”現代の難民”に重ねる”ナチスによる迫害”。ドイツの名匠の大胆設定に驚く秀作<連載/ウワサの映画 Vol.67>
東海ウォーカー
「これ、いつの時代の話だっけ?」と、開始2分ほどテンパった「未来を乗り換えた男」。”ナチスによる迫害の史実を、現在起きている事として描いた”っていう、かなりチャレンジングな設定だったのよ! ミヒャエル・ハネケ監督作「ハッピーエンド」のフランツ・ロゴフスキと、フランソワ・オゾン監督作「婚約者の友人」のパウラ・ベーア。私が敬愛する監督たちも太鼓判を押す、ドイツの若手俳優2人の存在感が光ってたなー。このパラレルワールドに迷い込んだような感覚...、初体験でした!

舞台は現代のフランス。祖国ドイツで吹き荒れるファシズムを逃れてきた元レジスタンスの青年ゲオルク(フランツ・ロゴフスキ)は、ドイツ軍に占領されつつあるパリを脱出し、南部の港町マルセイユに辿り着きました。行き場をなくした彼は、偶然の成り行きで、パリのホテルで自殺した亡命作家ヴァイデルになりすまし、船でメキシコへ発とうと思い立ちます。そんな時、一心不乱に夫を探している黒いコート姿の女性と巡り合ったゲオルク。美しくミステリアスな彼女に心を奪われていきますが、それは決して許されない恋だった…! その女性・マリー(パウラ・ベーア)が捜索中の夫とは、ゲオルクがなりすましているヴァイデルだったのでした…。


東西冷戦下の東ドイツの女医を描く「東ベルリンから来た女」、ホロコーストを生き延びたユダヤ人女性を描く「あの日のように抱きしめて」で知られるクリスティアン・ペッツォルト監督。彼が今回映画化したのは、ドイツ人作家アンナ・ゼーガースが1942年に亡命先で執筆した「Transit」です。小説の舞台を現代に置き換え、”ナチスによるユダヤ人迫害の悲劇”と”現代の深刻な難民問題”を独創的に交錯させています。「祖国を追われた人々は、進路も退路も断たれ孤立する中で、どう希望を見出し生きるのか?」を探求し、謎解きのスリルに満ちたサスペンスフルな人間模様を描出。オチも好み~。

自殺した作家になりすます男と、捨てた夫の死を知らずに夫を探し回る作家の妻。運命のいたずらで出会った、共に罪悪感を抱える2人の男女...。国外脱出のタイムリミットが迫る緊迫の状況下で繰り広げられる恋と情のドタバタに、「逃亡できるのに何やってんだよ、ゲオルク!」と第三者としては突っ込みたいっ。けれど、彼の”揺れ”こそが人間の本質なのだとハッとさせられるのです。ドイツのホアキン・フェニックスことフランツ君、味がありすぎます! そしてパウラちゃんも、まだ23歳ながら妖艶で危うくて実にキュート。夫を愛してるらしいが、医者と付き合ってるしゲオルクともいい仲になるし、いちいち優柔不断(笑)。徐々に明らかになる複雑キャラにイラッとしつつも、結局は愛しいのよね。


世界中に難民があふれる今、ファシズムやナショナリズムの再台頭には絶妙な説得力がありましたね。現代のパリで発せられる「ファシストが迫ってる。マルセイユならまだ安全だから急がなきゃ」というセリフにも切迫感がある。”過去に見た過去の話だ”で片付けられがちな決定的な演出を避け、現実性をほのめかせるさじ加減が見事!

主人公が、死んだレジスタンス仲間の家族を訪れ、故郷の歌を口ずさむシーンに泣けちゃった。どこか寓話的なナレーションが導く逃避行に、登場人物の心象を想像しながら自分も同行している気分になって...。市井の人々が辿る数奇な運命こそが、歴史を形作るのだと気付かされた!【東海ウォーカー】
【映画ライター/おおまえ】年間200本以上の映画を鑑賞。ジャンル問わず鑑賞するが、駄作にはクソっ!っとポップコーンを投げつける、という辛口な部分も。そんなライターが、良いも悪いも、最新映画をレビューします! 最近のお気に入りは「ジュリアン」の(1月25日公開)グザヴィエ・ルグラン監督!
おおまえ
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