細やかな伝統技術を守り個性もプラス アイヌ木彫品の魅力

2018年5月29日 20:00更新

北海道ウォーカー 市村雅代

Twitterで
シェア
Facebookで
シェア

小さい頃から親しんできたアイヌの木彫の世界に本格的に足を踏み入れてから31年。2013年の二風谷イタ(お盆)と二風谷アットウシ(樹皮から作られた糸を使った織物)の伝統的工芸品指定の際には二風谷民芸組合代表理事として奔走した貝澤守さんに、工芸品の制作や伝統的な技術のこれからのことをうかがいました。

この日、制作途中だったのは1辺30㎝のクルミのお盆。この大きさであれば平均2日で仕上げるそう。「伝統的な文様を組み合わせてはいるけれど、全体としては僕が考えたオリジナルの文様です」。モレウノカ(渦巻きの形)やアイウシノカ(トゲの形)などのアイヌ文様が美しく配されています。

小さなラムラムノカ(ウロコの形)が配されたデザインを彫り上げるため、指先をかすかに動かして作業をする様子は引き目には静止画です。そんな様子を見てつい聞いてしまいました。「この図案で作ってみたいけど手間がかかりすぎるからやめようと思ったことはないんですか?」「そういうのはないですね…」。さすが職人! 「…でも作業をはじめてから、失敗した!と思うことはありますよ(笑)」。

数ミリずつ刃を動かして細かい部分を彫っていく

全ての画像を見る(6件)

「古い資料にも精巧な作りのものがたくさんあります。アイヌ民芸ブームで、より複雑なものが好まれた時期もありましたが、基本、アイヌ文様は魔よけのためのものなんです。アイヌの着物の袖口などに刺繍が施されているのはそこから魔物が入り込まないようにするため。渦巻きやウロコなど自然の力を借りて魔物を寄せ付けないようにしています」。

これだけ精巧な文様を施していたら、会心の作は手放しがたくなるのでは? 「すぐ次がありますからね。物は残さないようにしています。手元に置くよりももっと多くの人に工芸品を知ってもらいたいですし」。

貝澤さんの作品は貝澤さんの工房兼お店の貝沢民芸から徒歩3分ほどの二風谷工芸館で主に販売しています。「手間がかかっているのでどうしても値段が高くなってしまうんだけど、使ったらその味も出てきますので」と貝澤さんは話します。

アンティーク仕上げのイタ(10万8000円)

素彫りのイタ(4万3200円)。経年の変化を楽しめる

二風谷にはアイヌの民具を収めた「萱野茂二風谷アイヌ資料館」と「平取町立二風谷アイヌ文化博物館」があり先人の作った数多くの作品を目にすることができます。「昔は三角刀もなく1本の小刀で彫っていたと思うんですが、エッジが立ったきれいな線なんです。刃物の切れ味も今のものより悪かったはずで、その仕上がりには脱帽してしまいますね」。

経済産業省の伝統的工芸品に指定されるためには日用品であること、伝統的に使用された原材料であることなど5つの要件を満たす必要がありました。その中で証明が難しかったのが100年以上前から続く伝統的な技術・技法であること。アイヌの工芸品には様々なものがありますが、その中で北海道大学にも協力してもらい、どの時代にも作っていた人がいた、ということを証明できたのがイタとアットウシでした。伝統的工芸品と認められて4年。変化はありましたか?

「認知度は高まりましたね。物産展への誘いも増えましたし、北海道としてのお使い物にも使ってもらえるようになりました。民芸組合の組合員も認定時には13人だったのが、現在は21人に増えています。材料も国有林と道有林から調達できるようになりました。平取町がアイヌ文化に理解があり、伝統的工芸品に関わる活動を金銭面でバックアップしてくれることも大きいですね」。何よりもアイヌ文化に興味を持って工芸品を見に来てくれる人が増えたと実感しているそうです。

アイヌの伝統的なチセ(家)の建設などにも携わる貝澤さん。母の貝澤雪子さん、妹の関根真紀さん、妻の貝澤美雪さんはアットウシの作家、と一家そろって工芸家

その一方で、次世代の育成と原材料の確保は大きな課題となっています。「材料の広葉樹を手に入れにくいこともありますが、その原木を手に入れたとしても製材所が町内にないんです。いま使っているのは10年以上前に日高管内で買い付けておいたものです」。

平取町ではイオル(伝統的生活空間)再生事業を2008年から開始。コタン(集落)の再現を行うとともに、にぶたに湖対岸の「イオルの森」などでアイヌ文化に欠かせない樹木など植物の栽培も進められています。それらの世話をしている地元出身の若者3名が、時間のある冬期に貝澤さんたち民芸組合員から工芸技術を学んでいます。

にぶたに湖対岸のイオルの森

取材時には約2週間後に迫ったチプサンケ(丸木舟の進水式)で使用する祭具イナウキケ作りが進められていました。その作業をしていたのはイオル再生事業のメンバーのひとり、川奈野利也さん。事業開始時からのメンバーで、9年目になります。イナウキケは削った部分の巻きが均等になるのが理想ですが、材料の柳の木の節にやや苦戦しているよう。「難しいですね」と何度かやり直す姿を貝澤さんが見守っていました。

イナウキケ作りは男性の仕事。これが完璧にできて一人前とされた

改めて、アイヌの木彫品の魅力とはどんなところなんでしょうか。「北海道にある木を使って、その良さを生かしつつ、魔よけとして使い、そればかりでなく美しく見せることに重きを置いている点ですかね。そこに価値を感じ取るお客さんが増えるといいなぁと思っています」。

※文中のアットウシの「ウシ」、アイウシノカの「シ」、ラムラムノカの「ム」、チプサンケの「プ」はアイヌ語表記では小文字になります。

貝沢民芸 ■住所:平取町二風谷76-7 ■電話:01457・2・2584 ■時間:9:00~18:00 ■休み:不定

二風谷工芸館 ■住所:平取町二風谷61-6 ■電話:01457・2・3299 ■時間:9:00~17:00 ■休み:12/30~1/5

この記事の画像一覧(全6枚)

大きなサイズで見る

キーワード

関連記事

ページ上部へ戻る