”攻め”の巨匠イーストウッド、”当事者”再集結で実際のテロ事件を再現!<連載/ウワサの映画 Vol.22>

東海ウォーカー

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”前代未聞”って言葉を軽々しく使っていたことを、まず反省。そして、87歳の”攻め”の姿勢に「あっぱれ!」と言いたい、巨匠クリント・イーストウッド監督の最新作「15時17分、パリ行き」。実際に起きた無差別テロ事件が題材なのですが、事件の当事者たちがご本人役を演じるという…、当事者による再現VTR的な…、びっくり企画です。通常の映画の評価基準は到底通用しません…。だって、こんな規格外な趣向の映画、初めて観るんですもん。

完全武装のテロリストを生身で成敗した面々。事件当時、スペンサー(右)は米空軍に所属、アレク(左)はオレゴン州の州兵、アンソニーは大学生でした。全員ご本人です!©2018 Warner Bros. Entertainment Inc., Village Roadshow Films (BVI) Limited, RatPac-Dune Entertainment LLC


2015年8月21日15時17分・アムステルダム発パリ行きの高速列車・タリス。列車がフランス国境内に入ったのち、突如イスラム過激派の男が自動小銃を発砲、乗客554名は恐怖のどん底に…。そんな絶体絶命の危機に、ヨーロッパ旅行中のアメリカ人の幼なじみ3人組、アンソニー、アレク、スペンサーが立ち向かいます…!テロリストの恐ろしい虐殺計画を阻止し、一人の死者も出さなかったという奇跡は世界中でニュースとなり、彼らの勇敢な行動は称賛の的となりましたよね。

テロリスト役が本人なわけないけど…、一瞬ドキッ。自動小銃AK-47、ルガーピストル、ボックスカッターナイフ、270発の弾薬を所持していた犯人に、よく生身で挑んだな…©2018 Warner Bros. Entertainment Inc., Village Roadshow Films (BVI) Limited, RatPac-Dune Entertainment LLC


テロ事件を重点的に描くと思いきや、主人公たちの少年時代にさかのぼり半生をつづっていきます。続くヨーロッパ旅行シーンも、「迫る運命の時に向け緊張感を演出しよう!」という計算もなく、おのぼりさんに密着した”旅番組”が長らく続き、たびたび「このくだり、意味あるのか?」…。でも、キリスト教系の学校で形成された価値観やら、さりげなく吐かれる意味深なセリフやらが伏線となってラストに深みを出していたりします。説明的な演出もなく、一般人の演技から伝わる情報も少ない…。そぎ落とされているものが多い分、イマジネーションが要求され、”映画”の定石に縛られていると困惑するかも。

のけ者で問題児だった子供時代を経て、何も成すことのないまま”もやっ”と感を抱えているスペンサー。そんな彼の葛藤や挫折が、命がけの行動に駆らせたトリガーとして語られます©2018 Warner Bros. Entertainment Inc., Village Roadshow Films (BVI) Limited, RatPac-Dune Entertainment LLC


「アメリカン・スナイパー」「ハドソン川の奇跡」以前から、実話の映画化が続くイーストウッド監督ですが、年齢的な負担もあるのか、尺は短くなるし、物語も撮影方法もシンプルになるし、徹底して無駄を排除している印象です。そしてついに、主役の俳優まで排除するという暴挙!そのド素人による大根っぷり、私は嫌いじゃないですねー。もはや”演技”と呼ぶのも違う気がする企画だし、経験者だけが知る複雑な心理模様はきっちり息づいている。むしろ、作り込まれた芝居にニセモノ感すら抱いてしまいそうで、なんだか複雑~。

あるイベントで3人に賞を贈る役目を担当し、彼らと初対面したというイーストウッド(右)。初演技に臨む彼らに「自分自身であること」だけを望んだそうです©2018 Warner Bros. Entertainment Inc., Village Roadshow Films (BVI) Limited, RatPac-Dune Entertainment LLC


主人公3人以外にも、犯行阻止に加勢した人など、乗客役にも当事者が集結。被弾して死にかけた人まで、トラウマ的状況を再現していて、もうア然です。おまけに撮影場所も事件現場!基本的に”虚飾”が入り込む余地がありません。監督お得意の早撮りも冴え、狭い列車内の圧倒的な閉塞感と緊張感も生々しいんですよー。”真実”が持つパワーがあれば、「小細工は無用!」という趣です。

主人公3人の役は俳優によるオーディションも行っていたのですが、方針転換し本人たちを起用することに。結果、彼らの子供時代や母親を演じる一部の俳優を除き、シロウトが集結!©2018 Warner Bros. Entertainment Inc., Village Roadshow Films (BVI) Limited, RatPac-Dune Entertainment LLC


「映画は見せかけ。でもこの映画には見せかけが少ない」と監督が語るように、ドキュメンタリーのような味わいもある本作には、終始、”フィクション”と”リアル人生”の中間のような不思議な雰囲気が漂います。オランド大統領による勲章授与時のアーカイブ映像が挿入された場面なんかは、「オランドが映画にゲスト出演してくれてる?あれ?」という未体験の感覚に襲われます!

”空気感”も”リアリティ”の重要な要素。テロ事件場面では、運行状況に合わせてタリスの2つの車両でゲリラ撮影を敢行、”緊迫の車内”を数分で切り取っています©2018 Warner Bros. Entertainment Inc., Village Roadshow Films (BVI) Limited, RatPac-Dune Entertainment LLC


土壇場になったら本能&直感任せなんだろうなっていう、本作が語る”とっさの行動のおもしろさ”。それがそのまま作風にもなっていて、2度おもしろい。淡々と積み重ねる日常のひとコマとして大事件があった…、という主人公たちと同様、リアルな人生は、予定調和ではなく偶然の連続だと気付かされます。270発の弾薬を持ったヤツはいきなり現れるし、それに対して神妙面して対策を練ってなんかいられねぇ!誰かの生活をドラマチックに盛った映画に酔いがちな我々ですが、そっけなくて出たとこ勝負なのが現実ってもんです(笑)

ヴェネチアでゴンドラに揺られ、アムスのクラブで大はしゃぎ…、休暇に浮かれる自分を再現する主演陣。間もなく死ぬかもしれない大事件に遭遇するという…、この落差こそが人生!?©2018 Warner Bros. Entertainment Inc., Village Roadshow Films (BVI) Limited, RatPac-Dune Entertainment LLC


御年87歳、仙人のように映画作りにいそしむイーストウッド。今作はなかり実験的な冒険をし、映画の”新境地”に果敢に踏み込んでみせました。今後の”ひらめき”が楽しみでなりませんっ。そして気になるのが、「無駄を省く」スタイルは、ご自身の演技にも適用されるのかってこと。そろそろ俳優業も観たくてウズウズです!【東海ウォーカー】

【映画ライター/おおまえ】年間200本以上の映画を鑑賞。ジャンル問わず鑑賞するが、駄作にはクソっ!っとポップコーンを投げつける、という辛口な部分も。そんなライターが、良いも悪いも、最新映画をレビューします! 最近のお気に入りは「リメンバー・ミー」(3月16日公開)のガエル・ガルシア・ベルナル!

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