督『シェイプ・オブ・ウォーター』(2017年)などに出演するベテラン俳優マイケル・シャノン。この方はお顔の圧がすごいので(渋くてカッコいいので大好きだが)、登場した瞬間に“このお父さん絶対に何か裏があるはず〜!”と思ってしまった(笑)。ちなみにマイケル・シャノンのことは勝手に「シャノン先生」と呼んでいる。
三人が演じた一家の紹介をすると、母親はすべてを完璧に見せることに執着して部屋の装飾やレイアウトにこだわり、父親は石油王として富を築いてきた男で、その回顧録を執筆し、地下で半生を過ごしている息子は、見たことのない外の世界を体験したいと切望して歴史上の出来事や場所の縮尺模型を作り続けている。
メインキャストから想像したとおり、全員クセ強100%のキャラで、そんな親子を全力で演じているティルダ様、ジョージ、シャノン先生を見ているだけで楽しいのでこれだけで大満足である。
ほかキャストには、少女役をジョエル・コーエン監督『マクベス』(2021年)、マイケル・ベイ監督『アンビュランス』(2022年)などに出演するモーゼス・イングラム、母の旧友役を『マリス・イン・ワンダーランド』(2009年)、『男と女、モントーク岬で』(2017年)などに出演するブロナー・ギャラガー、老齢の執事役を人気ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』や『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』(2024年)に出演するティム・マッキナリー、そしてゾンビドラマ『ウォーキング・デッド』のモーガン役で知られるレニー・ジェームズが本作の医師役を演じている。個性豊かな俳優陣の演技にも注目してもらいたい。
シリアスな内容とミュージカルシーンの融合で新しい体験をくれる作品
毎日変わらない日々を送ってきた一家と仲間だったが、少女が地下シェルターにやってきた日を機に少しずつそれぞれの本性が表に現れ始める。母親はどこから来たのかわからない少女を疑い、一旦は彼女を外に出そうとするが、結局は一緒に暮らすことに。そのうち少女と息子は惹かれあっていく……のだが、この二人のラブストーリーが展開していきつつも、どんどんシビアな現実が浮かび上がってくる。
豪華な食事とやわらかいベッド、快適な空間のあるシェルターに安全に暮らしていたとしても、ずっと同じ人たちと一緒に過ごし、外部の人間と関わることがなければ誰だって頭がおかしくなってしまうだろう。
本作の一家や仲間も、それぞれが向き合いたくない事柄から逃げ、ギリギリの状態で生きている。そんなシリアスな内容を描きながらもミュージカル映画として成立させているところが本作のおもしろいところ。
俳優陣みんな歌が上手で表現力豊かなため、急に歌い出してもなんの違和感もなく物語に引き込まれてしまうのだ。特に少女と母親がメインで歌う曲はサウンドトラックで聴き直したいほど素晴らしかった。
もちろん、『アクト・オブ・キリング』を撮った監督ならではの強いメッセージも感じ取ることができ、新しい映画体験をさせてくれる1本だった。
世界の終焉と人間の“真実”を抉り出すミュージカル映画『THE END(ジ・エンド)』をぜひ劇場で体感してもらいたい。
文=奥村百恵
(C)Felix Dickinson courtesy NEON (C)courtesy NEON
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