北海道初の伝統的工芸品に指定。アイヌ織物、二風谷アットウシとは?

2018年5月28日 20:00更新

北海道ウォーカー 市村雅代

Twitterで
シェア
Facebookで
シェア

アットウシとは木綿が手に入るようになる前、アイヌ民族の服によく使われていた織物です。100年以上続く技術・技法がある、日用品であるなどの条件を満たし平取町の二風谷アットウシは二風谷イタ(お盆)と共に2013年北海道初の伝統的工芸品に指定されました。ところでそのアットウシって一体? 二風谷を代表するアットウシの工芸家、藤谷(ふじや)るみ子さんにお聞きしました。

アットウシはオヒョウやシナノキの樹皮を使った織物です。天然の樹皮の色が織りなす縞模様が美しく、素朴な風合いが温かみを感じさせます。水に強いため、交易品として本州に渡った際には漁師に好まれていたそう。現代では和服の帯やタペストリーなど装飾品としての需要もあります。しかし、この織物、作るのにとても手間がかかるのです。

以前、藤谷さんが他県での実演で作った小さいサイズのアットウシアミプ(アットウシで作った着物)。このサイズは装飾品として人気がある

全ての画像を見る(6件)

アットウシ作りは、樹皮を手に入れるところから始まります。皮をはぐのは木に一番水分の多い6月末から7月上旬。外皮を除き、煮るか水に浸けて発酵させ柔らかくしたものをきれいに洗い、乾燥させて保管します。使う時にはコンブのように水で戻し、層になっている内皮をはがします。それを細く割き、縒りながら丁寧に結びつなげて糸の完成となります。

はがした内皮を指で割く作業

細かい作業の手間を考えると気が遠くなります。中でも糸を結ぶ作業が一番大変で、慣れている藤谷さんでも同じ作業を長く続けずに違う作業、というように体への負担を考えながら仕事を組み合わせています。

着物を1着作るには、予備も含めて1.5キロほどの糸が必要です。そのための糸づくりから織りあがるまでは1か月以上かかりますが、「糸玉作るのが仕事ね」と藤谷さんも言うように、一番手間のかかるのは樹皮を糸にするまでの工程。織りに使用できなかった糸もサラニプ(袋)作りに利用したりと無駄なく使いきります。

オヒョウの樹皮が糸になるまで。右から洗って乾燥させた状態、木からはがし外皮を除いて乾かしたもの、縒りをかけ完成したもの、内皮を指で割いたもの

織りあがると着物作り、そして刺繍へと進みます。アイヌ文様は魔よけとしての役割があり、裾や袖口、背中に刺繍されます。「文様は、はじとはじでメリハリをつけることが大事。刺繍は布に張りを持たせることもできるのでとても理にかなっていると思います」。

刺繍のデザインが決まると当て布を置いて縫い付けますが、特にオヒョウの織物は織り目が動くので慎重に作業を進めます。そしてその上に刺繍のポイントとなる印をつけ刺繍を縫いこんでいきます。

しかし、作業をしながら「あ、ここにこれ入れたらいいな」と思ったら変更するため、予定とは違ったデザインに仕上がることも。1日の作業が終わるとコーヒーを飲みながら作品を遠くから眺めて、バランスを確認するそう。1着の着物を仕上げるには3~4か月かかります。

背面の模様のアップ。渦巻きの中央は「普段はこんなに巻き込まないんだけどね」。制作時の気分も仕上がりに反映される

藤谷さんは個人的にシンプルなデザインが好きなこともあり、着物など大きな作品の刺繍には色をあまり使わず白をメインにしています。お客さんからの言葉で一番うれしいのは『見ていると落ち着く』『癒される』。アイヌ文様がもっと身近なものになってほしいと話します。

作品作りにおいて藤谷さんが大事にしているのは、二風谷の地域らしさ。刺繍の「間」などの微妙なさじ加減で作り出されるもので、「この文様が入っているからこの地域らしい」といったものではありません。実際に作品を手に取り、二風谷に代々受け継がれてきた技術以上のものを感じとってみてください。

初めて全国自然布展に藤谷さんが参加した際、各地の織り手たちから驚かれたことがあります。織機のコンパクトさです。昔から使われている原始機(げんしばた)というシンプルなもので、ちょっとした箱に入れて持ち運べるくらいの大きさです。

アットウシの織機。糸は3mほど延ばして織るが、織機自体はコンパクト

藤谷さんは糸を作り、染め、織り、刺繍をするというすべての工程をひとりでこなしています。そのことも、分業制が進んでいる地域からはとても驚かれました。反物だけを納品していた経験のある藤谷さんは、着物作りに関するすべての工程を自分で行うようになってからこの仕事が好きになってきたと言います。

糸を染めるのに使用するマリーゴールド。自分で摘んできたものを店の前で乾燥

2013年に伝統的工芸品に指定されて以降、アットウシは少しずつ知られるようになったと藤谷さんは感じています。「先祖は生活のために織ってきたけれど、私たちは楽しむこともできる。20年前に亡くなった母親が伝統的工芸品に指定されたことを知ったらどれほど喜んだだろう」。道有林、国有林からオヒョウの樹皮を譲ってもらえるようになり、樹皮を煮たり染色したり織ったりすることのできる町立の民芸品共同作業所も作られる予定になっています。

平取町では9年前からイオル(伝統的生活空間)再生事業に取り組んでおり、そこにはアットウシの材料となるオヒョウやシナノキも植えられています。「アットウシに使えるのは樹齢25年くらい経った木。私たちの孫やひ孫のための環境整備ね。でも私たちが今頑張れば、アットウシをやりたいという人もでてくるはず。私たちも大先輩の姿を見てやってきているので。新しくできる施設を使って若い人がどう伸びていくか、楽しみです」

藤谷民芸店 ■住所:平取町二風谷 ■電話:01457・2・3408(店舗には電話なし。連絡はこの番号へ) ■時間:9:00~17:00ころ ■休み:不定(11~4月は要事前連絡)  

※文中のアットウシの「ウシ」、アミプの「プ」、サラニプの「プ」は実際のアイヌ語表記では小文字となります。

この記事の画像一覧(全6枚)

大きなサイズで見る

キーワード

関連記事

ページ上部へ戻る