人気AV女優、紗倉まなの小説「最低。」が実写化。原作者の立場から作品の魅力を語る
関西ウォーカー
映画「最低。」は、AVの世界と関わりあっていく3人の女性たちの姿をリアルに描いた本作。原作小説を手がけたのが、AV女優として活躍する紗倉まな。原作小説の制作の裏側、映画になった作品を観て何を感じたのか。紗倉が原作者という立場から本作の魅力について語ってくれた。

何不自由なく暮らしているものの、どこか満たされない34歳の主婦・美穂。母親が元AV女優だったことを知ってしまう17歳の高校生・あやこ。AV女優であることが親にバレてしまった25歳の専門学生・彩乃。年齢も境遇も違う3人の女性が、AVに直面する姿をセンセーショナルに描く本作。主人公の3人の女性を、森口彩乃、山田愛奈、佐々木心音がそれぞれ熱演し、高岡早紀、渡辺真起子、根岸季衣、忍成修吾ら実力派俳優たちが脇を固める。メガホンをとったのは「64 ロクヨン」の瀬々敬久監督。3人それぞれの物語が交差しながらも繋がっていくという原作とは違うアプローチで映像化した。
趣味で書いていた短評を本の情報誌「ダ・ヴィンチ」の担当者に評価されたのがきっかけで、小説を書きはじめた紗倉。原作は当初、家族をテーマにした作品にするつもりだったが、周りからのアドバイスもあり、自身が生業にするAVの世界をテーマにしたものになった。「自分の生業でもあるAVをテーマにした方が、いろんな人が興味をもって手にとってもらえるんじゃないかって思いました。AVに関わっていくの女性をいろんな角度から書きたいと思って構成していきました」
短編小説として執筆していたところ、編集担当からの提案で連作短編として完成させた。本を読むことは好きだったが、小説の執筆は初めて。一章の執筆に1ヶ月の締切を設定し、約半年で書き上げた。「実は先に発売日が決まってたんです。明るい作品ではないから夏に発売するのは向いていないって言われて、冬の発売になったんです(笑)そこから逆算すると、あと半年しかないなって感じで締切が決まりました。長編だったらもっと時間がかかってたかもしれないです。私、原稿の締め切りを守れない女なんで(笑)」
14歳のとき、父親の書斎にあったAVを見て、その甘美な世界の虜に。18歳になって自らの意思でAV女優になった。本作の中ではAV女優を天職だと思っている彩乃と近いように思えるが、この物語の主人公たちにモデルはいないと話す。「自分のことを書いてしまうと自叙伝になってしまうので、心情や家族の関わりとか自分とは全く違う女の子を書きました。親ともめているAV女優の子の話しを聞いていたので、その葛藤みたいなものは特に書きたいと思っていましたね」
映画化にあたり、瀬々監督には特に要望はしなかった紗倉。瀬々監督の作品が好きだったことから期待値が高く、撮影前から完成を楽しみにしていた。原作では4章の連作短編だったが、映画では3章に絞り、3つの物語が交差し展開していく構成になっている。この改変を原作者としてどう思ったのか。「同じ物語に違いないのに、別の物語を見ているような感覚がして、素直に面白かったですね。途中から自分の作品とは思わずに『どんな風に展開していくんだろう』って、観客側として楽しんでました」

映画では、原作で表現しきれなかった描写が、丁寧に描かれている。揺れ動く繊細な心情はもちろん、性描写と私生活のコントラストが物語にリアリティを与えている。「AVっていう仕事は普通じゃないけど、日常はいたって普通。その差を言葉で表現するのは難しいんです。『普通って言っても、普通じゃないでしょ?』と一線を引かれてしまう世界だけど、映像だと私たちの日常を再現するような描写が多く、距離の近さに感動しました。こんな風に撮ってくれるんだなって嬉しくなりましたね」
AVに向き合っていく女性を演じた森口、山田、佐々木にも紗倉は感謝している。彼女たちが体を張って演じてくれたからこそ、原作の描写がより意味のあるものになったと話す。「佐々木さんは、私が描いた坦々した気質をもつ彩乃そのものだと思いました。森口さんも今回初めて脱がれたそうで、とまどいがある中で脱ぐ所作は、まるでドキュメンタリーを撮っているかのようだったと瀬々監督も言っていました。私が書いた文体をみなさんの演技で肉付けしてくれた。書いていたときに想像したよりもずっと生々しい作品に仕上げてくださいました」
本作を観た観客からの反応はどうだったのか。紗倉は女性からの反響がとても多かったことを明かし、その理由はどの登場人物にも感情移入ができるからではないかと話す。「何か失ってでも、何かを得たいという気持ちが、女性に共感していただいたみたいで反響の声も届いています。男性だとちょっとしんどいかもしれない。例えば、どれだけAVを観ていても、自分の彼女や娘がAVに出るってなると反対するじゃないですか。男性だからこその葛藤というか、諦めなきゃいけない切なさみたいなものを感じたと、男性からの感想もいただきました」
本作に込められたテーマを紗倉は明かす。「女性って変身願望が強いんじゃないかって思うんです。例えば、メイクをして綺麗になるとかちょっとしたことで変身もできるけど、『根本的に何かを変えたい』『もっと女性として生きていきたい』とか、そういう気持ちが圧倒的に強くなってしまった結果、AV女優になるってこともあるんです。何かを変えたいけど、何を変えたいのかわからない。変えたところで、どうなるかもわからない、でも踏み出したい。原作ではそんな心情を軸にして書いたんですけど、映画でもその軸はぶれずに描かれています」
本作の見どころについても語ってくれた。「夫婦、家族、恋人との関係。誰しもに通じる普遍的な悩みや葛藤を描いている作品です。映画になったことで、主人公たちが幸せか不幸なのか、その定義について問われているような作品に仕上がったと実感しています。性描写のシーンが長いので、ちょっとびっくりするかもしれないけど、ひとつひとつに意味があるので、いやらしさはなく美しく描かれているところも見どころですね」

【関西ウォーカー編集部/ライター山根 翼】
山根翼
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