身のまわりにある自然物を生かし極寒にも耐える アイヌの伝統的住居

2018年6月2日 20:00更新

北海道ウォーカー 市村雅代

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北海道・平取町の二風谷エリアなどで見ることのできるアイヌの伝統的住居。効率よく屋内を暖める機能を備え、囲炉裏を中心とした空間は、祈りの場であり休息の場であり、作業の場でもありました。どんなふうに建て、どんなふうに使っていたのかを見ていくと当時のアイヌの暮らしが見えてきます。

北海道の寒~い冬。カヤやササの家で凍えないの?

伝統的住居は大きめのワンルーム。17世紀中ごろからはセムという前室が玄関前につく形が増えました。セムは冬の冷たい外気が部屋にダイレクトに流れ込むのを防ぐためもので、農具や生活に必要な道具を置く物置としても使われました。現在の北海道でも、玄関の扉の外側にガラスなどで囲いをした「玄関フード」という小さな部屋を設けることがあります。

そう、北海道での暮らしは今も昔も最高気温がマイナスという寒ーい冬をどう生き抜くかを考えるところからはじまります。家づくりの材料には日高エリアはカヤ、旭川エリアはササを利用していましたが、その家でアイヌの人たちはどうやって寒い冬をしのいでいたのでしょうか。

旭川市博物館の分館にあるササで作られた伝統的住居

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「土間に直接切った囲炉裏が床暖房のような効果をもたらしており、実はそこまで寒くなかったようです」と言うのは平取町立二風谷アイヌ文化博物館館長の森岡健治さん。囲炉裏の火はほとんど絶やすことがなかったので、土間に蓄熱され下から暖められていたのです。土間にゴザを敷いて暮らしていたので、まさに床暖房ですね。

また壁や屋根に使われているカヤやササが断熱材のような働きをしていたので、暖気が逃げづらく冬も凍えることなく過ごすことができました。「明治に入って板張りの家に移された旭川のアイヌの人たちは寒さに耐えきれずササの家に戻ったという話もあります」。

囲炉裏で火を焚くことは家を長持ちさせることにもつながっていました。「煙でいぶすことでカヤに虫がつきにくく、また屋根の内側に付いたヤニが膜のようになり雨漏りを防いでいたんです」。シンプルでなんと無駄のないシステム! そして作り方もまたシンプルです。 

建築用重機のない時代の家づくり

通常、子どもが成人し結婚して新しい所帯を持つときに新しい家を建てました。「柱はものすごく太いと思っていませんか? それじゃあ運べないですよね」。確かに、人力のみで建てることを考えると…。「通常は成人男性がひとりで持てる、直径12、13㎝ほどのものが使われていました」。

平取町二風谷には地域の人たちが協力して建てたチセ(家)群があります。明治のころのつくり方を参考にしたというそのマニュアルを元に森岡さんにつくり方を教えていただきました。まず最初につくるのは屋根。その屋根を柱で持ち上げ、壁をつくっていきます。柱は「屋根の重みで自然に安定するように」と、ハの字に地面に差します。地面に土を盛って少しだけ高さを出しておけば、雨水にカヤが浸って腐るのを防げました。材料さえあれば、数日でつくることができ、寿命は30~50年です。

平取町二風谷にあるチセ群。中では木彫や刺繍などの実演が行われている

暮らしの中心は囲炉裏

間取りはどの地域もほぼ同じです。南側に玄関があり、東側にカムイ(神のような人知の及ばぬ存在)のための窓を設けます。この窓は儀式のための道具の出し入れに使用し、ここから家の中をのぞくのは非常に失礼な行為とされていました。ほか南側に採光のための窓と汚れた水を捨てる窓がある、というのがスタンダード。ただ、道路が次第に整備されていくと、道に沿って家が建っていったため、向きも時代と共に変容していったと思われます。

家財道具の配置、住人の座る場所も決まっていました。北海道博物館の伝統的住居を再現した展示を見てみましょう。住空間に入ると正面に囲炉裏あり、左手には奥から夫、妻。右手に子どもたち。正面のカムイのための窓に背を向ける席には大事なお客さんが座ります。

北海道博物館の展示。内部を見やすくするため片側の壁を取り払った形になっている。写真の左手が入口。囲炉裏の奥が家の主人夫婦の席となる

住居内は無地のゴザが敷かれていますが、カムイのための窓の左側は柄のついたゴザで飾られています。ここには本州との交易で手に入れた漆塗りの容器が置かれて、神具や大事なものを置いていました。

漆器など大事なものを置く、模様のついたゴザで飾られた場所(北海道博物館)

一家が日常を過ごしていたのは囲炉裏のまわりです。煮炊きはもちろん、祈りを捧げる場でもあり、女の子は囲炉裏の灰に絵を描いて伝統的な文様を身に付けていきました。

一家の生活が集約された囲炉裏まわり(北海道博物館)

夫の席には灯をともすためのホタテの殻があり、妻の席には赤ちゃん用の寝床や糸を紡ぐ道具があります。

梁からぶら下げた子ども用のゆりかご

囲炉裏の上からぶら下げられたオレンジ色の袋はシカの膀胱です。「サメやクマの油を入れていました。動物や魚の油は燃料ではなく、調味料としても使っていたんです」と同館の大坂拓さん。一度火を通すと固まりづらいものはその性質を生かして、袋で保管していました。これなら調理の際にも使いやすい!

限られたスペースを最大限に活用

内部は白老地方の秋~冬にかけてのようすを再現しており囲炉裏の上部にはサケが燻されています。囲炉裏の上は物を燻すだけの場所ではありませんでした。「囲炉裏の上に棚のようになっている場所がありますよね」と大坂さんの言うところを見ると確かに平らになっています。「ヒエやアワを脱穀する際ここに置いて乾燥させるときれいにむけるんです」。本当に効率よく囲炉裏のまわりを使っていたんですね!

アイヌの人はこの広いワンルームを無駄なく使って暮らしていたんだなぁと思っていたら大坂さんが「実は区切って使うことも多かったんですよ」と。着物をかけた棒を梁に渡して個室を作っていたそう。手持ちのものを何通りにも使い分けて暮らすようすが、だんだんミニマリストのお手本のように感じてきました。

梁と梁に渡された棒と着物を使って簡易的な「個室」を作っていた

狩りの際に連れ帰った子熊を入れるオリや食糧庫は主人の席から窓を通して見える場所につくられ、火事になっても延焼しないよう隣の家とは離して建てるなど、もしもの備えも万全。アイヌの伝統的住居を見学する機会があったら、ここで自分が暮らしていたら?と一度囲炉裏のそばに座った目線を想像してみてください。

※文中のセムの「ム」はアイヌ語表記では小文字になります。

平取町立二風谷アイヌ文化博物館■住所:沙流郡平取町二風谷55 ■電話:01457・2・2892 ■時間:9:00~16:30 ■料金:高校生以上400円 小・中学生150円 ■休み:4/16~11/15はなし。11/16~12/15、1/16~4/15は月曜、12/16~1/15は休館 

アイヌ文化の森伝承のコタン(旭川市博物館分館) ■住所:上川郡鷹栖町字近文9線西4号 ■電話:0166・55・9779 ■時間:9:00~17:00(最終入園は16:30) ■料金:無料 ■休み:第二、第四月曜、施設点検日、12/30~1/4 ※4~10月は無休

北海道博物館■住所:札幌市厚別区厚別町小野幌53-2 ■電話:011・898・0466 ■時間:9:30~17:00(10~4月は16:30閉館。最終入館はともに閉館時間の30分前まで) ■料金:大人600円 大学生・高校生300円(高校生は土曜、こどもの日、文化の日は無料) ■休み:月曜(休日の場合は直後の平日) ほか臨時休館あり

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