モノも家族も”万引き”で調達!? 矛盾で胸が苦しい、いびつな”家族のカタチ”<連載/ウワサの映画 Vol.36>

東海ウォーカー

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日本勢としては21年ぶりの快挙! 是枝裕和監督の7本目となるカンヌ国際映画祭への出品作「万引き家族」が、見事、パルムドール(=最高賞ですよ~)を受賞しました。オハコである”家族”、それも特に”子供”が光る真骨頂的一本が高く評価された是枝監督。彼が突き付ける正論なんて虚しいばかりの”幸せの本質”が、世界共通のテーマとして響いたようですね。主人公(悲しきおバカさん!)のもとで犯罪によって結び付いたワケありな一家の顛末に、大いに悶々としましょう…!

いつ壊れるかわからない、犯罪でつながった家族。それぞれが心から求める”幸福の図”を貪欲に演じているみたいで…、ふつうの家族にはない”家族らしさ”がまぶしいです©2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.


舞台は東京の下町。高層マンションの谷間にポツンと取り残された今にも壊れそうな平屋に、あるビンボー家族が暮らしています。日雇い労働者の治(リリー・フランキー)とクリーニング店で働く妻の信代(安藤サクラ)、息子の祥太(城桧吏)、JK見学店で働く信代の妹・亜紀(松岡茉優)は、この家の持ち主である治の母・初枝(樹木希林)の年金に頼り、足りない生活費は万引きで賄っていました。ある日、近隣の団地の廊下で震えていた幼い少女・ゆり(佐々木みゆ)を見かねた治が家に連れ帰り、信代は、体中傷だらけの彼女を娘として育てることに。しかし、ある事件を機に、笑いが絶えなかった家族はバラバラになり、1人1人の秘密が明らかになっていくのでした…。

息子との連携プレーで万引きに励む治(リリー)によれば、「お店の商品はまだ誰のものでもない」。万引きなどを重ねることで強まっていく一家の絆が、社会では許されるわけもなく…©2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.


”犯罪×幸せそうな家族”というファンタジー感が、ドキュメンタリー出身の是枝監督が捉えるリアルさと相まって絶妙な味わい! 父や母になろうとする男女や少年の成長のドラマを通じて「家族って、絆って、何?」と問いかけてきます。根底に流れる社会への憤りは監督の出世作「誰も知らない」を彷彿とさせますが、今回はあのヒリヒリ調ではなく、終盤まではやけに楽しくてなんだかうらやましいほど。「このままでいいじゃん?」なんて思ったりして(いけないいけない)。つまはじき者が寄り添って社会に抵抗してるように見える一家が、劇中に登場する童話「スイミー」にも重なるんですよねぇ。

作品の流れにかかわる重要なアドリブもぶっこんだ希林さん。ひとクセあるこのおばあちゃん役、「ほかの女優ではダメだ!」と思わせる貫録です©2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.


「誰も知らない」に通じるもう一つの要因が、祥太役の城 桧吏(じょう かいり)くんの力強さ。チビっ子なのにイケメンで(笑)、柳楽優弥くんに似た繊細な雰囲気の持ち主です。いつも通り子役は台本ナシの口立てによる演出で、桧吏くんの無邪気さも困惑もありのまま。子供を撮らせたら是枝監督の右に出るものはいない、やっぱり! 新しく家族に加わったゆりを妹のように連れて歩き、彼女のシブすぎる大好物「麩」を万引きする祥太の優しさはどこに行き着くのか…!?

学校にも通っていない祥太(城 桧吏)。万引きのカモにしている雑貨屋のおやじさん(柄本 明)に「妹にはやらせるなよ」と諭され(バレてたのね、万引き)、彼の心に変化が…©2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.


そんな幼気な子供に万引きを仕込むヤツらを「この人でなしっ、許せねぇ!」と単純には断罪させてくれない、大人キャストのうまさもズルいわぁ。特に信代役の安藤サクラ! 親から受けた心身の古傷をゆりによって癒される信代は、終始淡々と開き直った風情。本心を吐露しない潔さが観ていてつらく、終盤にあふれ出す涙の意味を想像して、さらにつらい。ダメダメで情けない男役のリリー・フランキーも、ひょうひょうと我が道を行く母役の樹木希林も、常識を捨てた分だけ人間味が増したような愛嬌で引き付けます。3人の間に流れる空気感も味わい深く、このキャストの親和性の高さはなかなかにレアです。

冬から次の冬までの1年を捉える、抒情たっぷりの映像美が見もの。JKビジネスで働く女子役の松岡茉優ちゃんが、池松壮亮君が演じる”4番さん”と魅せる静かな1コマも幻想的でした©2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.


わかってますとも、情に流されてはいけないってことは。だけど「見放された子供はどうすれば!?」やらなんやら次元の違う問題と善と悪のごちゃまぜを、一般論で片付けるのも気が引ける。「孤独から逃れたい」という本能を、道徳や正義の元に抑制できるのか私には自信がないし。”真の絆=正しい絆”とは限らないこと、悪行がすべての善行を帳消しにすること…、いろんな矛盾が処理しきれないっ。「自分で選んだ方が絆は強い」(by信代)なんて勝手な言い分なのも承知だけど、血のつながりを絶対視するのもどこか不自然な気もしてきて…。一家が全員感じていた、法の外にある「あったかいなー」って気持ちはどこに持ってけばいいの?

「そして父になる」の父親役もそうでしたが、特に作り込むことなく役に同化しているリリーさん。 情けなさやダメな部分の演技が、すっかり名優の域!©2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.


ストーリーを詳しく語れないのが残念ですが…、それぞれの事情が複雑に絡み合う是枝脚本を堪能してください。クレイジーな一家の中で、ただ一人、自分よりも幼い者を巻き込むことで万引き生活に疑問を抱く翔太くんにご注目を。飾らずまっすぐに前を見つめる彼の視線こそが、混乱しっぱなしの私が見つけた唯一確かな希望でした(涙)【東海ウォーカー】

カンヌでは、2004年に出品した「彼も知らない」で柳楽優弥に最優秀男優賞をもたらし、「そして父になる」(’13)では審査員賞に輝いた是枝監督(中央)。ついに、パルムドールです!!©2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.


【映画ライター/おおまえ】年間200本以上の映画を鑑賞。ジャンル問わず鑑賞するが、駄作にはクソっ!っとポップコーンを投げつける、という辛口な部分も。そんなライターが、良いも悪いも、最新映画をレビューします!  最近のお気に入りは「オンリー・ザ・ブレイブ」(6月22日公開)のジョシュ・ブローリン!

おおまえ

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