新時代の到来、驚異の19歳フランスのムバッペが指し示す未来のサッカー
東京ウォーカー(全国版)
サッカーのロシア・ワールドカップ(W杯)の決勝トーナメント1回戦が、6月30日(土)に行われた。フランス代表とアルゼンチン代表の一戦は、フランス代表が4-3と打ち合いを制してベスト8進出を決めている。

19時でも透き通った青空が広がるカザンの空に、タイムアップを告げるホイッスルが響き渡った。
アルゼンチンのリオネル・メッシが、迷子のようにピッチを漂っている。
「代表で優勝できるなら、バルセロナでのタイトルと引き換えでもいい」
クラブでは数々の栄光に彩られながらも、代表でのキャリアはタイトルと無縁のまま終わりかけている。31歳で臨んだ今大会も「最後のチャンス」と意気込みながらも、ベスト16で敗れた。
虚ろな目をして行き場を失ったかのように彷徨うメッシに、フランスのベンチから歩み寄って握手を求める選手が1人。試合のMVPである「マン・オブ・ザ・マッチ」に選ばれた、キリアン・ムバッペだった。
ただの世代交代どころではない。サッカーそのものに、新たな時代の到来を感じさせるプレーぶりだった。
先制ゴールにつながるPKを奪った、11分の70メートルにも及ぶ独走が象徴的だ。
メッシの失ったボールを自陣深くで拾うと、一気にスピードを上げるムバッペ。あまりの急加速に追いつくことのできない相手が、ペナルティエリア内に侵入を許したところで腕を体に絡みつけ、ようやく食い止められたほどの突進である。
3人のDFを次々と置き去りにして、ピッチのド真ん中を縦に駆け上がるそのドリブルは、長い長いW杯の歴史でも屈指の名シーンとして記憶されるだろう。その衝撃は、試合後の会見でブラジル人記者から怪物ロナウドになぞらえる質問が出たほどだ。
19歳でフランスの背番号10を背負うムバッペは、PK獲得のほかにも2ゴールを記録。決勝トーナメントにおける10代の複数ゴールは、ブラジルの王様ペレ以来の快挙となる。
「ペレの次になるなんて、凄いことだよね」
無邪気な笑顔を見せて喜ぶ姿に19歳らしさが垣間見えるが、プレー自体はペレの代名詞でもある背番号10の系譜とは少々趣が異なる。
現代最高の選手であるメッシや、フランスの先輩であるミシェル・プラティニやジネディーヌ・ジダンら、背番号10をつけてきた選手たちの多くは、卓越したボールを扱う技術で世界を魅了することで“天才”と呼ばれてきた。
ところが、ムバッペにはその言葉がどこか似合わないように感じる。
もちろん、備えているのは天賦の才に違いはない。ただ、天から与えられしその才能は、これまで“天才”と呼ばれてきた選手たちが特徴としてきた技術面よりも、その圧倒的な身体能力が見るものの脳裏に、強烈な印象を刻んでいるのではないか。
ムバッペは100メートル走のスプリンターを彷彿とさせ、190センチを超える長身と長い手足、大きなストライドでピッチを疾走するフランスのポール・ポグバは、陸上のウサイン・ボルトがサッカー選手であったら、という想像すら掻き立てる。
もちろん、彼らはフィジカルだけに頼った選手ではない。ボールを保持しながらも身体能力をいかんなく発揮できるほど、高次元のテクニックも併せ持っている。
その実力は、すでに欧州チャンピオンズリーグで証明済み。とはいえ、世界中の注目を集めるW杯である。彼らの活躍によって、昨今のサッカー選手のアスリート化の流れは世界の潮流として決定付けられ、今後は加速度的に進むことになることが予想される。
「彼はまだ19歳。彼がこの先、もっと成長してくれたら嬉しいよ」と、フランスのディディエ・デシャン監督は喜ぶが、指揮官デシャンが主将デシャンとしてW杯のトロフィーを掲げたシーンすらも、1998年の12月に生まれたムバッペにとっては歴史の出来事だ。
“天才”よりも“超人”。ボールを扱う技術だけでは、勝負にならない――。
「W杯はトップレベルの選手が集まる場所で、自分に何ができるかを示すチャンスなんだ。そんな場所は他にはない」
底知れぬ可能性を秘める、新時代の旗手が示したプレー。それは、W杯の未来すらも暗示しているかのようでもあった。
小谷紘友
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