アイヌの今を知り歴史を学ぶ 北海道博物館のこだわりの展示方法に注目 2(全3回)

2018年5月31日 15:00更新

北海道ウォーカー 市村雅代

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北海道博物館では北海道の自然・文化・歴史を5つのテーマに分けて紹介。その中の第2テーマ「アイヌ文化の世界」に焦点を当て、スタッフの方から展示物に関するこだわりやエピソードを教えていただきます。前回は「現在を知る」のコーナーを取り上げましたが、今回は逆に「伝統を学ぶ」のコーナーへ行ってみましょう。どう使うのか? どう作るのか? のていねいなフォローありで、グッと理解が深まります。

細長い舟の乗り方は…

「伝統を学ぶ」のコーナーに入ってすぐ目に入るのが大きな丸木舟。昭和初期に千歳川で実際に使われていた物です。「流れがはやく狭い川で使うことを考え、コンパクトで舟底が深めになっています」と同館の大坂拓さん。

「使い方がわかるようにモニターを設置しています」と言われ、そちらを見ると千歳川で同じタイプの舟に乗っている1925年に撮影された映像が流れています。…なんと立ち乗りではありませんか! しかもその立った姿勢のまま漁までしています。この細い舟でそんなことまでできるなんて、すごいバランス感覚! 

実際の舟があることでサイズ感がわかり、ビデオではその使い方がわかる

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生活感のある「モデルルーム」

奥には復元した伝統的住居が置かれています。囲炉裏のそばには薪が置かれ、主人夫婦の席のそばには梁からぶら下げたゆりかごや作業途中の糸をつむぐ道具があり、入口近くにはひしゃくなどの台所用具も。いますぐここで暮らせそう…。

白老地方の晩秋~冬にかけての伝統的住居のようすを再現

家の奥には衣服がかかっていますが、あれれ? 博物館などで「アイヌ民族の衣装」として見慣れた、たくさんの文様が入ったものではありません。「普段着は無地のものも多かったようです。お客さまには『今でいうとジャージのような感じです』と説明することもあります。別のコーナーで展示している文様がたくさん入ったものは、言わば晴れ着で、主に儀式のときなどに着ていました」と学芸副館長の小川正人さんが教えてくれました。

復元から40年ほど経ち、この展示自体も史料となりつつある

便利な道具がなくてもきれいに文様を仕上げられたワケ

刺繍や手芸に興味のある人はぜひその文様のたくさん入った着物が展示されているスペースへ。今回展示されていたのは白い木綿の切り抜き文様が特徴の静内地方の着物です。うーん見事な刺繍! 着物は3か月~半年に1回入れ替えあり。ツイッターで告知されます。

着物のほか、サケの皮で作った靴や儀式の際に身に付けたアクセサリーの展示も

でも考えてみると当時は生地に下書きをする道具もなかったはず。ぶっつけ本番でいきなり刺繍をして果たしてこんなに広範囲にバランスよく刺繍ができるものなのか…。その答えが左の棚にありました。

糸で印をつけ、チャコペンなしでも広範囲に刺繍を施した

伝統的な衣服の刺繍がどのような手順で作成されているかを調査していた元北海道アイヌ協会学芸員、津田命子さん指導のもと作られた刺繍のサンプルです。刺繍がどうやって進められていくのが、何枚もの実物のサンプルを手にとって見られるもの。定規などの道具なしでどうやってバランスよく刺繍を行えたのかの手順が示されています。秘密はベースになる糸印。それを基準にして刺繍へと進んだよう。手間はかかりますが、確かにこれなら間違いない!

ちなみにこの刺繍のデザインは「伝統を学ぶ」のコーナーテーマが書かれたパネルにも関連がありました。

コーナーのパネルにもまさに「伝統を学ぶ」に関連した趣向が凝らされている

コーナーのパネルの地模様は、津田さんが伊達市有珠地方の木綿衣(現在はブダペスト博物館収蔵)の文様をトレースした図版に基づくものだそうです。じつは展示されていた刺繍のサンプルのデザインはこのトレースしたものの一部なんだとか。こんなふうに細かいところにまでいろいろな資料や素材が散りばめられているのが、北海道博物館らしいところです!

刺繍のサンプルの横には樹皮を材料とする織物、アットウシのサンプルもあります。織り方の違う3枚それぞれの手触りを試してみて。3枚の手触りは明らかに違いますが、何よりも樹皮でできた着物と聞いて、抱いた「ごわごわ」「チクチク」なイメージが一変。思ったよりもずっと柔らかく、温かい肌触り。見るだけではわからないことってたくさんありますね。

ここまで来て気が付きましたが、伝統的なアイテムを扱っているコーナーなのにも関わらず、アイヌ語を使っての説明がほとんどなし。「伝統的住居もほかの博物館でしたらチセ、と紹介されていると思います」と、同館で言語の分野を担当する田村雅史さん。確かにそうでした…。「日本語に置き換えられるものは置き換え、アイヌ名を書くのではなく何をする道具なのかを説明しています。まず、『なんだ、これ?』と興味を持っていただきたいんです」とその意図を話します。ガラスの奥に陳列しているものを眺めるだけでなく、触れられる展示があるのも伝統を身近に感じられるポイント。現在と伝統の世界がつながっていると感じられます。

※文中のアットウシの「ウシ」はアイヌ語表記では小文字になります。

北海道博物館 ■住所:札幌市厚別区厚別町小野幌53-2 ■電話:011・898・0466 ■時間:9:30~17:00(10~4月は16:30閉館。最終入館はともに閉館時間の30分前まで) ■料金:大人600円 大学生・高校生300円(高校生は土曜、こどもの日、文化の日は無料) ■休み:月曜(休日の場合は直後の平日) ほか臨時休館あり

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