“大人”になった槙野智章が語る日本サッカーへの想い
東京ウォーカー(全国版)
日本代表は、森保一監督の初陣をコスタリカ相手に3-0の勝利で飾った。試合終了間際に青山敏弘からキャプテンマークを受け渡された槙野智章が、これまでのサッカーキャリアとこれからについて、また、自身の服のこだわりについてなど語った。

代表でキャプテンマークを巻けるなんて思ってもなかった
――ロシア・ワールドカップはどんな大会でしたか。
槙野「ワールドカップに対して8年越しの思いがありました。思い返せば2010年、2014年と落選した中で迎えた大会だったので、とにかくこの大会に向けて4年間はほぼ休みの日も練習が終わってからも常にサッカーのことを考えていました。
自分が試合に出ようが出まいがとにかくサッカーにすべてを注いだ大会でした。皆さんの期待をいい意味で裏切るような結果が出たのは良かったなと思います。この結果を受けてこれからもっと日本サッカーが盛り上がっていけばいいかなと思っています」
――レギュラーでの出場が期待されていた中で、先発はグループリーグ第3戦のポーランド戦だけになりました。
槙野「本音を言えば、大会直前で自分が出られなくなるとは思っていませんでした。監督交代があったりと、いろんな状況が重なったというのはありますが……。僕は2010年のときにトレーニングパートナーとしての5枠に選ばれたんですが、そのときは辞退しました。あとで現地に行った5人から大会中どんな状況だったか聞いたんです。彼らは試合に出られていない人たちの行動で結果って変わってくるよねという話をしてくれました。
8年前にその話を聞いていたから、今回自分がやらなきゃいけないことは、こういうことなんだなと思って、若い選手たちや出場できていない選手たちを一緒に盛り上げようと。本田(圭佑)選手を中心に、結束が強まった中で自分も盛り上げました。昔の僕だったらこういうことはできなかったと思います」
――そして森保監督体制になって初戦迎えました。途中からキャプテンマークを巻くことになりました。
槙野「クラブでもなかなか巻くことがないので、まさか代表チームでキャプテンマークを巻いてプレーできるなんて思ってもなかったですね。A代表の試合でキャプテンマークを巻ける選手なんて本当にごくわずかの選手ですから、たかが5分間かもしれないですが、責任と覚悟は増しました。
自分の立ち位置と年齢を考えると、今回若い選手が中心だったので、ラストのゲームの締め方とか、今後の戦い方とか、そういったことを考えれば、すごく自分の中で濃い5分間だったと思います」
――若い選手が多い中で、槙野選手は今回のメンバーの中では重鎮という堂々たる雰囲気を放っていました。リーダーシップがすごく出ていました。
槙野「本当ですか?自分では全く意識していなかったです。ただ、今回のメンバーを見たときに初対面の選手や話したことのない選手が多いなと思いました。プレーヤーとしても性格もよくわからない選手が多かったんです。
じゃあその選手たちの良さを引き出すためにはどうすればいいかというのは考えました。自分のこれまでの経験とかキャップ数とか考えて、「俺が槙野だ」みたいなアピールの仕方は考えていなかったです。試合まで時間があったので、いろいろコミュニケーションを取れたというのはありますね」

五輪に出られれば『3大大会』と呼ばれる大会すべてに出場できる
――自分のあこがれのリーダー像とか、どのようなリーダーシップを発揮したいとかはありますか?
槙野「ロシア・ワールドカップでは『観察力』というの意識しました。試合に出られていない選手へのアプローチの仕方とか少し輪に入れていない選手たちへのサポートというのをすごく意識しました。
今回の森保ジャパンでいうと若い選手も多かったですが、自分の同期もたくさんいました。その中で中堅としてのアプローチというのを意識しました。僕より2つ上の青山(敏弘)選手は経験豊富ですが、今回は彼が関わったことのない若い選手が多かったんです。だから、キャプテンを任された青山選手へのアプローチもすごく考えました。あとは元サンフレッチェ広島のスタッフも多くいたので、自分が知っているスタッフもいました。
新しいチームということでみんなが探り探りやっているなかで、僕は選手ともスタッフとも多くの人と距離感が近かったので、選手とスタッフの間に入ってうまくコミュニケーション取れるように意識しました」
――観察しているなかで気づいたことはありますか?
槙野「今回は地震で1試合なくなってしまい、選手の出場機会が限られました。ですので、試合に出られない選手たちに対してのアプローチは意識しました。スターティングメンバーが発表されて、スタメンじゃなかった選手の中には納得していない選手も当然います。そういう選手たちに自分が出られないときにどうやってチームを盛り上げるのかというのは伝えました。今回はスタメンのメンバーより、試合に出られない選手たちにより多くの言葉をかけましたね」
――東京五輪やカタール・ワールドカップについてはどう考えていますか。
槙野「ロシアのときに長友(佑都)選手が『おっさんジャパン』に対して色々と意見していましたが、長友選手が言うように年齢を言い訳にしてプレーしてはいけません。まだまだ若い選手に席をゆずる気は全くないですし、自分はU20ワールドカップとロシア・ワールドカップに出場したので、五輪に出られれば『3大大会』と呼ばれる大会すべてに出場できることになるので、オーバーエージでも出場したいという思いがあります。
僕は北京五輪に選ばれなかったのでその思いは強いです。今回がラストチャンスになりますし、日本で開催する大会ですからね。ただ、それを狙っている選手はたくさんいますよ。ロシア・ワールドカップの打ち上げのときに五輪代表の森保監督にしきりに『よろしくお願いします!』って挨拶していた選手がたくさんいましたから(笑)」
――槙野選手は年齢とともに来る衰えみたいなものが全く感じられません。むしろどんどん良くなっているように感じられます。
槙野「年々、自分がやらなきゃいけないトレーニングを選ぶようにしています。若い頃はテーブルの上に全部並べて、あれもこれも全部やるという感じでした。練習だけでなく食事から何から何まで、やれることを徹底的にやっていました。
今は自分に合うものだけを選んでいます。今までよりストレスなく楽しんでやれているというところがあるので、もしかしたらそれがいい方向に出ているのかもしれませんね。若い頃はみんながやっていないときにあえて、これもやらなきゃあれもやらなきゃとやっていて、逆に疲労が溜まってパフォーマンスが落ちていたということもありました」
――試合のパフォーマンスを見ていると筋力的な数字も若い頃よりむしろ上がっているように見えるときがあります。
槙野「以前は試合が終わった後、体が異常に疲れていたんですよ。でも、今は体より頭が疲れていることのほうが多いですね。今はメリハリをつけて賢くプレーできているのがいいのかもしれません。以前よりもケガする回数も減りましたね。自分の中で危ないと思うところでセーブできるようになりました。昔は勢いでいっちゃうときもありましたから(苦笑)」

夢と目標を持つこと、それが何より大切なこと
――試合の験担ぎなどすることはありますか。
槙野「以前は試合前からいろいろとやっていたんですが、試合前からとなるとやることが多くなりすぎて疲れちゃうんですよ(笑)。今も続けていることが一つあります。試合前日に僕たちのチームはホテルに泊まるのですが、そのホテルの部屋に来たときよりも綺麗にして部屋を出ることと、そこのメモ帳に「ありがとうございます」と書くこと。それだけしかもうやっていませんね。
今回、ロシアのワールドカップでも日本代表のロッカールームが綺麗だったことが有名になりましたが、あれをやろうとスタッフに言ったのは僕なんですよ。ホテルや自分が使った施設への配慮とか、水回りを綺麗にするとかそういうことは常日頃、心がけています。
あと、大谷翔平選手のインタビューを読んだのですが、彼は他人が捨てたゴミでも拾うと。そういう心構えがないとグラウンド上での一つひとつのプレーのミスにも気づけないだろうと」
――人生で今まで一番うれしかったことと、悲しかったことをそれぞれ教えてください。
槙野「一番は親にワールドカップに出場した姿を見せられたことです。槙野少年がずっと親に対してしきりに言い続けていたことだったので。親にはいっぱい迷惑をかけてきましたからね。プロになった姿を見せられたこともそうですが、ロシアまで来てくれていたので、日の丸を背負ってプレーする姿を見せられたことはよかったと思います。
一番つらかったのは自分の恩師であるミハイロ・ペトロヴィッチ監督が解任されたときですね。広島時代と合わせて11年間、一緒に仕事をした人です。自分たちの不甲斐ない結果のせいで5年半努めた浦和レッズの監督を解任されました。あのときは子供みたいに泣きました。人生で一番泣きました。こんなにも泣けることがあるのかというぐらい。解任されたときのラストゲームで僕は退場していたんですよね。そしてその試合に負けて解任だったので、より自分の責任を重く感じました」
――その辛いできごとはどのように乗り換えたのですか。
槙野「ぶっちゃけると、そこで自分の殻が破れたんです。悩んでいたのがスパンと吹っ切れたというか。なんか解放されたというか、そこから自分のプレーもより大胆に表現できるようになりました。本当に辛い出来事だったんですが、いつまでもメソメソしてられないという思いと、これからの自分のプレーで監督に恩返ししたいという思いになりました。ある意味自分のサッカー人生のターニングポイントだったかっもしれません」
――話題を少し変えますが、今回、着てもらったウエアはいかがでしょうか?
槙野「まずこの脱ぎ方ができるのはなかなかないですよね(編集部注:横に引っ張るとファスナーが素早く取れる)。僕らアスリートは早く上を脱ぎたいというのがあるので画期的だと思います。全然力をいれなくても引っ張ればファスナーが取れます。
壊れたかな?って一瞬思うんですが、壊れてないんですよ。本当に簡単に脱げますね。そしてなにより動きやすい。あと最近のアディダスはこういうスタイルを普通に街でも着られるようなデザインになっていると思いますね」
――服のこだわりはありますか?
槙野「僕も最近ちょっとストリートの格好をしたりします。基本はパンツを細身にして上はオーバーサイズというのが好きですね。最近の流行りのスタイルだと思いますが、そういう流行りのスタイルを取り入れているアディダスは僕にもすごく合っていて服を合わせやすいですね。デザインも好きです。今回みたいな体のラインが出るタイトな感じが好きで、かつストレッチが非常に効いているので動きやすいですよね。重くもないし着心地が柔らかい。そういう意味でもこのウエアは使えますよね。普段から着たいです。
最近はプライベートはほぼアディダスなんです。これは贔屓目なしで(笑)。今、アディダスはファッションアイテムをどれもちゃんと流行りに合わせている。だから自分に合うんですよね。自分のインスタグラムに私服をあげると『あ!流行りのアディダス取り入れてますね!』っていうレスが付くんですよ。みんな敏感ですよね」
――アディダスとはファッションの側面でも密接なんですね。では最後に、子供たちへのメッセージをお願いします。
槙野「夢と目標を持つこと。僕みたいに、ちょっとしたきっかけから何十年もサッカーをやることにもあるし、夢を見つけることが大切だと思います。それから、親への感謝を忘れないこと。それに尽きると思います。好きなことを普通にできること、それが必ずしも当たり前のことだとは思わないでほしいですね。自分もやんちゃだったので、心からそう思います」
撮影=薮内努(TAKIBI)/取材・文=MCタツ
浅野祐介/ウォーカープラス編集長
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