ムエタイで”地獄”を生き抜いた男! 刑務所最狂...。絶対、タイで悪さはしません<連載/ウワサの映画 Vol.62>

東海ウォーカー

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あぁ、本気でしんどかった…、イギリス人ボクサーの実話を映画化した「暁に祈れ」。タイの刑務所の実態を映す弱肉強食の極限世界が、想像を超えるボディブロー効果なのよ…。主人公のアウトローっぷりも激しいもんだから、過剰な共感や同情に邪魔されず、善悪の次元での思考も停止。ひたすら”観て受け止める”ことに集中させる、意外にもぜいたくな映像体験です!

タイを含め15年の服役経験をもつビリー・ムーアの自伝ベストセラー小説が原作。監督はリベリアの少年兵を描いた「ジョニー・マッド・ドッグ」のジャン=ステファーヌ・ソヴェールです© 2017 - Meridian Entertainment - Senorita Films SAS


主人公は、人生の再スタートを切ろうとタイにやって来た、イギリス人ボクサーのビリー・ムーア(ジョー・コール)。しかし彼は、自堕落な生活を送るうちに麻薬中毒に。ある日、警察から家宅捜索を受けたビリーは逮捕され、悪名高いチェンマイの刑務所に収監されてしまいます。そこはレイプ、殺人、汚職が横行するこの世の地獄のような場所! 死と隣合わせの日々を過ごすビリーでしたが、所内で活動する「ムエタイチーム」との出会いが彼を変えていきます。レディボーイのフェイムとひと時の恋に落ち、外国人選手として初めて刑務所内で行われる全国大会への出場も決定。しかし、彼の肉体は長年の不摂生により蝕まれ、さらに牢名主・ゲンがファイトマネーを目当てに借金の取り立てにやってくる…。戦わなければ命はない状況の中、大会当日、ビリーは全てを賭けてリングに立つのですが…。

面前払いされるも必死になって食い下がり、ムエタイチームの一員になったビリー。別人のように練習に励み、チームメイトとも打ち解け、ムエタイの技と精神を学んでいきます©2017 - Meridian Entertainment - Senorita Films SAS


売店などでの特別活動を命じられている、レディボーイ(男性から女性に性転換した人)の囚人・フェイム(左)。荒む一方のビリーでしたが、フェイムから束の間の安らぎを得るのでした©2017 - Meridian Entertainment - Senorita Films SAS


リアリティへのこだわりこそが本作の勝因! 主要キャストを除く出演者は、元囚人(ほとんどが殺人か麻薬所持で10~20年の刑期)やムエタイの世界チャンピオンたち。彼らが本物の刑務所に集結して撮影してるんです。すし詰め状態の監獄で汗ベッタベタの体を密着させて眠る囚人たち、再出発の機会を自ら葬るかのように刑務所でタトゥーを入れまくる囚人たち(演者のタトゥーは自前!)…、すべてが実録。レイプされたりで自殺者も出る修羅場を、中庭の仏像(セットじゃないよ)が見守る光景がシュールすぎるわー。そんな中で、不良の更生手段となるなど社会的役割も大きいムエタイが、スペシャルな”光”キャラになってます。

ケンカに巻き込まれ、独房を経由し、凶悪な囚人が集う監房(写真)に入るビリー。お次は看守から入手したヘロインのせいで再び独房行きに。その後、ついにボクサーの監房へ…!© 2017 - Meridian Entertainment - Senorita Films SAS


外国人が異国で刑務所送りになる…、よりによってタイで(泣)。 言葉がわからないからルールもわからず、人間扱いもされない…。字幕の少なさや、生死の境で研ぎ澄まされる感覚にフォーカスした演出(特に音響)が、そんな不安と恐怖を最大級にあおってきます。視線や身体から実体験の重みを発散してる元囚人陣も迫力あるし、もう、観てるだけで疲労困憊…。

刑務所で麻薬中毒が悪化するとか、刑務所で3人殺して刑期が延びるとか…。ありえない無法地帯ぶりに「いったいどうなってんの…、タイのムショ!?」の連続です© 2017 - Meridian Entertainment - Senorita Films SAS


我々にビリーの”ギリギリ感”を体験させるジョー・コール君の、ドキュメント調の展開を飽きさないパフォーマンスも見事! くすんだ世界で異質感を放つ生白くて強靭な肉体、碧くうるんだ瞳、紅い唇…。セリフも少ない中、”存在”そのもので勝負してる。役柄と同じくアウェイな撮影現場で ”この役を生きた”ような感情&肉体の変化は、終盤の壮絶なファイト・シーンに結実! 残虐さと脆さを抱えるビリーの矛盾に胸が潰れるかと思った。久々のサンドバックに何かをぶちまけてすがる姿は、ズルいくらいに人間味にあふれてたなー。

何か月もかけて肉体改造に励み、30日間にわたる撮影に挑んだジョー君。狂犬みたいな野性が、妙にセクシーでたまらんっ。一瞬ヴィン・ディーゼルに見えちゃったのは私だけ…?© 2017 - Meridian Entertainment - Senorita Films SAS


タイで闇社会のボクシング試合に参加し、稼ぎはすべてヘロインとヤーバー(タイのドラッグ)につぎ込んでいたビリー。麻薬経験者が再出発の地にタイを選ぶって…、どうよ!? © 2017 - Meridian Entertainment - Senorita Films SAS


お経が響く導入シーンの厳粛さとは正反対の、衝撃的なタイの混沌…。神秘性をも宿した世界観を、ぜひ”本能”で味わってほしい。ラスト数秒、ビリー・ムーアご本人の意味深な役での登場に米粒みたいな希望を感じ、米粒程度は心が軽くなった(笑)。とにもかくにも…、タイで捕まるのだけはゴメンだわ。【東海ウォーカー】

【映画ライター/おおまえ】年間200本以上の映画を鑑賞。ジャンル問わず鑑賞するが、駄作にはクソっ!っとポップコーンを投げつける、という辛口な部分も。そんなライターが、良いも悪いも、最新映画をレビューします!  最近のお気に入りは「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」(12月28日公開)の三浦春馬!

おおまえ

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