孤高のジェレミー・レナーがシブいっ。久々に”見応えアリ!”の硬派ミステリー<連載/ウワサの映画 Vol.43>
東海ウォーカー
実在するネイティブアメリカンの保留地を題材にしたミステリー「ウインド・リバー」。タイトル名にもなっている”その地”に根を張る人種差別や法制度を巡る負の連鎖が、謎多き殺人事件のスリルを増幅させると同時に、置き去りにされ続けるアメリカの闇を告発していきます。苦しみが染み付いた土地そのものが主役と言える練られたストーリーと、同じハンター役なのに「アベンジャーズ」のホークアイとは演技の重みが対照的な(笑)ジェレミー・レナーが素晴らしかった!

舞台は、アメリカ中西部・ワイオミング州にあるネイティブアメリカンの保留地”ウインド・リバー”。深い雪に閉ざされた山岳地帯で、合衆国魚類野生動物局のハンターであるコリー(ジェレミー・レナー)が、血を吐いた状態で凍りついたネイティブアメリカンの少女の死体を発見します。FBIから派遣された新米女性捜査官ジェーン(エリザベス・オルセン)は、この地に精通するコリーに捜査協力を求めることに。現場から5km圏内には民家もなく、薄着で裸足だった少女…。肺が凍って破裂するほどの冷気を吸い込みながら、なぜ彼女は約マイナス30度の夜の雪原を走って息絶えたのか!? 難航する捜査は、やがて衝撃的な真実へと辿り着きます…。

アメリカ・メキシコ国境における麻薬戦争の実態に迫った「ボーダーライン」、テキサスの”銀行強盗兄弟”を軸にアメリカンドリームの歪んだ末路を捉えた「最後の追跡」。この2本に続く、人気脚本家テイラー・シェリダンによる”フロンティア3部作”の最終章となる本作。入植がもたらした西部開拓地域の現状を見つめるシリーズの最後のテーマは、ネイティブアメリカンが強いられている過酷な日常です。”ウインド・リバー”で多発する女性の失踪事件や性犯罪被害の実情を知り、先住民への敬意が詰まった脚本を他の監督には任せられなかったシェリダン。保留地育ちの役者らも起用した骨太ドラマを自身の手で仕上げ、堂々の監督デビューを果しました。

「失踪者の統計にネイティブアメリカンの女性のデータは存在しない」というテロップがラストで流れるんですけど…。保留地は統計の対象にもならない、完全なる”無法地帯”ってことなんですね。人間が住むには適さない荒地での生活を蝕むのは、貧困やドラッグの蔓延や法律にまで入り込んだ差別、そして圧倒的に厳しい自然による支配…。最後の最後には自然界のルールに委ねられる”犯人の裁き”が象徴的です。

作り込まれたトリックも存在しないことが、殺人が半ば衝動的に繰り返されている事実を暗示。広大ながら隔離された”密室”の雰囲気を醸す土地での捜査には、独特の緊迫感が充満します。約10名が銃を構える突然の膠着状態→真相が明かされる回想シーン→激しい銃撃アクション勃発、という怒涛のクライマックスの演出も圧巻! 空撮を多用した果てしない銀世界と、そこで生き抜く野生生物と笑顔の消えた住民…。そんな不穏な空気感が貫く映像世界と音楽、リアルな暴力描写は、まさに”ネオ・ウェスタン”の神髄だー!

娘を失った親友にかける「とことん悲しめ」といった含蓄ある言葉、繊細ゆえの激しさ…。心に傷を抱えた無骨な男に扮したジェレミーがねぇ、ハの字眉毛が哀愁たっぷりでシブいのよー。アカデミー主演男優賞候補になった「ハート・ロッカー」以来の名演です。…ホークアイはもういいからさぁ、この手の演技をもっと見たいのよねぇ(ついでにアイアンマンのロバート・ダウニー・Jrもね…、いい加減に本気出せ!)。そして、期待してなかったエリザベス・オルセンちゃんも良かった。”新人”役が演技力相応で(失礼)。

「都会と違ってウインド・リバーに”運”はない。不運なシカではなく弱いシカがオオカミに襲われる」などなど、厳しくも核心をつくセリフの数々が胸に響きました。逆さまに掲げられた星条旗が物語る”不条理な地”のどん底から、生きるための”意志”と”強さ”の意味を探り出し前を向く主人公たち。ラストでひとときほころぶジェレミーの表情に仕込まれた”希望”が、ミステリーとは思えない感動の後味です。やっぱり、傑作!【東海ウォーカ―】

【映画ライター/おおまえ】年間200本以上の映画を鑑賞。ジャンル問わず鑑賞するが、駄作にはクソっ!っとポップコーンを投げつける、という辛口な部分も。そんなライターが、良いも悪いも、最新映画をレビューします! 最近のお気に入りは「オーシャンズ8」(8月10日公開)のサンドラ・ブロック!
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