パラ五輪・金メダリストの成田緑夢が「あの大けがはプラスだった」と語るワケ

東京ウォーカー(全国版)

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東京2020、目の前の一歩に全力を尽くす


平昌2018パラリンピック冬季競技大会のスノーボード種目で金、銅の二つのメダルを獲得した成田緑夢(ぐりむ)選手。金メダル獲得から程なく、同競技からの引退を発表し、周囲を驚かせた。引退発表の理由、来る2020年に向けての思い、そして、彼の夢について話を聞いた。

平昌冬季パラリンピックで金メダルを獲得した成田緑夢選手撮影=藤巻祐介(TAKIBI)


――緑夢さんがスノーボードを始めたきっかけは?

成田「家族の影響です。家族がやっていたので、気づいたらスポーツをやっていたという感じです」

――子どもの頃はどんな少年でしたか?

成田「普通の少年だったと思います。明るめの少年ですね。特にリーダーシップを発揮したりするタイプでもなく、至って普通の少年です(笑)」

――なるほど(笑)。そんな普通の少年がメダリストになったわけですが、あらためて、平昌五輪で金メダルを獲得したときの心境を教えてください。

成田「シンプルにうれしいです。その気持ちは今も変わらないですね」

――パラリンピックを目指し始めた頃の自分に言ってあげたい言葉はありますか?

成田「良い判断してるぞ、成田緑夢。と、全力で褒めてあげたいです(笑)」

――平昌五輪後に、パラスノボからの引退を発表。決意した理由を教えてください。

成田「東京2020、目の前の一歩に全力を尽くす。それが理由ですね。それから、あの引退の仕方は、僕の“プチ夢”でもあったんです。子供のころ、引退の仕方について考えていたことがありました。引退はアスリートにとって最終のピリオドなわけですよね。『どういうピリオドの打ち方がかっこいいかな』と子どもながらに考えていて、レジェンドと呼ばれる存在まで続けて引退するか、金メダルを獲得してそのまま引退するか、そのどっちかのパターンがアスリートとしての最高の終わり方だろうと思っていました。とはいえ、どちらも難しいから無理かな、と当時は思っていたんですけど、平昌で『来ちゃった!』と思って。バンクドスラロームの最後のランの前くらいから『やばい、やばい』と、『このまま金メダル獲ったら、どうしよう』みたいな感じでした。金メダルが決まって、最後のランで全員が滑り終わって、あの『いえーい!』と言っていたシーンありますよね。あのシーンくらいから『成田緑夢、引退や』みたいな感じで(笑)、僕の中ではそのとき引退を決めていました」

――二つの大きな終わり方のうち、より難しいほうを実現したんですね。一つの夢を形にしたわけですが、2020年の東京を別競技で目指す思いについて教えてください。

成田「僕がやることは変わらないです。常に目の前の一歩しか考えていないので、変わらないですね」

――今の緑夢さんにとって「目の前」とは?

成田「東京パラリンピックとオリンピックへの出場です。エントリーする競技についてはまだ検討中。自分にどの競技が向いているのか、いろんなことに挑戦して決めたいと考えています」

パラスノボからの引退について理由を語ってくれた成田緑夢選手撮影=藤巻祐介(TAKIBI)


伝えていくことを何より大切に考えています


――パラスポーツ、パラリンピックの魅力がより伝わっていくためにはどんなことが必要だと思いますか?

成田「認知度の高い、強い選手が生まれること、それが大切だと思います。スポーツといっても、やはり“人”ですし、圧倒的に有名な選手の“量”がまだ違うかなと。『パラスポーツで誰を知ってる?』と質問されたとき、『あまり知らない』という人が多いと思います。有名な選手が多ければ多いほど競技の認知度も高まりますし、当然、魅力も増える。その結果、競技について語り継がれるようになるんだと思います。より伝わっていくためには、選手、スター選手の存在が大きいですね」

――緑夢さんの"アスリートYouTuber"としての活動についても教えていただけますか。そもそも、きっかけは?

成田「『情報発信しよう』という思いがきっかけです。けがをしてスポーツができなくなるというところから、アスリートとして復活して金メダルを獲得できたという“事実”を共有するだけで、誰かの何かのターニングポイントになる可能性がある。僕はそう考えていますし、それが夢でもあります。そして、できる限りたくさんの人に情報を伝えるためには、コンテンツ、ツールがあったほうがわかりやすいと考えています」

――伝えることへのモチベーションが高いということですね。

成田「はい、伝えることが僕の夢です。競技だけでなく、伝えていくことを何より大切に考えています。2020年に日本でオリンピック・パラリンピックが開催されるのは、伝えるという意味でも大きいと思います」

【写真を見る】インタビューの合間に笑顔を見せる成田緑夢選手撮影=藤巻祐介(TAKIBI)


実現できたのは誓約書があるから


――少し話題を変えさせてください。ウォーカープラスはグルメ情報やおでかけ情報を扱うメディアでもありますが、緑夢さんの好きな食べ物を教えていただけますか?

成田「山芋です。海外に行って、表現はちょっと不適切かもしれませんが、海外の方には、この山芋の美味しさは、なかなかわからないだろうなと思いました。山芋って何もつけないじゃないですか。海外の方は、たぶん、ケチャップをつけたりしちゃんだろうなって(笑)。この味わいは日本人でないとわからない、“ザ・日本”の美味しさで好きですね。昔から好きだったんですけど、海外に行ってあらためて好きになった食べ物です」

――リフレッシュしたいときなどはどう過ごされていますか?お気に入りの場所や休日の過ごし方を教えてください。

成田「休日は寝るだけですね(笑)。身体を休めるためには、現段階ではそれが“着地点”です。家で動画を見ることもありますけど、それは脳をストップさせたい、という狙いがあります。“誓約書”のことばかり考えていると……なので(苦笑)、何も考えない時間を作ることも大切にしています」

――けがから復帰し、パラリンピックで金メダルを獲得するまでに至った要因としても“誓約書”の存在をあげていましたね。

成田「実現できたのは誓約書があるから、これに尽きます。僕は、自分自身と“誓約書”を交わすんです。期限は1カ月、○○○○を達成すると書き記します」

――ペナルティーは?

成田「『坊主頭にすること』です。僕は坊主頭が嫌なので、毎回、必死です(笑)。でも、この誓約書と向き合うこと、誓約書との戦いを通じて、自分自身の能力を最大限、最高速度で伸ばせていると考えています」

「あのけがにはプラスの要素しかなかった」と話す成田緑夢選手撮影=藤巻祐介(TAKIBI)


あのけがは僕にとって最大のターニングポイント


――パラスポーツが集客という観点で他のスポーツから得るヒントはありますか?

成田「これは僕の個人的な意見ですけど、エンタメ性というか、コンテンツとしてはまだまだ不足しているところがあると思います。もちろん、競技としては素晴らしいです。でも、それが“コンテンツ”として成り立つかというと、まだ成り立っていない競技もあると思います。サッカーや野球って、演出まで含めて、その空間がひとつのコンテンツとして完成していますよね。そうなっていない競技はまだまだ多くて、パラスポーツもそこまで確立されていないところがあると思います。『なぜ来ないの?』ではなくて、『楽しめるコンテンツが足りないよ』というのが前提にあるんじゃないかと考えています。楽しめるコンテンツがあれば人は来る。そういうコンテンツがあって、はじめてヒーローが生まれて、相乗効果になって……それがスポーツの理想形だと思います」

――理想に近づくためには何が必要だと思いますか?

成田「あくまで選手としての意見ですが、運営や設営など、空間を作るプロの側と互いに高め合っていくことが大切だと思います。スポーツはアスリートだけのものではなく、“場”をつくる人もそのスポーツの一部だと思うので、口で言うのは簡単かもしれませんが、答えはそこにあるんじゃないかなと考えています」

――最後に、今後の目標と抱負、アスリートとしての夢を教えてください。

成田「障害のある人、けがをして引退を迫られている人、一般の人に夢や感動、勇気や希望を与えられるような素敵なスポーツアスリートになること、それが僕の夢です。たどり着けないようなこと、だからこそ、僕はこの夢を掲げています。けがをして、自分で夢を持って、自分で考えて、そして誓約書で日々うなされて(苦笑)。あのけがにはプラスの要素しかなかったです。けがをしたというインパクトもそうですし、けがをしたからこそ、意見や考えを受け取ってもらいやすくなったように感じています。相手がよりオープンになってくれるというか、伝えたかったことがクリアに伝わるようになったと思います。あのけがは、僕にとってプラスの意味で最大のターニングポイントだったと考えています」

壮大な夢を抱く成田緑夢選手。東京での彼の活躍が楽しみだ。

浅野祐介/ウォーカープラス編集長

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