水上恒司「役が憑依したという人がいたら引いちゃうかも」自分じゃない人間を生きるための“緻密な計算”と役への向き合い方

東京ウォーカー(全国版)

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近年は映画『九龍ジェネリックロマンス』、『火喰鳥を、喰う』、『WIND BREAKER / ウィンドブレイカー』、今年は『TOKYO BURST-犯罪都市-』、Prime Originalドラマ『犯罪者』など幅広い作品で主演を務め、世間の注目を集めている水上恒司さん。

映画『本当にあった話(の話) 』で主演を務めた水上恒司さん撮影=三橋優美子


数十年前に起きた連続殺人事件をもとにした舞台劇の制作現場で主演俳優が暴走していく姿を描いた『本当にあった話(の話) 』では、主人公の夛田(ただ)を演じている。

インタビューでは、撮影秘話や舞台劇の主演俳優という役と向き合う中で感じたこと、さらにドラマ『シナントロープ』の撮影をとおして感じたことなどを語ってくれた。

カメラの前に立つのはいまだに慣れない「自然に演じるために、僕は緻密に計算するんです」

――本作への主演オファーを引き受ける際に、一番惹かれたポイントを教えていただけますか?

【水上恒司】一番惹かれたのは、“人間の愚かさ、滑稽さ”が描かれているところです。NHKの番組『LIFE!〜人生に捧げるコント〜』でご一緒した西川毅ディレクターが、「笑いを生むのには2種類ある。一つはズレ、もう一つは人間の愚かさを演じること」と教えてくださったのですが、本作はどちらの要素も含んでいると思うんです。

それで、ぜひ表現してみたいと、そんな風に思えたのが大きかったですね。“笑い”を生むのは本当に難しいのですが、“人間の愚かさや滑稽さ”を表現しつつ、ちょっとコメディ映画のような不思議なおもしろさを感じていただけたらいいなぁという思いで参加を決めました。

――「配偶者入れ替え連続殺人事件」を題材にした舞台作品で主演を射止め、少しずつ役と一体化していく夛田を演じるにあたり、どのような役作りをされましたか?

【水上恒司】僕は普段、人形師が“人形=自分の体”を動かすような感覚で芝居をしているのですが、それって誰しもが無意識でやっていることなんじゃないかなと思うんです。夛田も同じで、最初は“人形=自分の体”を動かして芝居をしていたけれど、いつの間にか人形師と人形が一体化していき、虚構と現実の境界を見失ってしまう。その変貌ぶりや、夛田の滑稽さを見ているうちに、お客さんが物語に引き込まれていったらいいなと、そう意識しながら役作りしていきました。

【写真】数十年前に起きた連続殺人事件をもとにした舞台劇の制作現場で暴走していく主演俳優・夛田(水上恒司)鴻池留衣/文藝春秋/2026「本当にあった話(の話) 」製作委員会


――これまで、夛田のように役と一体化していくという感覚になったことはありますか?

【水上恒司】撮影現場で、目の前にカメラがあるといまだに緊張しますし、その状況になかなか慣れない自分がいます。そんななかで、生々しくリアルに演じる、自然に演じるためには緻密に計算するしかない。たとえば、演じる役が怒りを露わにするシーンでは、相手のどんな言葉でイラっとするのかを考え、怒りの感情が生まれるためのきっかけやプロセスを構築してから現場に行くので、自然と役と一体化していくなんてことは起きないんです。

撮影=三橋優美子


――確かに、役と自分を切り離し、全体を俯瞰で見ることができなければ、計算してお芝居するのは難しそうです。

【水上恒司】いざ現場に行くと、全く想定していなかったシチュエーションになる場合もありますし、相手の芝居によってプランを変えなければいけないことも多々あって。だけど、緻密に計算して、あらゆる可能性を想定していれば対応できますし、自由に演じることもできる。そういう考えを持って作品に挑んでいるせいか、役と一体化する感覚は今のところ味わったことがないです。

――いつか役が憑依する瞬間がやってくるかもしれませんね。

【水上恒司】たとえば、大河ドラマやシリーズものの作品に出演することになった場合は、演じていくなかで何も考えずに役になりきっている瞬間がやってくるのかなと思うのですが、僕はまだそういう作品や役に出合えていないですし、自分じゃない人間を生きるためには、計算しないととてもじゃないけど太刀打ちできない、そう思っています。だからもしも「役が憑依した」という人がいたら、“胡散臭いなぁ”って引いちゃうかも(笑)。

撮影=三橋優美子


聞き手側を映す撮影手法「夛田が相手のしゃべるタイミングを操る芝居はすごく楽しかった」

――夛田が俳優仲間と食事をしている最中に、「グルテンフリーは陰謀論ですか?」と発言するシーンがありましたが、そういう部分に夛田の滑稽さを感じましたし、“夛田ってヤバい奴かも!?”と思い始めたのもこのシーンからでした。

【水上恒司】夛田の思い込みの強さが増していくにつれて、得体の知れないエネルギーが生まれ、結果的にヤバい言動をしてしまう。そういう夛田の変化を見せていくことで、観客には“あいつ、うぜぇな”とか“あいつ、ヤバいな”と思ってもらいたいという気持ちがありました。

周りの人間に対して、“こうに違いない”と思い込むことって、ある意味ラクなんです。本当の姿と向き合おうとしないとか、相手の変化を受け入れられないような思い込みの強さが、夛田の滑稽さに繋がっているので、そういう風に見えていたならうれしいです。

鴻池留衣/文藝春秋/2026「本当にあった話(の話) 」製作委員会


――特に印象に残っている撮影エピソードがあれば教えていただけますか?

【水上恒司】夛田が一人語りをするシーンがいくつかありますが、長台詞が苦手な僕が、スラスラとセリフが出てくるのが不思議でした。原作者の鴻池留衣さんの言葉の力や、武井佑吏監督が手がけた脚本のおかげでもあって、夛田の思考回路みたいなものがすんなりと理解できたのも大きかったです。

撮影=三橋優美子


――一人語りのシーンだけでなく、黒木華さん演じる俳優の米良や佐々木蔵之介さん演じる演出家の加藤、小池栄子さん演じる脚本家の垣内と夛田が一対一で会話をするシーンも見応えがありました。

【水上恒司】普通は、セリフをしゃべっている人物を映すのですが、本作では話を聞いている人物を映すことが多くて、僕はその演出方法がとてもしっくりきました。というのも、観客は話している人の表情がわからないぶん、話を聞いている人のリアクションを見て“こういう顔をしているのかな?”と想像することができ、解釈の余地が広がるからです。

今回、話を聞いている夛田が相手のしゃべるタイミングを操るというか、意図的に煽るみたいな、そういう掛け合いを黒木さんや佐々木さん、小池さんとできたので、すごく楽しかったです。

鴻池留衣/文藝春秋/2026「本当にあった話(の話) 」製作委員会


――脚本に対する解釈が違う夛田と垣内のやり取りもおもしろかったですが、実際にそういうことが起きた場合、水上さんはどうされていますか?

【水上恒司】あくまでも俳優としてオファーをしていただいているので、基本的に脚本家、または監督の解釈を尊重するべきだと思っています。だけど、もっとおもしろい解釈を思いつくこともあるかもしれない。その場合は、脚本や台本をいただいた時点で「こういう解釈をしたのですが」と事前に相談するべきなんじゃないかなと思います。

夛田(水上恒司)と脚本家の垣内(小池栄子)鴻池留衣/文藝春秋/2026「本当にあった話(の話) 」製作委員会


――舞台上で芝居をする夛田を演じたことで、舞台作品への出演意欲が高まったりしませんでしたか?

【水上恒司】もともと芝居を始めたのが高校演劇だったので、夛田を演じたからどうのということではなく、機会があれば舞台作品に出演したいと思っているんです。

昨年は、国民文化祭(国文祭)のステージで日本の写真の開拓者として幕末から明治時代にかけて活躍した上野彦馬さんを演じさせていただき、今年は『LIFE! ON STAGE 〜マーベラーに捧げるコント〜』でもステージの上でコントを披露したので、舞台のおもしろさをもっと知りたいと思っていたところで。幕が上がった瞬間から“俳優のもの”と言われる舞台に、今後も挑戦していきたいです。

鴻池留衣/文藝春秋/2026「本当にあった話(の話) 」製作委員会

撮影=三橋優美子


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