『未来のミライ』星野源インタビュー「アニメの快感がめちゃくちゃ詰まっている」
東京ウォーカー(全国版)
劇場アニメ『夜は短し歩けよ乙女』(2017)ではヒロインに翻弄される先輩を熱演した星野源。本作『未来のミライ』では監督・細田守の日常がオーバーラップするといわれるおとうさん役を好演。演じることでより深く見えてきた細田作品の魅力とは?
おとうさんの在り方は細田監督の普段の立ち位置

―今回の台本を読まれて、どのような作品だと思いましたか?
星野:ひと言では難しいんですが…観た人がどこかに自分の居場所だったり、自分という人が育ってきた環境を思い返したり、何か自分の感動できる場所を見付けられるような、ものすごく裾野の広い作品だと思います。
同時に、細田守さんという人間の個人的な部分、ものすごくパーソナルな世界をじっくり描いているというか。大衆的でありながら、ものすごく尖っている感じがするんです。「このバランスで作られた作品は観たことがない」といった感覚になりました。
ミライちゃんとくんちゃんがとにかくかわいいというのと同時に、後半の展開が普通にすごく怖い部分もあって。本当に両極端な、その振り幅を細田監督の半径1メートルくらいのところで表現しているのがすごいなと思いました。
―おとうさん役を演じることに対して、感じたことは何かありましたか?
星野:初めての役柄なので、ワクワクした気持ちのほうが強かったですね。映像を観させていただいて、とにかく子供たちがかわいくてかわいくて、自然とおとうさんの気持ちになっていたと言いますか。おとうさん役だから、と何かを意識したということはなかったです。
ただ、おとうさんの在り方、あれは細田監督の普段の立ち位置そのものなんですよね。だからおとうさんの立場についての説明を受ける時も妙にリアルで。「このくらい居場所がない」とか「ここはものすごく気をつかっている」とか(笑)。おかあさんがちょっと疲れて機嫌が悪い時の心持ちなどのお話もしてもらって(笑)。それを話している監督の横顔を見ながら、そこから「なるほど」と想像していくような感じでした。
―本作のおとうさんは、子供に対する意識が変化していく人という印象でした。彼の意識が変わったきっかけはどこにあると思いますか?
星野:くんちゃんが生まれたばかりのころ、仕事に没頭していてあまり育児をしていなかったという過去があるのですが、それに対する後悔の気持ちがあるんですね。くんちゃんへの思いも、おかあさんへの思いも抱えている状態で、ミライちゃんが生まれたから今回は何とかしよう、というところから物語が始まっていると思うんです。
何とかしたいと思ってはいるけど、やり方がわからない。その中でおかあさんに「あなたっていつもそうだよね」とずばっと言われてから、少しずつくんちゃんとミライちゃんとの3人だけの時間を経て変化していくので、きっかけはそこですかね。
―おかあさんとの掛け合いで特に気を使ったことはありますか?
星野:おかあさん役の麻生久美子さんと細田監督のご家庭でのエピソードというか、ヒントみたいなものが本作に盛り込まれているらしいんです。おかあさんの機嫌が悪い時のシーンで麻生さんに「こういう感じですか?」と聞いたら「このまんまです」みたいなことがあって(笑)。その場で自然に理解できました。
それと、僕が今まで出演させていただいたアニメというのは、ほとんどひとりか2人だけでアフレコしていたんです。今回はほぼ全員が同時に録るという、細田さんのいつものやり方だったので、横に誰かがいる状態のままでしゃべれるというのがすごく楽しくて。かつ、キャラクターのモデルみたいな人がその輪の中にいるので、もちろん画面に向かってお芝居をしているんですけど、実写的な感覚でアフレコに挑めました。
―星野さんが声をあてる時に気を付けている点と、今回の役に対して気を付けたところを教えていただけますか?
星野:なるべく感情や表情を自分の中で作って、声からいろいろなことを感応してもらえるようなお芝居ができたらいいなと思いながらやっています。収録の時に「星野さんはすごく慣れているから」みたいなことを監督にも言われたんですが、「いやいや、やめてください」と言いながら(笑)。
役について思ったことだと、最初に台本を読んだ時には、悩んだり壁にぶつかったりしながら一生懸命頑張っているおとうさんというイメージだったんです。後日、絵でおとうさんの顔を見て、「あれ?イメージよりすごくかっこいい」と思いました(笑)。
でもおとうさんというのはバランサーと言いますか、家族の中で何かどんよりしたことが起きたら、おちゃらけて頑張るような人なんですというのを監督から聞いて、やっぱり想像どおりの人なんだなというところに落ち着いたんです。収録現場を見学しに来た人に「いい意味ですごく頑張っているおとうさんという感じですね」と言っていただいて、それはすごくよかったと思っています。
すごく素直に演じられたおかあさんにたしなめられる場面

―細田監督は細部にわたってこだわりをみせる方です。同じクリエイターとして、細田監督のこだわりに共感できる部分はありますか?
星野:もちろんです。どこまでもこだわられている方なんだろうなと、作品を観て思っていました。僕が今まで参加したアニメ作品では、基本的に演技のことは音響監督さんと話すことが多くて。それで、たまに監督も何かをおっしゃるという感じで。
でも『未来のミライ』では、細田監督自身が毎回アフレコブースに入って来られて「えーと、これはですね」とニコニコしながら話してくださるのがすごく新鮮でしたね。ものすごく優しい方だなと思うのと同時に、これもこだわりのひとつなんだろうなと感じました。そのおかげで収録がすごくスムーズだったんですね。自分は音楽を作る時にディレクターもしているので、音に関する作業ということもあって、すごくシンパシーを感じました。
―細田監督とのやりとりの中で、特に印象に残っていることは何ですか?
星野:おとうさんが鼻歌を歌うシーンで、鼻歌は「何でもいいですよ」と言ってもらったのがおもしろかったです。じゃあと言って適当に歌ったんですよ。「うどん~」とか言いながら…(笑)。こだわりと同時にそういう遊び心がある方だなぁと感じました。
―星野さんがくんちゃん、ミライちゃんを「かわいい!」と感じたシーンを教えてください。
星野:赤ちゃんのミライちゃんがバナナを食べるシーンがあるんですが、あれはヤバいですね(笑)。「アニメってすごいな」と思いました。あれを人間が描いたと考えるとすごいですよ。観ていて「かわいい~~~」って目じりが下がってきてしまうというか(笑)。
よく感動系の映画のCMで、お客さんが暗がりの中で泣いているシーンが流れるじゃないですか。あれをこのシーンでやれば、お客さん全員の目じりが下がってる異様な光景が撮れると思います(笑)。まるで本当に生きているような、命が吹き込まれている感じも含めて、あのシーンはすごいと思いました。実写だと赤ちゃんの撮影は本当に大変なんです。
くんちゃんだと、階段を降りるシーンですね。段差が大きいからすぐに降りられないじゃないですか。「おかあさ~ん」と言いながら、ゆっくり降りる。その動きに僕はやられてしまいましたね。この動きひとつとっても「どれだけこだわっているんだろう?」と。赤ちゃんの動きもそうですが、どれだけ観察して調べているのかと…。(絵を)描かれている方全員に子供がいるわけではないでしょうし。
例えばアニメを観る時に、ストーリーに感動したり、背景がすごく綺麗だったりいろいろ思うところはありますよね。でも“動き”って、あまりに普通のことなので何となく当たり前のように観ちゃうんです。だからあらためて意識して観ると「この動きすげぇ」みたいな、そういうアニメの快感がめちゃくちゃ詰まっている映画だと思っています。
僕は幸運なことに、声がまだ入っていない絵だけが動いている、音もちょっとしか入っていない映像を観ることができて。そういうこともあって、より絵というものを意識して見ることができたかなと思いました。「楽しい」とか「綺麗」とか「かわいい」といった感情を奮い立たせる本当に細かい仕事がいっぱいで、おもしろい部分がいっぱい詰まった映画になっています。
―では、印象に残っているおとうさんのシーンはどの場面になりますか?
星野:怒られるシーンといいますか、おかあさんにたしなめられるところ。恋人や奥さんに怒られて「すいません…」っていう感じが体験したことあるように思えて(笑)。すごく素直に演じることができて、印象に残っていますね。
―くんちゃんは過去のいろんな人と会いますが、星野さんが過去に行けるとしたらどうしますか?
星野:小学生のころにハワイへ行ったものの、全くコミュニケーションが取れない子供だったので、1ミリも楽しくなかったんです。外国人の子供が話しかけたりしてくれたりするんですけど、心のシャッターを一瞬で閉じるみたいな(笑)。
唯一、両親が寝静まったあとにホテルのペイチャンネルを観るのが楽しみ…というスケベな子供だったんです(笑)。こっそり観ていたものの、途中から課金になるのを知らなかったので、翌日チェックアウトを済ませた親にバレて爆笑されるという辛い思い出があって(笑)。あのころに戻ってハワイを楽しみたいし、ペイチャンネルを観ない世界に行きたいですね(笑)。【取材・文:リワークス/撮影:渡邊明音】

ウォーカープラス編集部
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