舞台「ニューレッスン」怪優・大倉孝二インタビュー 「何じゃこりゃ? という気持ちになる(笑)」
関西ウォーカー
WEB連載「はーこのSTAGEプラス」Vol.53をお届けします。
この人のおもしろさは半端ない。大倉孝二。

かつて映画「ピンポン」で、スキンヘッドのアクマ役で、その怪優的個性が知られるようになった。が、既に舞台ではナイロン100℃のナンセンスコメディもので、「なんだ? この人!?」と笑わせながら強烈な印象を残していた。その辺の芸人などふっ飛ばしてしまうほどの存在感。喜劇でも悲劇でも全方位OKの演技は、いまや多くの作品に引っ張りだこの実力派バイプレイヤーだ。そんな彼が、2014年に劇作家・演出家のブルー&スカイと演劇ユニット「ジョンソン&ジャクソン」を結成。初回「窓に映るエレジー」、16年には第2回公演「夜にて」を上演し、今回、いとうせいこうと池谷のぶえも迎えての第3回公演「ニューレッスン」で関西に初登場する。

過日、ナイロン100℃の「百年の秘密」で来阪した彼が取材会に臨んだ。“くだらないこと”を極めようとする作品を言葉で説明するのは難しい。シャイな彼が言葉を選びつつ応答、真摯に舞台に向かう姿勢がよく伝わった。
東京では「ニューレッスン」が開幕。関西で見る前に、予習のつもりで読んでほしい。でも、百聞は一見にしかず。そう、観なきゃわからん。絶対、観に行く!
【「ジョンソン&ジャクソン」結成のきっかけ】
僕が座長のKERAに企画を持ち込み、ナイロン100℃の番外公演として「持ち主、登場」という公演をやらせてもらったのが「ジョンソン&ジャクソン」結成のきっかけでした。
もともとナイロン100℃は、コメディ色が強く、しかもナンセンスコメディのカラーが強い劇団で、僕はそれが好きで入ったんです。でも、KERAの作風も年々変化して行くので、自分の中で何のために演劇をやりたかったかという原点に戻りたかったんですね。KERAが古田(新太)さんとやる企画にも出させてもらってるんですけど、たまにしかなくて。
場がないのなら自分で作りたいと思って、そういうナンセンスな作風で一番に思いついたのがブルー&スカイ。話すと彼も是非ともやりたいというので「持ち主、登場」の公演をして、その後2人で継続してるという形です。
【ブルー&スカイさんの魅力は?】
付き合いが長くて、最近は相棒として創作もしてるんで、いよいよ魅力なんてわかんなくなってきてるのもあるんですが(笑)。でも、やっぱり、見たことない人間ですね。書くこともどういうつもりで書いてんだか、一切わからないところがあるんですよ。人間的にもとてもつかみどころのない人間なんですが、それをまったく意図してないんですよね、本人が。いろんな実力やセンスを持った人がいますけど、でもやっぱり唯一無二なタイプの人間を選んだんですね。

【ユニット名と公演タイトル】
「ジョンソン&ジャクソン」は、単に意味のないものを付けたかったから(笑)。「ニューレッスン」は、僕とブルー&スカイで話すうちに、たまたま2人が興味を持ったものに、恩師と生徒、師匠と弟子のような関係性の要素があって。で、タイトルを決める時に、ブルー&スカイが「レッスンがいい」って。でも「レッスンだけじゃつまんないから、何かつけたい」「じゃあニューは?」「それが一番いい」って「ニューレッスン」に。
僕たちが、池谷さんやせいこうさんに学びたいという意味合いも込めてます。あと、無駄で不毛なものを自分たちでもう一度学び直すという意味合いが「ニューレッスン」の響きに合ったから。タイトルはいつも、自分たちの今のやりたいことがちょっと出ちゃうものだと思ってます。ニューの部分にはほとんど意味はないんですけどね(笑)。
【ユニットを結成して今】
自分が無責任に暴れられた状況とは全然違います。役者って芝居だけしかできないんだなって、今、すごく思ってます。全部作りながらやらなきゃいけないので、回を重ねてもまだ全然楽しめないんですけど(苦笑)。でも、こういうようなことやりたがるのは今の演劇の流れの中にはないようなので、僕とブルー&スカイが「もういいね」っていうところまで、なるべく続けて行けたらとは思いつつやってます。
【過去2作の公演について】
僕らなりにストーリーを持ったものをやってみたんですけど、思いのほかみんな「ストーリーいらない」って言うんですよ(笑)。あ、いらないんだ、あんなに一生懸命作ったのにと思って(笑)。僕らに求められてるものはストーリーではなく、演劇じゃなくてもいいのか、じゃあ、もう少し自由になってみようと。
ストーリーよりも、断片的な関係性とかアイデアを元にしたやりとりのおもしろさを強調して作りたい。お互いのどうでもいいようなこだわりから生まれるおかし味とか、そういうことをたくさん捕まえようと。やりたいことが、今回はこれまでと違うかもしれないと思います。

【今回の設定は?】
ほぼ、ない、です。チラシに書いた、バイクの話とかも、全く関係ないです(笑)。というのは、役柄を設定すると、そこに縛られて、なかなか抜け出せなくなってしまうんで。もう役割とかをガンガン変えて行けるようにやりたいなと思っているんです。
まずひとつのアイデアや設定があり、そこでのやりとりから生まれたストーリーを、また増幅させていくという形で。不毛なやりとりだけでどれだけおかし味を産めるかという実験をしたいなと。毎日変化するものがあって、そっちの方がおもしろければそうしてもいいんじゃないかと思ってます。

【どんな作り方を?】
やりとりや笑いのセンスの根幹は、ブルー&スカイが握ってると思ってます。その周りの肉付きの状況を作るのが僕の役目で。それは、僕が意図的に作ってみたいということではなくて、1人じゃ辛いって、ブルー&スカイが言うから(笑)。
で、まず僕とブルー&スカイがたたき台を作って、それにこだわらないで演じてみて、よりそっちの方がどうしようもないねっていう選択をどんどん取っていって(笑)。最終的にはブルー&スカイB&Sがそれを全部調整していくという形です。そんな形も珍しいんじゃないっていう意見もあって、今回もそのままやり続けてます。

【音楽も重要視して作る?】
「持ち主、登場」の時から、舞台上で楽器持ったりしてます。ま、出来る人は1人もいないんですけど(笑)、今回も楽器演奏をやるつもりです。わざわざのびのびできないことをしたりする、そこにおもしろさを感じてたりするんですよね。すごいだろって見せるわけではなくて、なんでやってんだって、ある種の自嘲的な部分もあるんですけど、はい。ただ、音楽のスタッフ(The Dubless)はすごく優秀で、とてもいい楽曲を作ってくれるんですけど、それを無駄にするのはいつも繰り返されることです。

【いとうせいこうさんと池谷のぶえさんのこと】
今回、いとうせいこうさんと池谷のぶえさんに頼んだのは、お2人に参加していただいて、どうやったらさらに不毛な笑いを作れるかという作業をやってみたいという意志が僕もブルー&スカイも強かったので。
いとうせいこうさんは、いろんな側面をお持ちの方で、「ラジカルガジベリビンバシステム」や「シティボーイズ」という不条理やナンセンスなものの先達として、とても憧れの人でした。ナイロン100℃の公演でせいこうさんの戯曲「絶望孤児のためのコント」と「ゴドーは待たれながら」をやらせてもらった関係があったので、今回思い切って頼んだんです。そしたら、なぜだかさっぱりわからないんですが、せいこうさんは随分若い頃からずっとブルー&スカイを好いてくれていたそうで「ずっと出たかったって、言ってたじゃん」という、まさかの返答があり。こんな奇跡があるんだなって思いました。でも、せいこうさんは「僕は役者じゃないから、セリフを少なくしろ」って言ってましたけど(笑)。
池谷さんは、日本のコメディエンヌの中でも相当な剛腕で、1人で場を持って行く。で、誰か女性入れたいねって言ってた時に、ブルー&スカイと2人で即座に名前を上げたのが池谷さん。第1回公演にも出てもらってたし、もともとブルー&スカイと劇団を一緒にやってた盟友だったから。いろんな実験ができるいい機会なので、まだ見たこともない池谷さんを自分たちも見てみたい、いろいろやってもらえたらおもしろいなと考えてます。

【初めての大阪公演】
すごく厳しいだろうなというイメージはあるんですけれど、前々からやれるものならやってみたいという気持ちはあったんです。ツイッターで関西方面の人から「どうしてこっちでやってくれないのか」って言われてたし。
別に関西だからと言って、みんな不条理が嫌いなわけじゃないとはずっと思ってました。
今回2人で話して、メインに据えたいのは、人のいろんな感情とか機微を間違ってはいないと思ってお互いに投げかけているのに、それがどうにも間違って行くっていうようなこと。やりとりはしてるけどうまくいかない、というようなことをやりたいなぁと思っています。決してポカンとさせたいとかいう意図はなく、楽しんでいただきたいです、とても。
【どんな雰囲気に?】
「なんじゃそりゃ」っていう気持ちにはなると思いますね(笑)。そして、ほんとに何もないです、観たあとに(笑)。でも、僕と池谷さんとブルー&スカイは、それこそが感動するっていう共通のセンスを持っていて。もちろんそれに感動しない人の方が多数だと思ってるんですけど、僕らがわざわざやってるのは、それが好きで、「何もねぇな、これ」っていうのが一番感動できるという思いがあって。演劇にメッセージとかももちろん大事なことだと思うんですけど、その真逆もあっちゃダメですか? って思ってるんですよね。
見た挙句「なんなんだ、おまえら」っていう気持ちにさせたいというのはいつもあります。
ふざけてる様子を見てもらうのではなくて、やってること全体を観終った時に「ふざけたヤツらだな」って思ってもらえるようなものを目指してますね。だからむしろ、オチャラケた演技はしないです。いつもとても真剣に、みんな演じてて、それが結果「バカみたい」ってなることがすごくやりたいことなんですよ。
演劇ライター・はーこ
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