ピアニストにして会社役員、2足のわらじの小川理子さんが関西フィルとバレンタインコンサート

関西ウォーカー

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2019年2月4日(月)、大阪市のいずみホールで関西フィルハーモニー管弦楽団による「バレンタインコンサート」が行われる。指揮は関西フィル首席指揮者の藤岡幸夫氏。ガーシュウィンを中心に、クラシックやジャズの演奏を予定しているが、このコンサートのピアニストが異色の存在だ。演奏するのはピアニストであり、パナソニックの現役役員でもある小川理子(りこ、本名はみちこ)さん。東京と大阪を往復するだけでなく海外出張もこなすなど、多忙な毎日を過ごす小川さんだが、仕事とのバランスをとりながら、演奏活動を続けている。すっと伸びた背筋が美しく、その人柄を表すようだ。今回は京都のPanasonic Design Kyotoでインタビューを行った。

ビジネスパーソンとして、ピアニストとして、多忙な毎日を送る小川さんだが、それを感じさせないしなやかさが魅力だ


ピアノの世界から、メディカルエレクトロニクスへ


小川さんは3歳の時からクラシックピアノを始めた。以来、ピアノは続けてきたが「もともと音楽は趣味だった」という。音大を受験するような「厳しいレッスンにはついていけない」と考え、高校生の時には普通の大学を受験しようと決めていた。「最初は医学部に行こうと思って、先生に相談したら医学か法学かどちらかだね、という話になって」と振り返る。医学と法学では方向性が全く違うが小川さんはサイエンスに夢を見出し、自然科学に関心を持って「メディカルエレクトロニクス」を学べる慶応義塾大学を受験。そこで教授にすすめられた研究テーマが「生体リズム」だった。「生体リズムは人間の中の生物の生きるリズムで音楽にも共通するものがあります。すごく面白いテーマに出会えて、会社も音響研究所のある松下電器産業(パナソニック)に就職しました。どういう音を出したら、人間に心地いいか、どうすれば生の音楽のような躍動感や低音を再現できるかなどを研究して、ずっと音と歩んできました」過去にピアノをやっていたことも仕事にプラスに作用した。

「ずっと音楽をやってきていたので、耳が肥えているんです。音のよしあしがすぐ分かって、聞きわけができるので仕事が余計に楽しくなりました」

音楽が救った意気消沈の日々


しかし、仕事が忙しくなるにつれ趣味としていたピアノからは遠ざかっていた。決定的だったのはバブルの崩壊に伴い、組織が解散してしまったこと。意気消沈する日々が続いた。そんな時転機が訪れる。プライベートでジャズのドラマーをしていた上司に、音楽演奏に誘われ、ジャズピアニストとして活動するようになったのだ。仕事と音楽を両立させての音楽活動だったが、仕事にも音楽にもいい影響があった。「仕事をしていることで、以前とは違う観点で音楽に接することができるようになりました。さらに、音楽をするうえで企業で物を作ってお客さまに届けるという、モノづくりのプロセスが役立ちました。音楽もモノづくりの一つ。作り上げる中で、アイデアがあって、コンセプトをみんなで叩いて決裁し、会議を経て販売チャネルを決めるという、モノづくりと同じプロセスを感じる時もあります。組織で仕事を回すには論理が必要ですが、音楽には感性が必要です。でも、大勢の人と作り上げるという意味では、感性+論理的なプロセスが必要です」と、小川さんは音楽とビジネスの共通点を指摘する。

こうして再び音楽の世界に戻った小川さん。1993年ごろからはハーレムストライドスタイル(注1)を中心とした演奏活動を開始。上司らと組んだライブのほか、ソロ活動も行うようになった。東京と大阪で年に1回ずつライブを開催するほか、1997年には初の海外公演も体験。忙しい中ではあったが、音楽にも情熱を傾けた。その中でも印象的だったのが1993年に開催した大阪でのガーシュウィン生誕100年を記念したソロコンサート。

「この時は会場の手配からチケットの印刷、プログラムの構成まですべて一人でやりました。松下幸之助が最初に松下電器をはじめたときのメンバーは3人で、みんな一人何役もやっていました。初めて新聞広告を出したときにはキャッチコピーを書くのにに3日3晩かかったそうです。それだけのベンチャー精神、企業家精神を持って臨んでいたということです。私も、やるのであれば会場を満席にしようと目標を持ち、実際に満席にできました。これは大きな自信につながりました。さらにガーシュウィンの大曲「ラプソディ・イン・ブルー」にもチャレンジしました。会場は大阪のフェニックスホール。フェニックスホールはガラス張りで、向こうに大阪のビル群が見えます。ガーシュウィンなので、ニューヨークの摩天楼をイメージさせるこの会場にしました。こうやってストーリーを作っていくのも楽しみの一つです。ストーリー作りは絶対大切なもので、お客さまにとっての価値につながります。ストーリーがあるからこそ、お客さまに響くものだと思います。技術はその裏に隠れていていい。何かすばらしいものがあって、その裏に技術があればと思います。今までの日本はテクノロジーが支えていましたが、企業でも感性に価値があると考えられる程度に成熟してきたと思います。音楽はもともと成熟した世界です。いかにこれを失わず、次の世代に聞いてもらうかが私の使命であり、オーディオで、いい音で聴いてもらえるかが私たちの挑戦です」パナソニックの老舗オーディオブランド「テクニクス」復活の立役者となった小川さんらしい言葉だ。

昨年、いずみホールで開催されたMeet the Classic Vol.35の演奏風景。中央でピアノを弾くのが小川さん©HIKAWA


多忙な日々に、段取り力がモノを言う


仕事と音楽。まるで両極にある2つが融合するのも、感性豊かな小川さんならではだろう。しかし、時には2週間もの海外出張がある多忙な毎日を過ごしている。

「やっぱり一番大変なのは時間の使い方。音楽に割ける時間は限られているので集中力を高める、つまり気力、体力を高める必要があります。健康でなければやっていけません。悩みは自分の中で判断しながら、ポジティブに楽しく過ごしています。運動が好きなので、ジョギングやトレッキングなどで努めて体を動かすようにもしています。ピアノは早朝に起きて、電子ピアノでヘッドホンを使い、音に気をつけて練習しています。時間の使い方は段取り力が重要。限られた時間の中でいろんな家事を並行してこなすなど、段取り力は女性の方があると思うんですよ」

言葉を一つ一つ選びながら、にこやかに語る小川さん。言葉の端々に、ビジネスパーソンとしての分析的で論理的な考え方と、アーティストとしての豊かな感性の両方を感じさせる。

ジャズ好きにも、クラシック好きにも楽しめるコンサート


小川さんと関西フィルの首席指揮者・藤岡幸夫さんとの出会いは2012年にさかのぼる。東京と大阪でのライブが恒例化し、演奏にも円熟みが加わってきたころ、銀座で開かれた小川さんのライブを藤岡さんがお忍びで訪れていた。その後「一緒にやりましょう」と誘われたという。だが、実は二人の縁はこれが最初ではなかった。実は同じ大学で、同い年でもある。「でも、大学時代は出会ってないんです。理学部の共通の知り合いを通じて藤岡さんが私のことを知り、演奏を聴きに来られたそうです。こんな風に演奏を聴きに来られるなど、藤岡さんはとても行動力のある方。しかもみんなを暖かく受け入れてくれる懐の深い方です。一緒に演奏させていただけるのがとても楽しみです」

客席の喝采に応える小川さん。指揮の藤岡 幸夫氏とのコラボも次回が3回目。ますます息の合った演奏が期待できる©HIKAWA


小川さんと関西フィルの3度目のコラボはバレンタインコンサート。「3回目で、今までと違う世界を見ることができるかな、と期待しています。関西フィルとしてはチャレンジングなプログラムではないかと思います。クラシックとジャズのラグタイムを中心に聞いていただきます。ジャズ好きの人もクラシックに近づけて、クラシックの愛好家でもジャズに近づける、そんなコンサートで楽しんでいただければ」と今回のコンサートにかけるメッセージを語って締めくくった。

<小川理子(おがわ りこ、本名はみちこ)さんプロフィール>

大阪市生まれ。慶應義塾大学理工学部卒業後、松下電器産業(現パナソニック)入社。大学時代の専攻の生体電子工学を生かし、音響研究所で音響心理を基礎とした音響機器の開発や事業推進に携わる。現在、同社執行役員、アプライアンス社副社長、技術担当(兼)技術本部長、テクニクス事業推進室長。3歳からクラシックピアノを始め、大学時代からジャズ演奏を開始。1993年から演奏活動を始め、1997年には初の海外公演も。2003年の全米リリースCDは英国ジャズジャーナル誌の批評家投票で第1位を獲得。そのほかCDを多数リリース。2014年8月、関西フィルハーモニーとガーシュウィンを共演。同年9月にはパナソニックの高級オーディオブランド・テクニクス復活を総指揮した。2018年10月11日は通算15本目にあたる新アルバム「Balluchon」をウルトラアートレコードよりリリース。2018年に生誕120年を迎えたジョージ・ガーシュウィン作品と、2019年に生誕120周年を迎えるデューク・エリントン作品を中心に、名曲を収録。盤石なピアノテクニックをベースにした、疾走感、グルーヴ感あふれる演奏が聴ける。

(注1)1910年以降に現れたソロのジャズピアノスタイルで、1920年代ごろにニューヨークハーレムで盛んになったことから、こう呼ばれる。激しいストライドベースを左手で形成しながら、和声的な効果を生み出す。

鳴川和代

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