ウェス・アンダーソン監督×日本=新次元のストップモーション・アニメ!<連載/ウワサの映画 Vol.34>
東海ウォーカー
ウェス・アンダーソン監督最新作は、自身2作目となるストップモーション・アニメで、日本が舞台の「犬ヶ島」!「グランド・ブダペスト・ホテル」に続き、ベルリン国際映画祭の銀熊賞(監督賞)を2作品連続受賞となった話題作です。魅惑のウェス・ワールドを表現するには、もはや実写では限界なのか!?...という勢いの新感覚アニメには、彼の美学がギュウ詰め。ファンタジーな日本もクールだし、言葉が通じない主人公(母国語=日本語)と犬たち(同=英語)に芽生える友情も絶妙にリアル。さらに、毎度のごとく「カメオでも出たい」役者殺到で超豪華な顔ぶれとなったボイスキャストの中に、あのヨーコ・オノを投入しちゃうという異趣!... さすがのセンス。

舞台は20年後の日本。”ドッグ病”が大流行するメガ崎市では、人間への感染を恐れた小林市長が、「すべての犬を“犬ヶ島”に追放する」と宣言し、手始めに市長宅の護衛犬・スポッツを島送りに。ある時、愛犬で親友のスポッツを救うため、市長の養子で孤児である12歳の少年・アタリ(声:ランキン・こうゆう)が小型飛行機で島に到着。彼は、レックス(声:エドワード・ノートン)ら、島で出会った勇敢で心優しい5匹の犬たちを相棒とし、スポッツの探索を開始します。メガ崎市で深まる”親犬派”と”反犬派”の対立を背景に、未来が見える伝説の犬の予言に従い旅を続けるアタリと犬たち。そんな彼らを待ち受ける大人たちの陰謀とは…!?

「七人の侍」の音楽をはじめ、黒澤明感が充満してますね~。まぁ、外国人はクロサワ時代劇にハマりがちですが、そこで終わらないのがウェス。黒澤作品の中でも「酔いどれ天使」(’48)や「天国と地獄」(’63)あたりの社会派ドラマが描く、戦後の貧しい東京や、時代の闇と闘う主人公なんかを本作に投影してるんです。”犬の隔離”に潜む政治的企てを巡るストーリーは、現代社会と重なる深さも…。三船敏郎(=ヒーロー)をイメージしたのが、ちょっと人間性が複雑な”小林市長”っていうキャラな点も一興。

ウェス作品の一番のお楽しみは、なんといっても美術。4年をかけて作製された、240もの精巧な“日本”のセットに釘付けです。雲は綿毛で、川はコンベアベルトで表現するなど、波、雲、炎、毒ガス、涙までも物理的な素材でコツコツ作ったらしく…。CGなら簡単なのにねぇ...。でも、ウェスはコンピュータの中でモノを生み出すのが大嫌いなんですよねぇ。みすぼらしくも不屈の忠誠心が伝わる犬のパペット、半透明樹脂で血液感を出した人間のパペットも独特の存在感。全方位カバーの完璧なデザインだけが耐えうる真俯瞰のアングルや、シルエットの多用など、カメラワークもこのジャンルとしてはかなり新鮮です。しかし細部まで凝りすぎだよ…、情報量が多くて何度見れば全容を把握できるのやら…。

途方もない根気を要することで有名なストップモーション・アニメ。フレームごとに物体の細かく動かしてひとつづつ撮影するおなじみの苦労の中、ウェスは独自の撮影手法により、完全オリジナルなパペットの動きを開拓しています。若干ぎこちない印象ながら(手抜きじゃないよ! 狙ってるんだよ!)、緻密で味があって、もう病みつき。もっとも複雑だったという寿司の調理シーンでは、タコをさばく熟練の技術に加え、職人さんの「どや!」的な雰囲気まで再現してて笑えます。劇中のモニター内で使われる2Dアニメとの比較も楽しい!

何よりもクセになっちゃうのが、英語&日本語を話すというアタリ役のカナダ人俳優、ランキン・こうゆう君(当時8歳)の棒読みの日本語(笑)。このように、日本の歴史や文化を徹底的にリサーチしたうえで、近未来のアタリに高下駄を履かせたり、太鼓とへたうまクラリネットを競演させたり、俳句が微妙だったり…、と、計算ずくのハズしがいちいちおしゃれ。そんな高い作家性に見合うように既存の手法を高めることを惜しまず、表現の幅を広げていくウェス。犬やアタリの瞳からポロリとこぼれ頬を伝うピュアな涙が、彼のマジメな映画愛の結晶のようで…。私のウェス愛も深まるばかりなのです。【東海ウォーカー】

【映画ライター/おおまえ】年間200本以上の映画を鑑賞。ジャンル問わず鑑賞するが、駄作にはクソっ!っとポップコーンを投げつける、という辛口な部分も。そんなライターが、良いも悪いも、最新映画をレビューします! 最近のお気に入りは「レディ・バード」(6月1日公開)で初監督のグレタ・ガーウィグ!
おおまえ
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