独特の世界観に引き込まれる 音威子府村の砂澤ビッキ記念館

2018年6月3日 11:00更新

北海道ウォーカー 市村雅代

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木と対話するようにして多くの木彫作品を作り上げた現代彫刻家・砂澤ビッキ氏。生前アトリエとして使っていた北海道の音威子府村の旧筬島小学校が2004年からは彼の作品を収めた記念館「エコミュージアムおさしまセンター BIKKYアトリエ3モア」となっています。アイヌ文様をオリジナルのデザインへと発展させた作品の数々に出会え、豪快で多くの人に愛された彼の人となりも感じることができます。

7つのエリアにわかれた「エコミュージアムおさしまセンター BIKKYアトリエ3モア」。足を踏み入れると最初に迎えてくれるのが「風の回廊」です。左には「木材」を組み合わせた壁、右には「鉄」の壁。そして床は「木のくず」が。その空間にひゅーひゅーという風の音が響きます。

この先に何が待ち受けているのか、ワクワクするような不安になるような風の音が響く風の回廊

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廊下に使われている「木材」「鉄」「木のくず」は、それぞれビッキ氏の作品の材料、それを削る鉄製のノミ、そして作業の工程で出る木のくずを表現しています。風の音は、ビッキ氏が大好きだったという「ビッキの木」のある村内の北海道大学中川研究林で録音されたもの。のっけからビッキワールドにぐっと引き込まれます。

「ビッキは、『木というのは人間より長い年月かけて育っているもの。そのため力強くむだがない』と話していたそうです。作品も木の自然の姿を生かし、木の中にあったものを彫り出すようにして作っています。いい意味で遊びがあって、楽しい作品も多いですね」と同館の学芸員の川﨑映さんはビッキ氏の作品の特徴を話します。

廊下の右に並ぶのはすべて「きめん」と読めるタイトルのついたお面。1975年から76年にかけて約120点作られたもののうちの一部が展示されています。すべて「木」でできた「面」ではありますが、表現は全く別。タイトルから何を表現しているのか想像してみてください。

木面シリーズの一部。「キのお面」というだけでこれだけのイメージがわくビッキ氏の才能にも驚嘆

アイヌの血を受け継いだビッキ氏は、渦巻の形など伝統のアイヌ文様を「ビッキ文様」と呼ばれるものに発展させていきました。館内ではこのビッキ文様を施した作品を見ることもできます。木に文様を彫り込んだ後、ブロンズの緑青に見立てて緑の顔料を練り込んだ作品は、特にそのオリジナルの文様が際立ちます。

ビッキ文様を施した「樹鮭」。サケの特徴を巧みに表現しつつビッキ氏の世界観を盛り込んだ

「樹鮭」を顔から見たもの。ブロンズ作品のように見えるが木製

胴部分の2か所と尾が動かせるようになっており、サケが尾を振りながら泳ぐ姿も再現できるようになっています。ほか関節を動かせるイセエビを表現した作品もあり、ビッキ氏の観察眼の素晴らしさと遊び心を感じます。

風の回廊にある1955年に描かれた「考える人」。56年に彫刻に転向したため絵画作品は貴重!

次の展示スペースは「トーテムポールの木霊」。旧校舎の床をはがし、土がむき出しになった場所にかつて音威子府駅前にあった15mの高さのトーテムポール「オトイネップタワー」が分割されて横たわっています。1980年に建てられたこのトーテムポールは90年に風で折れてしまいましたが、「作品は自然の手が加わってはじめて完成する」というビッキ氏の考えのもと土に帰るまでを作品とし、直接土に横たえています。

迫力満点の「オトイネップタワー」

当時の姿は議会に提出されたミニチュアサイズの試作品で見ることができます。当時の村の産業=林業、酪農、農業を表すキツツキ、ウシ、砂糖大根(ビート)をかたどったもので構成されています。

次は暗い小部屋「ビッキからのメッセージ」。足を踏み入れるとあかりが灯り、正面のビッキ氏の写真とデスマスク、生前身に着けていた指輪を照らします。床にはビッキ氏が詠んだ詩が投影され、タイトな空間ということもあり、一対一でじっくりビッキ氏と向き合えます。

その後、暗い部屋から一気に広い空間へ。ビッキ氏のアトリエを再現した「アトリエ:午前3時の部屋」です。実際に使用されていた道具類も展示されています。中央にある作品は「樹華」。来館者が自由にヤナギの枝を差し、形を変えることができます。

当時、アトリエとして使われていた部屋。初期の作品から代表作も並ぶ

この部屋にはビッキ氏の代表作「午前3時の玩具」も展示。1987年の作品です。夜作業をしていると午前3時ころに音威子府を夜行列車が通過し、その汽笛を聞くのが好きだった、というビッキ氏。灯りに集まるガなど、夜の空気からインスピレーションを受けて完成させた作品です。ほか、初期の作品もあり、彼の作風の変化を感じながらの鑑賞もおすすめです。

代表作「午前3時の玩具」

次のスペースはギャラリー。現代の作家による企画展などを行うスペースです。この一画にトンボを表現した作品が。スミソニアン博物館でも展示されたものです。上記のサケ同様、木製ですが、緑の顔料が使われており、近くで目を凝らしても木製とは思えない質感です。羽や腹部の細かいビッキ文様も見どころです。

代表作のひとつとして語られることの多い「樹蜻蛉(トンボ)」

いろいろな土地に出かけることでビッキ氏も様々な影響を受けていました。カナダの先住民族との交流を経て、作品作りにおいて木の「気」との対話を求めるようになったそう。その影響が見られるのがTOH(1984年)です。「樹気との対話」のコーナーにあり、水を張った暗い空間にくっきりと浮かび上がります。十字架にも女性にも見えるこの作品。館内で一番大きな作品ですが、細かいノミの跡にビッキ氏が木の心を掬い取ろうとした思いが伺えます。

最後はビッキ氏が内装を手掛けた札幌のバー「いないいないばぁー」を移設した空間へ。思わずニヤリとしてしまうようなユーモラスな作品が多く、お酒好きだったビッキ氏がお酒の飲める場所も大事にしていたことがわかります。

小学校時代は体育館として、ビッキ氏が住んでいたころは茶の間として使われていた場所に「いないいないばぁー」を移設。コーヒー(350円)を飲みながらくつろぐこともできる

ビッキ氏の両親の作品も展示。アイヌ文様に触れながら育ち、木彫りが身近にある環境だったことがわかります。オトイネップタワーをデザインした手ぬぐいなど、手ごろなお土産も販売しています。

作品と引き換えにお酒を飲んでいたこともあったとか

「北海道一人口の少ない村」と紹介されることの多い音威子府村ですが、ビッキ氏の残したものが木彫作品以上の大きな財産となり、道北エリアで独特の個性を放っています。

旧筬島小学校の校舎を使った記念館。小さく見えるが、見ごたえがあるのでたっぷり時間を取って訪れたい

エコミュージアムおさしまセンター BIKKYアトリエ3モア ■住所:音威子府村字物満内55 ■電話:01656・5・3980 ■時間:9:30~16:30 ■料金:高校生以上200円 ■休み:月曜、11/1~4/25

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