休日は観光列車に乗って ~レトロを楽しむ“ノスタルジック”女子旅~ vol.1 特急いさぶろう・しんぺい
九州ウォーカー
「最近、ため息が多くなったかも」……そんなときこそ、旅に出よう。旅の楽しみ方はいろいろだけれど、ちょっと疲れた心と体には列車の旅がちょうどいい。どこ行く?何する?何食べる?会話を弾ませ、車窓からの景色に感動、駅弁に舌鼓、時々ウトウト…。ガタンゴトンと揺れる旅情と、ゆったりと流れるひと時に身を任せ、がんばった自分に“おつかれさま”のご褒美を。
「いさぶろう・しんぺい」に乗って、いざ絶景と出合う旅へ


古代うるし色と呼ばれる深みのあるえんじ色の車体が急峻な山あいを走る。緑の中でひと際あざやかな紅一点。それが「いさぶろう・しんぺい」だ。明治時代の鉄道の偉人「山縣伊三郎」と「後藤新平」に由来するこの列車は、熊本から鹿児島県の吉松までを結ぶ。「いさぶろう・しんぺい」とまとめて呼ばれることが多いが、詳しくは下りが「いさぶろう」、上りが「しんぺい」となる。
車内は明治モダンを思わせるレトロなしつらえ。木のぬくもりあふれる調度品が、ノスタルジックな雰囲気をかもしている。シートに座り、旅のはじまりに胸を躍らせつつ、ほっと一息。「発車します」とのアナウンスののち、列車はゆっくりと加速。ガタゴトと体を揺らす震動や時折、木の床がギィ、ギィと音を立てるのも味がある。

『熊本駅』を発車して10分もすれば、窓の外にはのどかな田園風景が広がりはじめる。車内中央には大きな窓がある展望スペースが設けられていて、景色を眺めるならここが特等席。ここでは記念乗車証を無料で配布しており、これはスタンプの台紙にもなっている。旅の記念にGETしよう。
列車は肥薩線へ。風光明媚な球磨川沿いをひた走る


『八代駅』から肥薩線に入ると、列車は大きな川沿いを走る。「球磨川」だ。全長115km、最上川・富士川と並ぶ日本三大急流の1つで、抜群の水質を誇る清流としても知られている。何も考えず、ただただ、ぼ~っと陽光に照らされてキラキラ光る川面を眺めてみる。明日のこと、仕事のこと、彼氏のこと…「今はどうでもいいや!」と笑いあう。なんだか、すうっと心が軽くなるから不思議。

さて、せっかく観光列車に乗ったのなら、ぜひとも味わいたいのは「駅弁」。「いさぶろう・しんぺい」で味わいたいのは、九州駅弁ランキングでも常に上位の名物駅弁「栗めし弁当」(1100円)だ。


栗のかたちをした弁当箱を開けると、「わあ!」と歓声が上がる。お弁当箱を開けてこんなに笑顔になったのはいつ以来だろう。中には大きな栗やおかずがギッシリ。「栗あまーい!」「見て見て、炊き込みごはんだよ」。はしゃぎながら食べる、食べながらはしゃぐ。「あ、写真撮る前に食べちゃった」、それもご愛嬌。美しい景色を愛でながら味わう駅弁。これぞ列車旅の醍醐味!


おなかも一杯になったところで列車は『大畑駅』へ。「大畑」と書いて“おこば”。昔、焼畑のことをこの辺りでは「コバ」と呼んだことに由来する。ここでは急勾配を緩和するために列車が前進と後進を繰り返しながら斜面をジグザクに走行する「スイッチバック」が体験できる。なかでも『大畑駅』はぐるりと旋回するループ線とスイッチバックを併せ持つ駅として知られ、これは日本で唯一なのだそう。駅の待合室には“名刺を貼ると出世する”という言い伝えがあるそうで、待合室には名刺がびっしり。仕事をがんばりたい人は願いを込めて貼ってみよう。また、ホームには「蓮華水盤」という手水鉢もあり、これは明治43年の駅開業以来からあるもので、今年修復したもの。かつて駅員や乗客も利用したのだろうかと思うと感慨深い。

『大畑駅』を後にすると、辺りはますます森に覆われ、秘境感たっぷり。窓を開け、風を呼び込むと、胸がすくような清々しい空気と森の香り。加えて、ガタンゴトンという列車の足音、窓の外の風を切る音、木々の揺れる音が重なり合う。ここでいつもの列車移動のようにイヤホンをするのはもったいない。耳を澄ませて観光列車ならではのオーケストラを楽しもう。
20分ほどで『矢岳駅』に到着。肥薩線でもっとも標高が高い駅で、ここにはかつて「デゴイチ」の愛称で親しまれたD51型のSLが展示してある。黒塗りの重厚感と威厳ある佇まいがかつての雄姿を彷彿とさせる。
日本三大車窓の絶景

いよいよ、肥薩線の旅はハイライトへ。矢岳~真幸(まさき)区間、通称“矢岳越え”は「日本三大車窓」に数えられる絶景ポイント。眼下に広がるえびの盆地の向こうには雄大な霧島連山を望み、天候に恵まれれば遠く桜島まで見える。途中列車は一時停車するので、ゆっくりと景観を眺めるのはもちろん、思い出の1枚を撮影するにもぴったりのフォトスポットとなっている。


『真幸駅』は肥薩線のなかで唯一宮崎県に属する駅で、開業から100年を越える、宮崎県で最初にできた駅でもある。レトロな木造駅舎は映画のワンシーンに出てきそうな佇まいが趣深い。ここでもスイッチバックが体験できるほか、ホームには駅名にちなんだ「幸せの鐘」が設置してあり、これを鳴らせば幸せが訪れるとか。また、週末は地元の人たちが特産品などを販売しており、明るいおばちゃんたちと和やかな会話を楽しみながらおみやげを購入するのもいい。
『真幸駅』を発車すると、10分ほどで「いさぶろう・しんぺい」の終点『吉松駅』へ到着。熊本駅を出てから3時間ほど。体感すればあっという間の3時間。楽しい時間ほど早く過ぎてしまう旅の相対性理論がちょっと切ない。でも旅はまだまだこれから。ここ『吉松駅』からは「はやとの風」へと乗り換え、鹿児島中央駅を目指そう。

[特急いさぶろう・しんぺい]熊本~人吉~吉松 1日2往復(熊本~人吉は1日1往復、人吉~吉松間は普通列車として運行) / 毎日運行 / 大人片道3930円(乗車券2480円、特急券1450円) / 予約・問い合わせ 092‐482‐1489
【取材・文=前田健志(パンフィールド)/撮影=福島啓和】
前田健志
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