震える手で書いた「ありがとう」…全裸で倒れていた父が見せた、生きる執念と涙【作者に聞く】
東京ウォーカー(全国版)
右耳難聴や子宮内膜症など、自身の体験をコミカルにつづってきた漫画家のキクチさん(kkc_ayn)。特に、母親の自宅介護と看取りを描いた『20代、親を看取る。』は、若くして親の死と向き合う葛藤が同世代の共感を呼び、2023年に書籍化されるほどの反響を得た。
それから約2年。母を送り出したキクチさんを待ち受けていたのは、今度は父が病に倒れるという新たな試練だった。頼れるきょうだいがいない中、すべての決断を一人で背負う重圧は計り知れない。しかし、キクチさんは「親の老いと死」という誰もが避けて通れない課題に、再び正面から向き合っていく。
震える文字で書かれた「ありがとう」
病室で面会した父は、会話による意思疎通が叶わない中、ホワイトボードに震える文字で「ありがとう」とつづった。意識が混濁し指先さえもおぼつかない状況下で、必死に思いを伝えようとする父。キクチさんはその姿に、病に屈しまいとする「生きてやる」という剥き出しのエネルギーを感じ取ったという。普段は江戸っ子のように強気な父が、初めて人目もはばからず涙を流す。キクチさんはそこに父の不安と弱さを察知したが、寄り添うよりも鼓舞するほうが父には合うと判断した。「ファイト!」「100歳まで生きた祖母の遺伝子なら最強だろ!」体育会系のノリで熱く励ますと、父の涙は止まり、心に再び灯がともったそうだ。
「よかれと思って」が空回りするのが介護
デザイナーとしての手腕を活かし、入院中の母のために近況報告紙を作るなど、キクチさんの介護スタイルは独創的だ。今回も父のために「指差しボード」を自作したが、父の反応は芳しくなかった。しかし、彼女はそれを「介護あるある」として淡々と受け止める。かつて母の在宅介護時代、よかれと思って用意したレトルトの介護食は一切口にされず、結局は自分が食べることになった。寝たきりでも楽しめるようにと購入した大型テレビも、薬の副作用で眠り続ける母には無用の長物となった経験があるからだ。
そんな「空振り」を重ねてきたからこそ、今のキクチさんには「仕方のないこと」と笑い飛ばす余裕がある。介護は感謝や見返りを求めるものではなく、自分がやりたくてやっていること。その潔い哲学が、過酷な日々の中にひと筋の救いをもたらしている。
取材協力:キクチ(kkc_ayn)
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