実体験がベースの「誰にでも起こりうる話」 原日出子&木竜麻生&野尻克己監督「鈴木家の嘘」インタビュー
関西ウォーカー
引きこもりだった長男が突然亡くなったことへのショックで記憶を失ってしまった母のために、父と長女が兄の死を隠す嘘をつく。母の笑顔を守るための優しい嘘をめぐる家族の再生をユーモアに描いた映画「鈴木家の嘘」。橋口亮輔、石井裕也、大森立嗣などの助監督を務めた野尻克己が自らの実体験をベースに脚本と監督を担当し、その脚本に魅せられた豪華キャストが集結。今回はキャストの原日出子、木竜麻生、そして本作がデビュー作となった野尻克己監督に話を伺った。

映画「鈴木家の嘘」は引きこもりだった長男・浩一が突然亡くなり、そのショックから記憶を失った母・悠子の笑顔を守るために、父・幸男と長女・富美が「仕事でアルゼンチンに行った」と嘘をついたことから始まるヒューマンドラマ。随所に散りばめられたユーモアが暗くなりがちな題材を喜劇へと昇華させている。父・幸男役を岸部一徳、母・悠子役を原日出子、長男・浩一役を加瀬亮、長女・富美役を木竜麻生が鈴木家を演じ、岸本加世子や大森南朋らが脇を固めている。第31回東京国際映画祭では日本映画スプラッシュ部門「作品賞」と、若手俳優に贈られる「東京ジェムストーン賞」(木竜麻生)を受賞した。

ー最初に野尻監督が手掛けた脚本を読んだときの感想を教えてください。
原「まず仮の台本を読ませていただいたんですけど、最初から完成度の高さを感じました。仮の台本を読んだときから、これはきっと面白い映画になると思いました」
木竜「私も最初は富美のシーンが入った台本を先に読ませてもらったんですけど、そのときから登場人物全員が愛おしくて、それぞれの背景がきちんと見える素晴らしい脚本だなと思いました」
野尻監督「僕は脚本は俳優とスタッフへのラブレターだと思っているので、こちらの『熱』が伝わるように一言一言気をつけて書いています。やっぱり、みなさんが『面白い』って言ってくださったのが一番嬉しかったです。

ー本作は野尻監督の実体験がベースになっていますが、演出面などで意識したことはありますか?
野尻監督「よくある(家族の)シチュエーションではないと思います。ただ、家族を失うということに関しては、どんな家族も同じだと思います。小さく閉ざした映画にしたくはなかった。みんなに届く映画にしたいと思っていました。」
原「私も早くに姉を亡くしていて、そのときの母親の様子をよく覚えています。珍しいかもしれないですが、どの家族にも起こりうることなので、自分の息子が死んだと思って挑みました」
木竜「家族全員が何かを背負っていて、そこを表現する難しさはあったと思います。でも、その難しさも含めて鈴木家の一員だと思って現場に入れたことで助けられたところがあります」
野尻監督「家族に対して素直になれないという人はたくさんいると思うんです。日本って『家族は仲が良いもの』という社会的通念があるように思えるけど、僕は誰かが作り出した家族ではなくリアルな家族を前々から描きたかったんです」

ー劇中では原さんと木竜さんが本当の親子に見えるシーンがたくさんあります。中でも台所で食器を洗うシーンは親子のリアルな姿を感じました。
原「クランクインしたときから、木竜さんはしばらく自分の子だという感覚でした。母親と娘って女同士だし分かり合えているようだけど、ちょっと油断していますよね。母親は娘の気持ちをちゃんとすくってあげられていないことが多くてお兄ちゃんの方ばっかりに気がいって、妹が今どんな気持ちでいるかに関心が薄れていく。台所のシーンではその感じがすごくリアルに出ています。私にも息子と娘がいて、どちらからも、いろんなクレームがくるので非常によくわかります(笑)」
木竜「原さんは私にとって大先輩でありながらもお母さん。だから安心できたし、遠慮なく思いっきりやらせてもらいました。私も台所のシーンがすごく好きです。あのシーンだけでも家族のひとつの姿が丁寧に描かれていて、観ている人も自然と感じられるようになっていると思います」
原「表面は仲が良いけれど、相手の感情をまったく顧みないでグサッと刺さるようなことを言うのって親子なら絶対ありますよね。言われた方はすごく傷ついているのに、言った方は覚えてない(笑)。残酷だけどリアルですよね」
ー確かに、日本のドラマや映画で家族を描くときって、意外とベタベタしがちに思えます。
野尻監督「普段の生活であまり目を合わさずに話しているときって多いのに、映画ではあまり見たことがないなと。大事だから向き合いたくないときもありますよね。そこは自分が見てきたリアルな人間関係を描きたいと思っていました」
原「お芝居だと相手に顔を向けて話すけど、実生活において大事な話って意外と何かをしながらとか、おろそかに聞いたりしますよね」

ー母の笑顔を守るために嘘を貫こうと、まとまっていく家族がユニークですね。嘘の着想はどこからきたものですか?
野尻監督「兄のことを話すと相手が引くことがあるのでなかなか話せなくてたまに嘘をついたりしていました。脚本を書く上でも自死遺族の方に取材をしたんですけど『息子は海外で働いています』とか思わず嘘をつく人って多いんですよね。説明するのも面倒だし、自分も罪悪感も感じている。嘘は一番早く終わるので、そこから着想を得ました」
ー木竜さんが演じた富美のモデルは野尻監督ということになりますが、木竜さんは特に後半で徐々に思いをさらけ出すなど難しかった部分もあったかと思います。
木竜「富美が家族と接するシーンは、ワークショップのときから野尻監督と話をしながら大事にやっていました。その時間がすごく充実していて、私自身、家族や身近な人に対してこれまでどんな風に接してきたのかを野尻監督に全部正直に話していました。あとは、脚本に沿って順番に撮影していたので、気持ちが動きながら後半に向かっていけたのは大きくて、出来事を実感しながら演じることができたと思います」

ー普段の木竜さんはどんな感じの人ですか?
木竜「すごく明るい陽気な人間かと言われるとわからないですけど(笑)」
野尻監督「根暗ですもんね」
木竜「そうなんです。バラされた(笑)」
野尻監督「木竜さんは自分と向き合う芝居をちゃんとやってくれる。だから浮ついた芝居をしない。自分から出てくるものをちゃんと待っているんです。ゆっくりかもしれないけれど坂道を着実に上がっているような感じがします」

ー最後に野尻監督からメッセージをお願いします。
野尻監督「みんなが家族のそれぞれの立場で見て楽しんでもらえる家族映画になったかなと。鈴木家は自分に正直で、悲しみの受け止め方、生き方が下手です。はたで見ていると思わず笑ってしまう。でも、人間は正直に生きる方がとても楽だし健康にいいと思っています。僕は、人間は苦しみや後悔を抱えたままでもいいんじゃないかって思っています。家族って厄介でなかなか切り離せない存在。でも周りを見渡せば友達にだって厄介な人はいる。家族って重く捉えがちですけど、ちょっとだけ重い荷物が増えたと思って背負っていけばいいのかなって。僕自身、映画を撮り終わって、背負っていく気持ちが少し湧きました。でも、そう思えただけでも結構前向きな気持ちになれたのかなって思っている。『鈴木家の嘘』は、今を生きていく人間の映画になったと思っています」
山根翼
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