アイヌの今を知り歴史を学ぶ 北海道博物館のこだわりの展示方法に注目 1(全3回)

2018年5月31日 11:00更新

北海道ウォーカー 市村雅代

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「北海道」と命名されてから2018年で150年。「北海道は歴史が浅い」とはよく聞きますが、これはまさに「北海道」になってからのこと。命名される以前にもこの大地は存在し独自の歴史を積み上げてきました。

札幌にある北海道博物館ではそんな北海道の自然・文化・歴史を5つのテーマに分けて紹介しています。注目は第2テーマのアイヌ民族にスポットを当てた展示。アイヌ民族の今とその文化・歴史を深く知ることのできます。今回は、このテーマを全3回にわけてご紹介。説明されるとなるほどと納得の、こだわりの展示方法にも注目です。

地図を90度回転させると見えてくる北海道の地の利

アイヌ文化をメインで扱っている第2テーマの入口には「アイヌ文化の世界」と書かれたパネルがあります。日本の周辺地図が書いてあるけど…ん? 何かが変…。

90度回転させるだけで、北海道の地理的利点が見えてくる

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西が上になった地図です。この地図は実は館内の5つのテーマすべてで使われているもの。北海道の地理的・歴史的な位置の見方を変えてみようということで、この地図が採用されています。

「こうして見ると北海道が、本州、大陸、カラフト、千島列島の中心的な位置にあることがわかります」と同館の大谷洋一さん。確かに! 北海道を中心に大陸、本州、千島列島などが放射線状に広がっています。アイヌ民族は狩猟・採集民族だと思われがちですが、手に入れた毛皮や昆布を使って交易もさかんにしていました。地図を見ると、この地の利を生かしていたことがよくわかります。

そしてよく見ると地図には地模様が。これは明治生まれのアイヌ女性、金成(かんなり)マツさんが、アイヌ語のユカラ(英雄叙事詩)をローマ字でノートに書いたものの一部です。ユカラは2,3日かけて語られたとも言われるほど長い物語です。「英雄が主人公で、空を飛んだり、水にもぐったりしていろいろな敵と戦います。まるでドラゴンボールのようにどんどんお話が展開していくものが多いです」と大谷さん。金成さんは自分が聞き覚えたたくさんのユカラをはじめとする口承文芸をノートに書き残しました。生涯で残したその量は、いま知られているだけでもノート約165冊分! まだ日本語に翻訳しきれていないものがあるほどです。

ただし、この地模様のローマ字、本州の途中までしか書かれていません。単にデザイン上の問題かと思いきや「アイヌ語地名が残っているところに書いてあるんですよ(ユーラシア大陸は除く)」ということで東北地方までの地模様になっています。ちなみにアイヌ文化を扱う第2テーマは金色で統一。「カムイ(人知の及ばない神のような存在)のいる場所をイメージしています」と同館の田村雅史さん。このこだわり! 博物館のしつらえすべてに意味がありそう。さっそく第2テーマに足を踏み入れてみましょう。

アイヌの展示で札幌駅改札の写真、のなぞ

ん? アイヌのコーナーなのに最初に目に入るパネルは駅? 「札幌駅の改札です。ごく最近撮った写真ですよ」と学芸副館長の小川正人さんが教えてくれました。

アイヌ関連の展示で通勤時間帯の札幌駅…?

このエリアのテーマは「現在を知る」。通常アイヌ文化は、過去から現在に向かって紹介されることが多く、展示もかつて使われていた民具が中心。そのためアイヌ民族の現在のイメージがわかず、「今もいるのか?」などの疑問や、「山奥で暮らしているのか?」など特別なところで暮らしているようなイメージを持っている人が多いのだとか。

でも、実際にはこの札幌駅の改札を通り過ぎている多くの人と同じの格好で学校に通ったり会社に勤めたり。現在のアイヌ民族は数万人ともそれ以上とも言われており、北海道のほか本州などで暮らしている人もたくさんいます。「いまも社会のいろいろなところで普通に暮らしているアイヌの人がいることを分かってもらえたら」と大谷さんは言います。

このコーナーでは、札幌で暮らす小学生の男の子が5世代前までさかのぼり、アイヌ民族の血を引く自身のルーツをたどる、という構成になっています。

小学生の主人公とその祖父母、両親との掛け合いとイラスト、写真や資料を使って説明されておりとても分かりやすい構成

実際に残されているエピソードを個人の物語に落とし込んでいるので、例えば和人の子どもをアイヌの家庭が引き取って大事に育てた事例があったことや、明治政府による同化政策がアイヌの人たちの暮らしにどう打撃を与えたのかがよりリアルに感じられるようになっています。

ほか、同館ではアイヌの文化が過去のものではないことを感じ取れるよう、儀式の写真でも、昔のものだけでなく、ごく最近行われたものも使うなど、細かい配慮がなされているのも印象的です。

自身も参加したという2014年に北海道庁赤れんが庁舎前で行われた儀式の写真と大谷さん

札幌駅の写真から始まり現代から遡ってアイヌの歴史を見る、というこのコーナー。学芸副館長の小川正人さんは「けっこうチャレンジングなコーナーだと思います」。このような構成にしたのは「アイヌに関する固定概念をそのまま前提にしてしまっていいのか? と思ったため」と話します。これまでアイヌに関する展示は見たことあるよ! という人にこそ見てほしいコーナーです。

(2に続く)

※文中のユカラの「ラ」はアイヌ語表記では小文字になります。

北海道博物館■住所:札幌市厚別区厚別町小野幌53-2 ■電話:011・898・0466 ■時間:9:30~17:00(10~4月は16:30閉館。最終入館はともに閉館時間の30分前まで) ■料金:大人600円 大学生・高校生300円(高校生は土曜、こどもの日、文化の日は無料) ■休み:月曜(休日の場合は直後の平日) ほか臨時休館あり

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