欲望が覚醒させる少女の”力”。第2の”鬼才トリアー”が放つ新感覚北欧ホラー!<連載/ウワサの映画 Vol.55>
東海ウォーカー
あのラース・フォン・トリアー監督の甥っ子で、過去3作品ですでに鬼才ぶりを発揮しまくってるヨアキム・トリアー監督。近年挑発が止まらないラースの遺伝子臭がプ~ンと漂う最新作「テルマ」では、青春ドラマ、ラブストーリー、スーパーナチュラル要素を融合させ、最後まで謎だらけの闇に引きずり込みます。ノルウェーならではの透明感に満ちたスタイリッシュな映像と、その中で覚醒した少女が放つイノセントな恐怖が、”ホラー”と呼ぶには美しすぎた…!

主人公は、人里離れた田舎町で信仰心が深く抑圧的な両親のもとで育ち、オスロの大学に通うために一人暮らしを始めたテルマ(エイリ・ハーボー)。新鮮な毎日を過ごしていたある日、真っ黒な鳥の群れが飛び立つと、原因不明の激しい発作がテルマを襲います。彼女は、その時に助けてくれた自由奔放な同級生の少女・アンニャ(カヤ・ウィルキンス)に惹かれていきますが、厳しい戒律により欲望と罪悪感の間で苦悩することに。その後も発作と不気味な自然現象が起こり、検査入院した病院で、幼少期や祖母に関する事実を初めて知るテルマ。消えた記憶と家族の秘密に混乱する中、アンニャが突然、姿を消してしまい…。発作とアンニャの失踪の関係は? そして両親が隠し続けてきた、テルマが秘めた”恐ろしい力”とは…?


家族の再生を描いた前作「母の残像」など、ラース叔父さんの「ダンサー・イン・ザ・ダーク」を彷彿とさせる繊細なヒューマン・ドラマを監督してきたヨアキム。今回は、感情が強調されるホラーの形式を利用し、得意のドラマをより濃密に進化させています。抑圧された少女が初恋や青春を経験し、大人になる過程で本人さえ知らない“本当の自分”に目覚める…。これは「キャリー」などにも通じる設定ですが、オカルトよりも心理描写に重点を置いているのがヨアキム流。少女の“強い願い”が招き寄せる戦慄の事件とその後を、宗教、親子関係、復讐などのテーマを絡めて重層的に語っていきます。緊迫感をはらんだ静けさによって、過去作同様に横たわる”孤独”も際立ってる~。

敬虔な信仰心と初めて抱く欲求の板挟みになりながら、自身の中に眠る“恐ろしい力”と向き合うテルマ。そんな制御不能な青春の暗転を演じ切ったエイリちゃんの危うい存在感が素晴らしい。抑え込もうとするほどに激しさを増すテルマのけいれんや鼓動に呼応して、こっちまで感情が高ぶっちゃう。ピュアでほんの少しエロい、美少女2人の親密なロマンスのていねいな描写にもキュンキュンです!

ヨアキム作品といえば印象的な映像も見ものですが、本作では、破壊のシーンに至るまでその美しさが圧倒的。拠点とするノルウェー(生まれはデンマーク)の静謐な自然美を最大限に活かした、まさに北欧ホラーの新領域です。例えば、凍った湖。一面の氷の下に息づく”極寒×畏怖”の異様な気配は、類を見ない底冷え感…。雪景色や曇天といった景観も重要なキャラクターになってるんです。

ヒッチコックを想起させる黒い鳥の群れ。そんな黒い鳥をテルマが吐き出したり、ヘビが口から体内に入り込んだりというメタファーの数々。そして錯乱を誘うフラッシュライト…。うーん、一つ一つの仕掛けのインパクトが鮮烈でしたねぇ。加えて、テルマの力の正体が明かされると同時に押し寄せてきた、彼女の初恋への切ない思いがいまだに重い(笑)。 解釈に幅を持たせたラストの余韻も秀逸な、ヨアキムの神秘的世界観にヤラれた!【東海ウォーカー】
【映画ライター/おおまえ】年間200本以上の映画を鑑賞。ジャンル問わず鑑賞するが、駄作にはクソっ!っとポップコーンを投げつける、という辛口な部分も。そんなライターが、良いも悪いも、最新映画をレビューします! 最近のお気に入りは「search サーチ」(10月26日公開)のジョン・チョー!
おおまえ
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